「しげちゃん」



「行くぞーーー!!!」

アリーナにしげの声が響き渡った。
リハが始まって1時間。
この曲で一旦区切りになって休憩に入る。
休憩前最後の曲やからみんな気合入ってる。
一瞬、望が前に出過ぎた。
あ、流星にぶつかる、って寸前のところでさり気なく真夏が望の腕を引いた。
危なー。
本番前に事故るところやったで。
歌いながらも全体を見てバランスを取るのはいつだって真夏。
安心したようにホッと息を吐いた時にスタッフさんから声がかかってメンバーの動きが止まる。

「しげちゃん大丈夫?」
「え、なにが?」
「ちょっと疲れてるんとちゃう?体調悪いん?」
「全然そんなことないねんけど」
「嘘やん、絶対調子悪いやん。私には分かる。いつものしげちゃんじゃない」
「なになに?しげ疲れてんの?」
「疲れてる。私には分かる」

うんざりしたようにしげが真夏を見るけど、真夏が言うんやったらほんまに体調悪いんやろうな。
だって真夏は、

「重岡担の目は誤魔化せないぞ!」
「うわー!言わんといて!恥ずかしい!」

そう、強火重岡担やから。
さっきだって冷静にみんなのダンス見てたけどしげは特別。
ニヤニヤしてしげの方見てた。

「お願い!しっかり休んで!本番はだいきゃんスマイル見たいから!からくり人形のキラキラ笑顔見たいから!」
「ほんまにやめてーや!真夏ちゃんのスイッチ入ったの嫌!恥ずかしい!」

メンバーにいたずらして怒られてるしげからは想像もつかへんな。
しげが真夏に迫られて全力で照れとる。
もともとしげって照れ屋さんやから。
近づこうとする真夏を片手で制して、もう片方の手で赤い顔を隠した。
真夏は真夏でいつもとは全然ちゃう。
嬉しそうにニコニコして、声もでかいし距離も近い。

「はまちゃーん!!助けて!!」
「ええやん、羨ましいで?そんなに好かれて」
「絶対思ってへんやん!棒読み!」
「しげちゃんほんまに好き。世界で一番かっこいい」
「ちょ、待って、ほんまにこういうん苦手!」
「しげちゃーん!!!」
「受け止めてあげーや」
「ほんなら真夏ちゃんも流星のこと受け止めろや!」
「……」
「真顔やめて!!!」
「お、聞こえてた?」
「全部聞こえてたわ!傷つく!しげ離れろや!ずるいで!」
「俺ちゃうし!真夏ちゃんが離さんからやん!」
「うるさい!休憩中は休憩せえ!」
「ほらー怒られたじゃん」
「真夏!今のお前0点!」
「ええ!?」

淳太に怒られてしゅんってなった真夏ちゃんを見て居心地悪そうにしげが頭をかく。
スタッフさんの指示でゾロゾロメインステージに戻る中、しげはそっと真夏ちゃんに向けてニコッと笑った。
まさしく、ニコニコ天使ちゃん。

「っファンサもらった!!!」
「うざい」

ついにイライラした望に一刀両断されてたけど、真夏本人はとろけるくらいに嬉しそうな顔してスキップしながら花道を駆け抜ける。

「しげはニコニコ天使ちゃんやけどさ、真夏もしげの前ではニコニコ天使ちゃんやんな?」
「あれはもう病気や。しげが事務所入った時からあんなんやもん」
「羨ましいわー、あんな笑顔にできて」

青い空と白い雲を背景に、2人のニコニコ天使ちゃんが降りてくる姿を想像してみる。
なんか、シュールやな。

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