春の瞬きを探してた



※「息すらしたくないような夜」と対になるお話






自分が応援しているアイドル、いわゆる担当。
その言葉を知ったのはまだ関西ジュニアの頃で、ファンが流星担と言っていることに嬉しさを覚えると同時に、真夏ちゃんに感じていた気持ちに名前を付けてもらった気がする。
俺は真夏ちゃんが好き。
ずっとずっと好き。
でもそれは恋人になりたいとか、触れたいとか、そういう恋の感情とは明らかに違う。
例えば、真夏ちゃんが載っている雑誌を買うことで彼女の存在が世間に認められたらいいな、とか。
ライブで笑う真夏ちゃんを見て、この人の素晴らしさを世界中の人に知ってほしい、とか。
真夏ちゃんにどんなことをすればどんな表情を見せてくれるのか、それを余すことなく全部見ていたいような、そんな気持ち。
だからこのお話が来た時、大きくガッツポーズをしてしまった。

「本当にリクエストがすごかったんですよ!重岡さんと望月さんの雑誌、めちゃくちゃ売れて!でもそれと同じくらい『藤井さんともやって!』って声が大きくて!」
「あはは、そうなんですね、ありがとうございます」
「…なんでそんな棒読みなん?喜んでや。また巻頭特集やで?」
「喜びたいけど、流星めっちゃ緊張してるやん」
「べ、つに、」
「そんなガチガチなん見て喜べるかい」

あははって眉を下げて笑った真夏ちゃんの髪が揺れる。
しげと真夏ちゃんが大人の恋人を演じた企画は編集部も俺らもびっくりするくらい反響があり、こうして第2弾が決まったわけやけど、相手役が俺になったのは読者の方からのリクエストのおかげや。
ほんまにありがとう。
全国のりゅせもち担、ありがとう。
皆の思い、無駄にはせえへん。

ガチガチに緊張したインタビューもそこそこに撮影が始まる。
しげの時は大人なバー、今回は大人な水族館デート。
水槽に反射した光が真夏ちゃんの横顔をゆらゆら照らす。
その横顔をじっと見つめてると、ほんのり頬が赤くなった。
シャッター音は鳴りっぱなし。
今この瞬間もカメラに収まっていく。

「…見過ぎ」
「ええやん」
「そんな見られたら照れるわ」
「ほんま?もっと照れてや。自担が目の前にいるってこんな感じやで」
「しげちゃん、こんな気持ちやったんやな」

ストレートに感情をぶつけられることが苦手だと知ってる。
本当は嬉しくても、恥ずかしくて言葉にできないって知ってる。
応援されること、好意を持たれることが嫌な人間なんておらん。
真夏ちゃんが俺を嫌がるわけない。
ちらってこっちを見た目がまた水槽に戻ってしまうから、きゅっと手を握りしめた。

「っ流星!」
「ん?」
「…なんか今日余裕やん。いつもこんなんちゃうやん」
「そんなことないって」

ほんまは心臓飛び出しそうやけどさ、一生懸命我慢してんねん。
俺は真夏ちゃんが好き。
そしてすべての表情が見たい。
どんな表情だって見たいし、好きになれる自信がある。
メンバーは皆真夏ちゃんのことが好きやけど、でも、ストレートにそれを伝えられる人は少ない。
それに、公の場でそれを伝えることを許されてるのは俺だけ。
自他共に、ジャスミン皆が知ってる、空色ジャスミンの俺だけ。

「真夏ちゃん」
「ん?」
「好きやで」
「……ありがと」

照れた顔も、嬉しいって握られた手も、俺だけが引き出せるもの。
俺だけが世間に伝えられる、自担の可愛さ。




backnext
▽sorairo▽TOP