熟れすぎ片想い



1年で一番俺を悩ませる大きな問題。

「真夏、誕生日なに欲しい?」

サプライズで何かを贈る、なんて関係はとうに過ぎた。
メンバーだけでも俺を除いて6人、それに先輩後輩友達を合わせたらいくつ誕生日プレゼント貰うんかわからへん。
何が欲しいか聞くのが一番ええって気づいてからは毎年聞いてるけど、今年はなんやろ。

「誕生日?うーん、物欲ないしな。なんにもいらん」
「一番困る答えやわ。あれは?ええドライヤー欲しい言うてなかった?」
「それ淳太くんに貰う予定やねん」
「先越された……。服は!?」
「流星がおしゃれなワンピースくれる」
「去年キャップあげたやん?今年も別のキャップあげようか?」
「去年のやつめちゃくちゃ気に入ってるから」
「えー、じゃあなに欲しい?」
「……物じゃなくてもええ?」
「ええよ。ごはんでも行く?」
「ごはんかあー」

俺も真夏も美味しいもの好きやし、ええとこ連れてったろうかな。
真夏はお酒も好きやからお酒も美味しいところで。
そういえば、横山くんに教えてもらった美味しい焼き鳥屋さんが、

「3つお願いきいてくれへん?物じゃなくてそれが嬉しい」
「え?」
「1つ目のお願い。誕生日、メンバーで仕事やん?帰りは照史の車で送ってや」
「送るって、どこまで?」
「私の家まで。ありがたいことにいっぱいプレゼント貰うやろうし、持って帰るの大変やん」
「ええけど…」
「約束やで?」

焼き鳥屋さんを予約しようとしてた手からスマホが滑り落ちそうになる。
ふふって嬉しそうに笑って楽屋を出て行った。
真夏から家に誘うなんてほんまに珍しいどころか滅多にない。
なにもない、わけないやんな?
無意識に緩む口元を無理矢理引き上げた。





って話したのが2週間前の話。
誕生日当日。
メンバーと一緒に仕事やったから盛大にお祝いしてもらって、ケーキをお腹いっぱい食べた真夏は満足そうに助手席に腰掛けてた。

「お、We are WEST?」
「そう、運転してる時に聞くとテンションあがんねんな」
「私も好き」

ゆっくりとテレビ局を出た俺の車はナビに従って真夏の家へ向かってる。
行ったことはほとんどない。
仕事終わりに送りの車が一緒やった時に寄ったり、真夏がほんまにべろべろになって歩けへん時に玄関まで送ったり、ほんまにそれくらい。
あかん、手汗やばい。
いつも握ってるハンドルやのに、違う車みたいや。
俺がそんな緊張してんのに、真夏は楽しそうに歌を口ずさんでた。
セキュリティばっちりのマンションの駐車場へ入ってゆっくりバックする。
助手席のシートに手を置いて身体を捻ったら、真夏とバチって目が合ったもうた。

「ん?」
「いや、えっと、なんもない…」

暗くても分かる。
今、期待した顔した。
気づいてるけど、あえて何もせずに視線を外した。
言葉で聞きたい。

「…マルチにできる才能が憎い」
「なんの話?」
「…別に」
「真夏って、結構女の子やんな」
「どういう意味?」
「ベタな少女漫画とか好きやん」
「そんなことないし。ジャンプめっちゃ読むし。ヒーローになりたい、っ!?」

身体を捻ったままぐっと顔を近づければ俺のシートベルトがガチャって音を立てる。
唇が触れそうになった瞬間、流星から貰ったプレゼントの紙袋が俺の口にガって当たった。
期待した顔の裏で思ってることを口に出して欲しかったんやけど、まだあかんかったみたいや。

「せ、セーフ」
「痛いな!なんでセーフやねん!」
「運転中!あとここは嫌!」
「今タイミングやったやん」
「私先に降りる!荷物お願いします!ありがとう!」
「律儀……」

バンって強くドアを閉めるのは躊躇ったんか、ゆっくりドアを閉めて車外へ。
先に行ってまうかなーって思ったけどちゃんと降りたところで待ってくれて、紙袋を抱える姿がなんか可愛い。
待たせるのもあれやし、早く駐車せな。
あれ?
待って?
荷物お願いしますって言うた?
家に入れてもらえるってことなんかな?
それならいくらでも運ぶで。
しげがプレゼントしたスラムダンク全巻も運ぶで。






なんて淡い期待とは裏腹に、玄関で靴を脱ぐ前に真夏が床を指差した。

「プレゼント、そこ置いといてくれへん?」
「え?ここでええの?奥まで運ぶで?」
「ううん、ここで。あとで全部開けちゃうから」
「あー、そうやな。ここで全部開けた方がゴミとか捨てやすいもんな!そっかそっか!ほんならここ置いとくな?」

俺、めっちゃ恥ずいやん!
家にあげてもらえると思ってたけど全然そんなことないやん!
もう靴を脱いだ真夏は家の中で、まだ靴履いてる俺はここから先には進めへん。
よう考えたら当たり前か。
家に入れてもらえるなんて言われてないもんな。

「……」
「…?」

……真夏はどう思ってるんやろ。
誕生日に俺の運転でここまで来て、こうやって目を合わせて。
家の扉を開けた瞬間、真夏の匂いがした。
ふわって舞って今も俺を包み込んでる。
真夏の空間に俺が足を踏み入れてるってだけで、期待してまうんよ。
なにかあるんじゃないかって。
なにかしてもいいんじゃないかって。
全部、伝えてもいいんじゃないかって。
そんな期待を車のエンジンかけた時からずっとしてるんや。

「照史、2つ目のお願い」
「なに?」

真夏の喉がごくって鳴った。
少しの仕草も少しの期待も逃さない。
スッと広げた腕。
チラッて宙を、そしてぎゅっと目を閉じて、最後は俺の目を見た。

「ぎゅうってして」
「……」
「っ欲しいです……」

ほら、期待してたやんか。
乱暴に靴を脱いでその身体を引き寄せる。
いつから期待してた?
聞かなくてもわかる。
俺が腕を引いた瞬間、真夏から身体を擦り寄せてきた。
距離がなくなって、背中に腕を回して、スンって息を吸った。
ずっと待ってたやん。

「うわあ……」
「なに?」
「嬉しい、です」
「俺も嬉しい、ってなんで敬語なん?」
「分からへん。たぶん、緊張してる」
「なんで今更、」
「今更なんかじゃない」
「……」
「私がどんだけ勇気出したか、察してや、あほ」

俺と真夏は付き合ってるわけでもないし好きって伝えたこともない。
だからこういうことをしてもいい関係なんか、そうじゃないんか、確信がない。
拒むこともできる。
受け入れて、もっと求めることも出来る。
今更なんかじゃない。
だってこれは、いつも接してる”メンバー”の領域じゃない。
真夏が勇気出してくれたから触れられた。

「あー、幸せ。どうしよう、真夏の誕生日やのに俺がプレゼントもらってる」
「嬉しい?」
「真夏が助手席座ってくれた時点で100嬉しい、家に入れてくれて200嬉しい、今、1000嬉しい」
「1000って、あははは、多いやん」
「それくらい嬉しい」

そっと腕を離して真夏と見つめ合う。
重なった視線に笑みがこぼれたら、恥ずかしそうに視線を逸らした。
今、期待してるやろ。
今度こそキス、

「っ3つ目のお願いやねんけど!」
「え、なに?このタイミング?」
「…あの、照史?」
「ん?」
「嫌やったら断ってくれてええねんけど、ほんまに、遠慮せんと」
「真夏のお願いやったらなんでも聞くで?」
「なんでもはあかんよ!ちゃんと内容聞いて、ちゃんと返事して」
「わかったわかった。で、なに?3つ目のお願い」
「……きょ、今日、」
「今日?」
「うちに泊まっていきませんか?」
「っ……」
「あ!いや!でもな!でもな?はおかしいな!あれやねん!大丈夫!シーツ昨日洗濯したし!お風呂掃除もバッチリやから!」
「真夏?」
「着替えもある!はまちゃんにちゃんとサイズも聞いて用意した!下着もある!大丈夫!全部揃ってるから!」
「真夏さーん?」
「明日2人とも午前中オフやろ?昼から仕事あるけどマネージャーさんが迎えに来るの2時やし!全然余裕やから!朝ごはんも作るから!だから、」
「真夏!」
「っ、」

お酒は一滴も飲んでない。
期待の目じゃなくはっきりと言語化された願い。
すがりつくように握られた俺の服。
YESしか望んでないのに、それでも俺に選択肢を用意した。
選ぶ答えなんか決まってるのに。

「とりあえず落ち着いて」
「でも、」
「真夏の気持ちはわかったから。いっぱい準備してくれたんやろ?ありがとう」
「……うん、準備した。お願い照史、はいって言うて」
「……」
「……」
「……」
「なんで無言なんですか」
「返事はする。でもさ、今はさ、なんも言わんと……キスさせてや」

先に返事聞く?
キスの後に聞く?
後からは聞けへんか。
キスしたら止まらへんぞ。
やっと、期待を言葉にしてくれたな。
ずっと待ってた。


backnext
▽sorairo▽TOP