要するに運命なんだ



お酒とは、楽しむものである。
それを1番体現してるのは真夏だと思う。

「っもう限界!無理やって!真夏ちゃん!」
「あー!なんでや!しげちゃん!」
「淳太助けて!」
「うるさいうるさい、やられとけ」

シッシって手を振ったけど真夏の手を振り払ったしげは俺の隣に腰を下ろして水が入ったグラスを一気に空にした。
30分くらいは絡まれてたもんな。
流石に限界やったか。
番組の打ち上げに集まったメンバー、スタッフさんはお酒が結構入ってドンチャン騒ぎ。
奥のテーブルにいるはまちゃんは潰れてるし、のんちゃんは隅っこでちびちび強めのお酒を楽しんでる。
照史は仲良いスタッフさんに熱く語って泣きそうやし、流星も饒舌に仕事のことを語ってる。

「しげちゃーん!こっちおいでやー」
「嫌!もう勘弁して!淳太が行くから!」
「淳太くんはいい」
「あははは!どんまい!」
「なんでやねん!なんで俺がフラれたみたいになってんねん!」
「この前話したもん。今日は他のメンバーと話したい」

お酒に強い真夏は限界を越えると一気にタガが外れる。
いつも冷静な顔がケラケラ笑顔になって、手当たり次第にメンバーを引き寄せて楽しそうにずっと話してる。
今日はしげがお気に入りやったみたいでずっとニヤニヤしてたな。

「お!とも!ともともともーーー!!!こっち来てや!」
「え、俺?」
「ええやんかー!来てよ!な?なあなあなあ?」
「神ちゃん行ったって」
「ええけど…」
「やったー!」

トイレから帰ってきた神ちゃんの最近染めた黒髪が、居酒屋の鈍い照明でもキラキラ光ってる。
真夏が好きな髪色。
神ちゃん、犠牲にしてごめん。
しげが手合わせてご愁傷様って言うてるわ。
隣に座った途端、真夏が酔ってるきゅるきゅるした瞳でじっと見つめ始めた。

「とも」
「ん?」
「とーもー」
「なに?」
「とーもー!」
「だからなによ?」
「えへへ、なんもない」
「なんもないんかい」

メンバーの俺らは慣れたもんやけど、今日初めて飲み会に参加するスタッフさんはニヤケそうになる口元を隠そうともせずに2人の様子をチラチラ盗み見た。
真夏のパブリックイメージはストイックで真面目、なのに今はずっとニコニコ笑って声色は全部甘い。
一方で神ちゃんのパブリックイメージはみんなのおかんなのに、真夏の話を優しく聞く姿はまるで恋人。
すべての人を虜にするコンビ、もちもんち。
真夏の指先が神ちゃんの髪に触れる。

「黒髪、ほんまにええなー」
「そう?」
「ともは何色でも似合うやん?でも私は絶対黒髪派やんなー」
「俺も真夏の今の色好きやで?ミルクティー」
「ブリーチしたからギシギシや。ともは顔もかっこええな」
「酔うてるやろ?」
「酔うてる。でもほんまの話。うちにはイケメン担当が2人おるけど、とももめっちゃイケメン」
「あははは、ありがとう」
「ともはさ、まず性格優しいやん?昔は違ったけど」
「それは真夏もやろ?」
「そうやけど。で、顔がイケメンやん?身長も実は高いやん?で、ダンスもできて歌も上手くて作詞作曲もできて、もう、ともが出来へんことないんちゃう?」

うわ、もう見てられへん。
あそこだけカップルの雰囲気出来てるやん。
2人の肩が触れ合うたびに俺の方がドキドキしてまう。

「神ちゃんってすごいな。あんな真夏ちゃん見て、女として見てへんってもう本物の神やろ。仏や」
「しげやったらどうする?」
「意識してるって顔に出る前に逃げる」

そうやんな。
普段一緒におるとあんま意識してへんけど、真夏も世の中の人、特に男性を虜にするアイドル。
お仕事で甘い空気を出して湧く場面も何回も見た。
そんな彼女が酔ってるとはいえ本気を出せばあそこまで女っぽくなれるのか。
チラッと照史を見たら、熱く語っててこっちに気付いてない。
これはこのまま見つからん方がいいな。

「すみませーん!もう一杯追加で!」
「まだ飲むん?ええの?俺介抱せえへんで?自分でなんとかしいや」
「全然余裕。まだ酔いたい気分やねん」
「ご機嫌やね」
「うん!……なんやろ、泣きそう」
「急に!?なんで!?」
「なんか、こんなに素敵な人が私の同期でええんやろかって。私なんかが同期って申し訳ない気が、」
「なに言うてんねん。自慢の同期やで?」
「……ほんまに?嘘ちゃう?」
「嘘ちゃう嘘ちゃう。俺は真夏のストイックなとこほんまに尊敬してるし、自分のこと高めようとしてるところええなって思うし、メンバーのこと大事にして最後まで突っ走ろうとしてるところ、ほんまに好き」
「……っうぅーー、涙出そうー」
「泣かんといてや、照史に申し訳ない」
「私も好き」
「お、両思いやん」
「ずっとそうやん」

お酒、相当飲んだな。
こんなに人が多いところで真夏が泣きそうになるなんてしこたま飲んだ証拠や。
それでも泣くのは我慢したのか、目うるうるさせたままグッと唇を噛んだ。
ふふって優しく笑った神ちゃんは優しく真夏の頭を撫でる。
こうやってお互いの存在を認めて、確かめて、大事な人だって何度も何度も伝えて。
その積み重ねが今のもちもんちなんやろうな。
頭を撫でる神ちゃんの顔が優しすぎて、愛に満ちてて、真夏が嬉しそうに笑って撫でる手に自分の手を重ねたから。
メンバーの俺でも錯覚しそうになる。

「あれ、恋人同士ですか?」

前に『望月さんって可愛いですね』って言って真夏を気にしてたスタッフさんが青ざめた顔でそう尋ねてきた。
俺らは別にメンバー内恋愛禁止でも何でもない。
絶対にないと思うけど、俺が知らないところでなんかあってもおかしくない。
それでも、あの2人を表す言葉はこれしかない。

「あれが、」
「あれがうちのもちもんちなんで!!!」
「俺が言いたかったとこ!!!」


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