いつも後ろ姿でした



さっきから周りの視線が痛い。
これはあれやな。
絶対バレてる。
帽子してサングラスしても俺らバレてる。
だから嫌やってん。
絶対バレるって言うたやん。
男向けのお店ならまだしも、ここ、女向けの靴屋やで!?

「うーん、決まらん!」
「望はよして。喉渇いた、カフェ行きたい」
「待って、全然決まらへんねん」

壁一面に並んだカラフルな靴。
それなりに高級店やから周りの女性たちは話しかけてこうへん。
それだけが救いやな。
ずっとうんうん唸ってる望とは対照的に、流星は椅子に座って長い脚を組んだまま近くのカフェを検索し始めた。

「流星、どれがええと思う?」
「どれでも絶対可愛い」
「そういうことちゃうねん!」
「はまちゃんにも聞いたら?」
「はまちゃんはええや。センス微妙やもん」
「はあ?何言うてんねん。センスあるわ」
「店員さーん!1番人気はどれですかー?」
「俺にも聞いてくれや!」

俺のセンスもちょっとは信用してほしいわ。
クスクス笑ってる店員さんは俺らのことを知ってくださってるのか、詳しいことを言わなくても何足か候補を並べてくれる。

「これはどうですか?望月さんが雑誌で履いてた靴に似てますよ?」
「あー、ええかも。可愛い」
「望月さんは脚が長いので、こっちのタイプも似合うと思います。あとこれはどうですか?メンバーカラーと同じ空色です」
「もしかしてあれですか?僕らのこと知ってます?」
「もちろんです!」
「えー!嬉しい!誰担?」
「重岡くんが好きです」
「うわー、ごめんなさいね、しげおらんわ」
「呼ぶ?」
「ドラマ中やろ」

やっぱりこの店員さんはジャスミンか。
並べられた靴はどれも真夏に似合いそうやから、俺らのこと相当見てくれてる人や。
ありがたいな。
出される靴は全部真夏が好きそう。
だから余計に望が頭抱えてる。

「……あれ?」

鏡の前に並べられた6足は全部高いヒール。
履いたことないから知らへんけど、こんなん履いたらピッと背筋が伸びそうや。
そっか。
望にも世間にも、真夏はこんな風に見えてるんやな。
俺らはみんな身長が高いから、真夏が普通に並んだらそこだけ凹むのは変えられへん事実や。
どうしようもないことやし、俺らがそれに関してなにかを言うこともない。
ファンの子達から何かを言われたこともないと思う。
言われたって落ち込む性格やないし、俺らが許さへん。
だから、ヒールに拘るのは真夏の意地や。
高さが揃ってる方がかっこええ、自分のところで凹ませるわけにはいかへんっていう、ただの意地や。
店員さんが勧める靴も望が悩む靴も、全部ヒールが高い。
きっと、真夏はそう見えてるんやな。

「望、これは?」
「えー、それはないやろ。ヒールないし低いやん」

望も流星もしげも、同期の神ちゃんでさえヒールが高い靴を選ぶんやろうな。
淳太やってきっとヒールや。
100点を狙う真夏はいつだって背筋を伸ばす。
照史はどこまで気づいてるんかな。
知ってるのは俺だけかもしれへん。
真夏は低いパンプスと歩きやすいスニーカーも大好きで、プライベートではそればっかり履いてる。
真夏にも、スッと伸びた背筋から力を抜くときがある。
それはきっと、親友の俺の前だけかもしれへん。

「よし!これにするわ!プレゼント用に包んでください!」
「やっと決まった。カフェ行こう」
「ほんまにこれでええの?」
「これ絶対真夏に似合う。見て?後ろから見たらめっちゃかっこええやん」

モードなデザインにまっすぐ伸びたヒール。
これを履いた真夏の後ろ姿が簡単に想像できる。
望のセンスは間違いない。
絶対に似合う。
『真夏はヒールない靴も好きやで』って言葉を飲み込んだ。
真夏が見せたい、望や流星たちが見てる彼女の背中は、こんな風にまっすぐシャンと伸びている。


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