一目惚れの法則



「うわあ!」
「おお…!」

歓喜と感嘆の声。
お世話になったスタッフさんから差し入れてもらった箱の中にはキラキラ輝くケーキが8つ。
ぶわっと広がった甘い香りに頬を緩ませたのは望と真夏で、俺が視線を向けた照史はスマホから一瞬視線を離しただけやった。
甘いもの苦手やから答えは知ってるけど、一応聞こう。

「照史、いる?」
「いただきもんやから食べる。真夏!1番甘くないやつ残しといて!」
「あかん!じゃんけん!」
「俺苦手やねんって。知ってるやん」
「関係ないわ!」
「ええやん別に。はい、照史これなら大丈夫そうやで」
「ありがとう」
「はまちゃん、そっちにあるフォーク照史に渡してー」
「はいはーい」

本番が始まるまであと少し。
このタイミングでの甘いものはほんまに有難いな。
やる気も出てくるで。
真夏がフルーツタルトに手を伸ばした時、望の目がギラって光った。

「私こ、」
「あかん!」
「え、なに?」
「俺もそれがいい!」

あ、嫌な予感。

「他にもいっぱいあるやん」
「俺は箱開けた時からそれが良かってんもん」
「嫌。私はこの子に一目惚れしたんよ」
「俺のが絶対好きやし」
「私の方が絶対美味しく食べられる」
「は?関係ないやろ」
「喧嘩せんと半分こしたら?」
「それは嫌や!負けたみたいやん!」
「なんの勝負してん」

長身の望がじっと真夏を見下ろしてるのに全く動じてない真夏はさらに強い眼光で睨み返した。
2人の間にバチバチ火花が見えるで。

「俺はこれが食べたいの!」
「小瀧、年功序列って知ってる?私のが年上やろ?先輩やし」
「その手出してくるん?汚いわ!」
「一目惚れしたこの子を守るためだったらなんでもやるわ」
「……年下に優しくないから後輩に怖がられるんちゃうん?」
「はあ!?」
「望、それ言うたらあかんって」
「真夏ちゃん、傷ついちゃうでー」
「この前も大吾と大橋に怖がられてたんやから」
「傷ついてへんし!!!怖がられてもないし!!!」

絶対傷ついてるし怖がられてるやん。
望の一言がトリガーになって真夏が完全にキレた。
たかがケーキ、されどケーキ。
2人のにらみ合いはまだ続きそう。

「じゃんけんしようや!」
「嫌や!俺のもんや!」
「自分さっきじゃんけん言うてたやん!」
「俺が一目惚れしたんや!」
「うるさいなー、どっちでもええやん」
「はまちゃんどれにするー?」
「え?」

俺の目の前には神ちゃんによって救出されたケーキたち。
全部美味しそうやけど2人が争ってるケーキは喧嘩するのも頷けるほど輝いてた。
それだけを残して、神ちゃんがお皿に取り分けてくれる。

「あれ、いつまで待ってても決まらへんから先に好きなの選ぼうや」
「あー、そうやな。俺これ」
「淳太は?」
「これ」
「しげと流星は?」
「後で食べるから置いといて。なんでもええよ」
「神ちゃんと同じやつないん?」
「ない。全部違う種類や」
「じゃあシュークリームちょうだい」
「やめときって!太るで!」
「余計なお世話ですー!この後ダンスリハあるから余裕やし!」
「ほんまにやめとき!先週より太ったんちゃう?」
「望は痩せすぎて頬こけてんで?こんな小さいケーキより高カロリーなステーキとか食べた方がええんちゃう?」
「何言うて、」
「のんちゃん、それ真夏にあげて」

終わりがないと思ってた言い争いは神ちゃんの一言で完結しそうな雰囲気。
あ、俺のケーキめっちゃ美味いな。

「えー!?嫌や!」
「こっちの方がのんちゃん好きそうやで」
「え、うーん、そうなんかなー」
「なんなら俺のちょっとあげるし。一目惚れした真夏に勝つんは無理やって。1回好きになったら絶対離さへんやん」
「…真夏に負けたわけちゃうから。神ちゃんに免じて許したる」
「…なんか、大人気ないな。あほみたいや。小瀧、半分こしよう」
「せやな。半分こしよう。喧嘩するん疲れた。はまちゃん!フォーク取って!」
「はいはい」

やっと静かになって楽屋にホッとした雰囲気が漂う。
やっぱり神ちゃんは真夏のことわかってるな。
そうか、真夏は一目惚れしたり好きになったりしたら離さへんのか。
たしかに頑固やもんな。
1回決めたことはやり通すし、途中で投げ出したりせえへん。
っは!

「だから照史がそうなや!」
「は?俺?なんの話?」
「はまちゃん、急に話し出す癖やめや」
「なんの話か全然わからん」

ええー、なんでや?
俺の中では話通じてんけどな。
1回好きになったら絶対離さへんって、そういうことやろ?
だから照史の傍におるんやろ?
なあ?って顔で真夏を見たのに、当の本人は幸せそうにケーキ食べとった。



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