魅力的な孤独



「俺、甘えられたい」
「……は?」

2人っきりの楽屋で急に言われた言葉にくわえてたお煎餅を落としそうになった。
危ない、もったいないことするところやった。
この最年長は何を言うてるんや。
ついに頭おかしなったか、って言おうとして言葉を飲み込む。
そういえば、この前のラジオでそんな話を小瀧としてた気がする。

「ラジオのやつ?年々寂しくなってるって」
「そうやねん。年々寂しくなんねん。でもさ、俺甘えるより甘えられたいねん」
「それを私に頼むってなかなか末期やな」
「わかってる。わかってる上で頼むわ」

言うた通り、私に頼むのは間違ってる。
自覚はしてるしメンバーもわかってると思うけど私は人に甘えることが苦手や。
真面目やしストイックやし負けず嫌いやし。
甘える=弱みを見せてるようであまり好きではない。
人が甘える姿を見るのは別に何も感じんけど、自分が甘えるのはほんまに苦手。
それをわかってる上で頼んできてるのか。

「しげちゃんとかに頼んだら?」
「あいつが俺に甘えると思う?」
「…まあないやろな。照史は?」
「30越えたおっさんが2人で甘えてたらやばいやろ。それに照史が俺に甘えるってほんまにやばい時やん」
「うーん、まあそうやけど」
「真夏もさ、小さい時は俺に甘えてたやろ?その時の気持ち思い出せ!」
「なんでこんな強制的に甘えさせられてんの?」

関西ジュニアの中でも先輩でお兄ちゃんでみんなに頼られてた淳太くんは、頼られたいんやろうな。
長男やし、最年長やし。
要望に応えるんは正直面倒くさいなってちょっとだけ思うけど、私も連日仕事続きで疲れてるのは事実で。

「ほら、おいで真夏」

優しい顔でソファの隣をぽんぽん叩いてくるから、たまにはええかなって自分を納得させる。
隣に座ると肩に回った手が私の身体を引き寄せる。
こてんって頭が淳太くんの肩に当たって髪を優しく撫でるから、柄にもなくにやけてしまう。
あれ、なんやろ。
予想より遥かに心地良くて、ちょっとだけ眠い。

「……第1回、優しい淳太くんランキング」
「なんやそれ」
「第3位、一発めぇの時に何回も『大丈夫や』って言ってくれた時」
「無視かい」
「第2位、京セラドームのコンサートで私を泣かせてくれた時」
「あれはほとんど神ちゃんの力やろ」
「堂々の第1位、二十歳の誕生日、旅館貸し切ってくれて関西ジュニア全員泊まらせてくれて、私の誕生日お祝いしてくれた時」
「あー、あれな。めっちゃ喜んでたな」
「最後、殿堂入り」
「まだあるん?」
「……いつもありがとう」
「……」
「いつも、助けられてます。ありがとう、淳太くん」

肩に寄りかかってた頭を上げてしっかり目を見て伝えれば、ぽかんって開いてたたらこ唇が徐々ににやーって引き上がる。
めっちゃ嬉しそうで満足したようで、頭を何度も撫でられた。

「もう!なんやねん!真夏かっっっわええなぁ!!!」
「満足?もう満足?」
「仕方なくやったったみたいな態度やめて!」

仕方なくなんかじゃないけど、恥ずかしいから『仕方なく』って顔で笑ってんねん。


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