深夜3時の心拍数



誰が見ても疲れてるって分かるのに、真夏は決して口にはしなかった。

「ふぁ……」

楽屋に戻ってきた途端に溢れた欠伸。
無理もないって。
もう深夜回ってるのに撮影は終わらず、まだまだスケジュールはびっしり。
午後から参加した照史と淳太、夕方から参加した俺、望、しげ、神ちゃん、流星とは違って、真夏は朝早くからずっと雑誌の取材を受けてる。
さすがに限界でもっとゆっくり休んでくれって思うのに、この子は意地でもSOSを出さへん。
ストイックおばけが過ぎるって思うけど、それを言っても彼女は笑顔にならへんって分かってる。
パチパチ瞬きを繰り返した真夏はゲームしてる望の横に座って、この後撮影するスケジュールを確認し始めた。
バチって淳太と照史と目が合って、アイコンタクトで会話する。
この子はもうあかん。
自分でSOS出さへんならこっちから出させるまでや。

「コンビニ行くわ」
「お!御馳走さまでーす!」
「なんでや」
「淳太おごってや!金持ってるやん!」

財布を持って淳太が立ち上がれば意気揚々と立ち上がる2人が、こういうときはありがたいな。

「まあ金持ってるから奢ったるわ。奢って欲しい奴は自分で選んで自分で運び」
「やったー!」
「ハーゲンダッツ買おう!」
「照史とはまちゃんは?」
「お茶買ってきてー」
「わかった、うどんやな」
「なんでや!太るやろ!」
「俺コーヒー。真夏は?」
「奢ってもらうん悪いわ。私も行く」
「えーおってよ。俺話したいもん」
「真夏はおったって。はまちゃんさっきから話したくて待ってたんやから」
「え、そうやったん?じゃあキャラメルラテがいいな。甘いもの欲しい。ごちになります、淳太くん」
「了解。神ちゃんと流星は?」
「俺はいらんかな」
「俺も」

やばいやばい、それじゃあかんって。
真夏に見えへんように神ちゃんに視線を送れば、そこはみんなのおかん。
すぐ気づいてくれた。

「流星、さっきメイクさんにカラーのこと聞きたい言うてなかった?」
「あ!そうや!染め方聞くんやった!」
「質問の忘れ物やん!」
「今聞きにいこう。俺も聞きたいし」
「そうやな、忘れへんうちに」

神ちゃんの機転で上手く整ったな。
コンビニ組と質問組が出ていけば、楽屋の中は俺と照史と真夏の3人だけ。
お兄ちゃん組の誰かと真夏だけの空間を作れたら、SOSの準備は万端や。

「真夏?」
「ん?」
「ここおいで」

ソファの隣の席をポンポン叩けば、最初は眉間にシワ。
嫌やって顔に書いてあるけど、照史も座ってポンポンすれば、観念してため息を吐いて大人しく座った。

「もー、ほんまにお兄ちゃん組のこういうところ嫌や」
「諦めや。はまちゃん、結構こういうん気づくで」
「はまちゃん気づいちゃうよー、真夏がしんどいの」
「私、一応女優もやらせてもらってるんやけど、演技下手やな」
「演技なんてせんでよ」
「はい!こっからは強制甘えん坊タイムです」
「は?なにそれダサない?」
「全然よう分からんし」

くすくす笑いながらも真夏の肩から力が抜けた。
深くソファに沈み込んで、まったく演技してない疲れた顔。
やっと素の顔。

「15分寝ます。それ以上はほんまに大丈夫」
「お客さん、それでいいんですか?強制甘えん坊タイムはもっと特典ありますよ?」
「あははは、じゃあブランケットの特典をお願いします」
「え、あー、い、今ブランケットが貸し出し中でして!」
「ないんかい」
「お客様、これをどうぞ。私の上着ですが、さっきまで着てたので暖かいです!」
「お客様!こちらを!」
「ふふふ、はい、ありがとうございます」

照史の上着を被せて3人で肩を寄せ合って、少しでも暖かくして。
上着の上から何度かポンポン叩けば、『子供扱いしないで』って言う間も無くまぶたが閉じた。
15分と言わず、何時間でも休めるだけ休んで欲しい。

メンバーが帰ってきて、『シー!』って人差し指を立てたのは照史だけ。
その頃は俺も夢の中。


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