あまったるい銃弾



のんちゃんがファッション雑誌の表紙を飾ることになった。
巻頭特集も組まれる。
そこまでは真夏の顔が笑顔やったんやけど、マネージャーの次の言葉で顔が曇る。

「え?私が一緒に載るん?」
「そうなんです。今回の特集が『最強のお揃いコーデ』で、相手役がいるんですよ」
「それ大丈夫?私小瀧とカップル感出せる自信ないねんけど」
「真夏にしては弱気やな」
「ともだって分かってるやん。私と小瀧にカップル感感じたことある?」
「ないけど、2人揃ったら顔面最強やと思うで」
「それはツインタワーを褒めるときに使うワードや」
「特集の趣旨はお揃いコーデなので、カップル感はなくても大丈夫です。2人で仲良く映画見たりとかフェス行ったりとか、お家デートしたりとか」
「デートしてもうてるやん」
「不満なん?」
「やるなら全力でやるけど、全力の出し方を迷ってるだけ」

真夏の言葉にマネージャーは首を傾げたけど、言うてることは理解できる。
グループに1人女の子がいれば時に恋人感を求められることもある。
期待や批判がある中で、いつだって真夏はその想像を超えてきた。
今回だって超えてやるって思ってるやろうけど、のんちゃんと真夏から恋人感が漂ってたことはない。

「まあでも大丈夫ちゃう?なあ、のんちゃん」

ソファに座ってスマホ触ってたのんちゃんは顔も上げずに『んー』って声を漏らした。
そんなあからさまにどうでもええって態度取って。
真夏が怒るで。

「小瀧、なんで他人事みたいな態度やねん」
「真夏がなにを不安に思ってるんかわからん」
「不安やってこれは」
「なんで?真夏やってモデルやってるやん。いつも通りで大丈夫やろ」
「いつも通りって…、私がいつも出させてもらってる雑誌は相手役おらんの」
「ふーん」

あーあ、真夏のイライラボルテージが上がってきたで。
ここで喧嘩せんといてよー。
真夏の声色の変化に気付いたのか、やっとのんちゃんがスマホから視線を外した。

「この企画の相手役、俺が選んでええって言われたんよ」
「え、そうなん?」
「スタッフさんに相談されて、真夏にしてくださいーって言った」
「なんでや。小瀧だって私とはカップル感ないって分かってるやん」
「しゃあないやん」

こてんって首を傾げて目尻が下がる。
とろけるような視線が真夏を真っ直ぐに見て、掠れた声で放たれたあまったるい銃弾は、ものすごいスピードで真夏を襲った。

「一番可愛い人を選んでほしいって言われたんやもん」
「な、」
「俺の周りにおる人で、一番可愛い人が真夏やったからしゃあない。文句言わんと相手役やってや」

これは珍しいで。
のんちゃんの言葉で照れてる真夏も、それ見てニヤニヤしてるのんちゃんも、滅多に見られへん。
ストレートに告げられた言葉に顔赤くして、なぜか俺を睨んだ。

「小瀧がなんか変なもの食べた!!!」
「なんで!?素直に喜べや!」

あたふたする様子を見てさらににやけるうちの最年少。
してやったりの顔がもっと真夏をイラつかせるけど、全力で照れてるからなんにも怖くない。
前の仕事が終わって楽屋に入ってきた淳太が不思議そうに首を傾げた。

「なに?またしげの雑誌かなんか?」
「今回は珍しくのんちゃん」
「へー、珍しい」

ニヤニヤしてる望の肩をバシッと叩いたけど、すぐにマネージャーさんにOKの返事をしてた。


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