降りそそぐ未来のかけら



真面目
ストイック
泣き顔をファンの前では絶対に見せへん

そんな望月真夏を作ったのは、きっと同期の俺や。
色眼鏡で見られることも馬鹿にされることもあった。
そんな時でも人を傷つけることを制し、無意味に声を上げることを止め、全部実力で跳ね返すことに全力を注いできた。
でも、だからこそ、真夏は感情をうまく言葉に出せなくなってしまったのかもしれへん。

「望月真夏です。ジャスミンの皆さん、ジャスメンの皆さん、私たちと一緒に、この、京セラドームという最高の場所で同じ時間を過ごせたこと、本当に嬉しいです!」

最後の挨拶。
メンバーが鼻をすする音と涙を堪えるように震える声を発する中、真夏はそんな気配を一切見せへん。
ファンの皆さんが照らす空色の光をにこにこ見つめ、笑って、涙なんか見せず、『楽しい、嬉しい、もっとたくさんの人を笑顔にしたい』そんな希望の言葉を繰り返した。

「メンバーとファンの皆さんと、最後の1秒まで笑顔でいられるように、これからも努力していきます」

我慢してるのか、それだけが本心なのか、もう泣いてしまってる俺にはわからへんかった。
ここまでこれたこと、ファンの皆さんとスタッフさんとメンバーのおかげや。
でもそれだけじゃない。
自分の努力が実ったからやと思ってる。
まだまだゴールじゃないけど、通過点として、今までの思いがこみ上げてくる。
曲が終わって舞台袖にはけた時、目が合った真夏が笑った。

「あはは、とも大丈夫?泣いてるやん」

下から覗き込んで、冷たい指先が頬に触れる。
俺の涙を拭う真夏の笑顔が本当に幸せそうで、でも、なんだか悔しくて、思いっきり抱きしめた。






「わっ、どうしたん?」

ステージから俺らの姿が見えなくなった瞬間にもんちが真夏の腕を引っ張って強引に抱きしめた。
びっくりした真夏が俺らメンバーに視線を向けるけど、俺らだってわからへん。
真夏からもんちに甘えることは見たことあるけど、もんちがこんなにも弱弱しく、でも力強く真夏を抱きしめるのは初めて見た。

「とも?」
「…なんで泣かへんねん」
「え?えーっと、悲しくないから?」
「当たり前やん。悲しいわけないやん。嬉しくて、感動して泣かへんの?」
「……」
「真夏のあほ」
「…あほちゃうし」
「真夏はあほやから、自分はまだまだやって思ってるんやろ。絶対。俺にはわかる」
「まだまだやって思うのは当たり前やん」
「そういうことちゃう。まだまだやけど、これまでの努力は認めるべきや」
「っ、」
「俺は全部知ってんねん。女やからってバカにされてたことも、空と入れ替わって入所したから空と比べられてたことも、ファンの人から批判されてたことも」
「……」
「なのに、全部黙って跳ね返してきた。泣かへんかった。いや、少なくとも俺らの前では滅多に泣かへんかったやん」

もんちの震える声に、自然とメンバーが集まってきた。
真夏の視線はもうメンバーには向いてない。
ぐっと唇を噛んで、縋り付くようにもんちの服を握りしめた。

「真夏は頑張ってんねん。頑張ってきた。努力してきた。ここまで来るには真夏は絶対必要やった」
「……」
「もう、ええ加減自分のこと認めてあげてや。……俺の大好きな同期の望月真夏を、真夏が、認めてあげて」

その言葉は俺ら皆がずっと思ってたこと。
弱音を吐かない、体力が無限大でストイックおばけ、他人にも厳しいけど自分にはより厳しい。
そんな真夏はいつだって自分を認めない。
持ってるものより足りないものを探してしまう真夏やから。
自分が未熟で俺らに迷惑をかけてしまっているんじゃないかって考えてしまう人やから。
もんちの言葉に、真夏が大きく息を吸い込んだ。
それでも涙は零れへん。
まだ、認めへん。

「とも、ありがとう、…でも私は、」
「真夏」
「淳太く、」
「100点や」
「え?」
「京セラドームに立つ真夏、100点やで」

ふわっと真夏の頭を撫でる淳太くんの手に、優しく笑いかける淳太くんの笑顔に、やっと大きな瞳から涙が溢れてくる。
今までの努力も、思いも、絆も、全部嘘じゃない。
全部全部、真夏が作ってきたものや。
誰にも奪われることはないし、俺らは全員認めてる。
だからもう、自分で認めてあげてや。
真夏は、自分の努力でたくさんのものを手に入れたきた。

「っ、淳太く、それはずるいやんかぁー」
「あははは、やっと泣いたなー」
「私がずっとずっと淳太くんから100点欲しいって思ってるって知ってたやん、絶対泣かへんって決めてたのに、淳太くんもとももひどい、あかん、止まらへん、ともの衣装が濡れてまう」
「俺絶対離さへんからな!」
「痛い痛い、力強い」
「神ちゃん離したり」
「嫌や」
「俺と代わってや」

ボロボロ泣いてる真夏をしげが思いっきり抱きしめる。
珍しいどころか初めて見るしげの熱いハグに、目ん玉落ちるんちゃうかってくらいびっくりした真夏の両手が行き場をなくしてわたわた動いてた。

「俺さ、真夏ちゃんがいるグループのセンターになれてほんまに良かったなって思ってる!ありがとう!」
「っしげちゃ、嫌や、そんなん言わんといてや」
「真夏ちゃんは俺らの自慢のメンバーや」
「っ、」
「俺も真夏のこと大好きやで」
「はまちゃ、」
「どこのグループにも渡したくないし、絶対ジャニーズWESTにおってほしい」

わたわた動いてた真夏の手にそっと指を絡めたはまちゃんの瞳にも涙が溜まってた。
その熱が、真夏にゆっくり動いていく。

「流星も行ったら?」
「…俺行かれへん」

俺の隣にいた流星は、真夏の涙を見てもっと泣いてる。
止まらへん涙を何度も何度も拭ってると、しげの腕の中から出てきた真夏が流星の頭に手を伸ばした。
金髪を優しく撫でたその手は、最後に頬を包み込んだ。

「りゅせ、そんな泣かんといてや」
「って言うてる真夏ちゃんが一番泣いてるやん」
「これは水」
「それは涙」
「あはは、そうやね、涙や。流星と一緒、…わわっ」

横から伸びてきた手が今度は真夏の頭をぐしゃぐしゃに撫でまわす。
髪型が崩れることも気にせず、涙なんか吹き飛ばすくらいに、強く。

「小瀧?」
「…俺やって思ってるし」
「なにが?」
「1回しか言わへん」
「ん?」
「俺も真夏のことめっちゃ好き」
「っ、」
「せやから真夏も自分のこと好きになれ」

望が赤い目でそう言って、もう一回頭を撫でまわす。
でもその手があまりにも優しすぎて、ぼさぼさになった髪を撫でつける頃には真夏の目も真っ赤や。
もう今の真夏に我慢なんて言葉はない。
素直に涙を流して、メンバーのことを見つめて笑った。
幸せって顔に書いてあった。
ずっとずっと努力してきた真夏が見せた、最高の笑顔やった。
せやから、

「照史、」

名前を呼ばれた時、そこに我慢なんてなかった。
我慢なんてしたくなかった。
その目で見つめられたら、すべてを奪ってしまいそうやった。

「めっちゃ泣いてるやん」

スタッフさんから受け取ったタオルを頭にかけると、真夏の表情が見えなくなる。
真夏の涙を見て、俺は関西ジュニア時代の真夏を思い出していた。
辛いことも苦しいこともあるのに、ステージの光に向かっていつでも笑って飛び込んでいく真夏に惹かれて、最後の1秒まで一緒にいたいって。
この笑顔を守りたいって。
そう、誓った。

「…顔見たら全部言うてしまいそうやから」

タオルかけたままやと真夏の顔は見えへんから、涙で濡れた瞳と視線が交わることはない。
そうしないと、我慢出来へん。
触れたい。
言いたい。
世界で一番大切や。

「…じゃあ、何も言わずに抱きしめてや」

俺の挨拶、メンバー全員にメッセージを送った。
真夏はどんな気持ちで聞いてたんやろう。


この人に出会えたこと、俺は奇跡やなって思います。
神様に感謝します。
どんなに高い壁でも努力して乗り越えて。
どんなに苦しいことがあっても決して途中で諦めない。
いつだって笑顔でいてくれる。
その笑顔を守るためやったら、俺も、メンバーも、なんでもする。
最後の1秒まで一緒に笑っていたい。
絶対って言葉は時には嘘になるかもしれへんけど、これだけは、絶対。
絶対最後まで一緒におる。
そう思わせてくれる、望月真夏に出会いました。


嘘は一つもない。
全部俺の本当の気持ち。
だから何も言わなくてもいい。
真夏に想いが伝わるなら、何でもいい。

「…真夏」

ぎゅっと抱きしめれば、背中に回った手が俺をぎゅうっと抱きしめ返してきた。
触れ合った身体が熱い。
強く抱き締めたら消えてしまいそうで、でも少しでも力を抜けば失いそうで。
真夏の全部を包み込みたくて。
タオルで隠れた耳に唇を寄せて、囁いた言葉は聞こえたかわからへん。
聞こえてなかったとしても良かった。
ちゃんと伝わってるって思うから。

「最後の1秒まで、絶対、一緒にいような」

真夏が『うん』って、頷いた。
真夏が望んでくれるなら、何年先でも、永遠でも。



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