「はまちゃん」



言うならば、雨空。

「はあー」
「ため息出てるで?どうしたん?」
「幸せを逃がしてんねん」
「それ俺のやつや」

もう一回ため息吐いて楽屋のソファにぐでーんって寝転がった。
朝から元気ないな。
真夏の向こうに楽屋の窓が見える。
どんよりした雲の向こうから、雨が降ってた。

「元気ないやん。調子悪い?」
「絶好調」
「には見えんで。話してみ?」
「……」
「……」
「……」
「はまちゃんと喧嘩?」

目見開いてこっちを見た。
口開いてるし。
なんでわかったん!?って顔に書いてある。
何年一緒におると思ってんねん。
わかるわ。

「しげと喧嘩はないやろ?さっきの現場で淳太くんと仲良う話してたからなし。流星も絶対ない。あったら流星が死ぬ。神ちゃんと喧嘩してもすぐ仲直りできるやん。のんちゃんはなんだかんだで好きやろ?ってことははまちゃんしかない」
「照史すごい。正解」
「親友いうくらい仲良いから、久々になんかあって謝るの難しくなってんちゃう?」
「大正解!」

やっと話す気になったのか身体が俺の方を向いた。
真夏の眉が下がってる。
相当キテるやん。
俺も真夏の方に身体を向ける。

「昨日な、はまちゃんと釣り行く約束してたんよ」
「うん」
「でもな、一昨日夜遅かったんよ。ドラマの撮影入ってて。ほんで、朝起きれへんかってん」
「寝坊したん?」
「起きたらもうお昼やった。すぐ電話したんやけど繋がらへんかった。メールはしたけどちゃんと謝らな」
「そのまんまはまちゃんに伝えたら?」
「はまちゃん、怒ってるかも。久々の釣りって言ってたし」
「大丈夫に決まってるやん」

凛としてかっこいいのがいつもの真夏やけど、今日はなんか弱々しいな。
うさぎの耳が見える。
しかも垂れとる。

「おつかれー」
「っ、」
「おつかれー。はまちゃん、ちょっとええ?」
「なに?……真夏?」

俺の背に隠れた真夏が眉を下げたままはまちゃんの前に出た。
申し訳なさそうに口を開こうとすると、それより前にはまちゃんがガバって勢いよく頭を下げた。

「っごめん!!!」
「な!?なんではまちゃんが謝るの!?」
「昨日ごめんな?真夏が疲れてるって知らんかってん。無理矢理誘ってごめん!」
「謝らんといてよ。私が悪いんよ。寝坊してごめん。連絡も遅くなってごめん」
「釣り、また今度でもええかな?」
「うん!絶対行きたい!」
「ほんま?俺な?絶対真夏のこと楽しませるって決めてん!」

さっきまで下がってた眉が嘘みたいや。
2人でほわほわ笑うから周りに花が見えるんは俺の目が悪いんかな?
はまちゃんが怒るわけないし、仲直りできへんはずがない。
だって2人、友達やん。
垂れてたうさぎの耳がピンって立って、嬉しそうにぴよぴよ動いてるのが見えるわ。

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