目で見えなくても明確なものを、わざわざ形にする必要など無かったのに



※ifです。
※神山くんがお相手です。






「冷たっ!」
「あ、ごめん」

なんて、悪気0%の謝罪を聞かされても怒る気にもならへん。
案の定こたつの中に差し込まれた真夏の裸足のつま先は、熱を求めるように俺のつま先をこすってきた。
全然謝る気ないやん。
そう怒っても仕方がないから両足で冷たい真夏の足を挟めば、遠慮なしに絡まってきて俺の熱を奪っていく。
冬、寒い、ゆっくりしたい。
そんなことを繰り返す真夏に負けて購入したこたつは、すっかり彼女の住処となってしまった。

「片づけありがとうございます」
「いえいえ、当然です。神ちゃんおかんにはいつもお世話になってるんで」

いつの間にか俺の家でのルールが増えていく。
食器の後片付けは順番に
お風呂の追い炊きはもったいないから連続して入る
洗濯物はハンガーにかけて左向きに
こたつは左が真夏、右が俺
俺の家でのルールが増えるに比例して真夏の物が増えていって、一緒に住んでる気持ちになるけど真夏は合鍵を欲しいとは言わへんし俺も渡そうと思ったことはなかった。
渡したくないとかそういうマイナスな気持ちじゃなくて、お互いに好きやし付き合ってるけど同棲という一線を越えるギリギリを楽しみたい、みたいな。
ファンの子たちは俺らアイドルにいろいろな思いを持ってるんやろうけど、実際の俺らは普通の人間で。
こたつ入ってだらだらしながら真夏が好きやなーって思いながらコーヒー飲むような毎日を、少しでも長く感じていたい。
ちなみに俺らの関係はメンバーにしかバレていない。
関西ジュニアの頃から俺らは真面目でストイックでジャックナイフ(今は丸くなったけど)。
ファンに悟られるわけにはいかへんし、匂わせてもちもんちをそういうコンビとして売るつもりもないし、バレへん自信がある。
真夏と俺のストイックは筋金入りや。
とは言っても、さっき言った通り中身は普通の男と女なわけで。

「ここのしげちゃん、最高オブ最高やねんけど」
「ここ何回観んねん」
「あと100億回」
「観終わる頃には死んでまうな」

ごはんを食べてる時から流れてたWESTVのライブ映像はちょうど終盤に差し掛かろうとしていた。
愛の奴隷の後、YSSBの間にはパーティーを模した会場でメンバー1人1人にフォーカスされるイメージ映像。
撮影時からニヤニヤを隠しきれへん真夏はずっとしげの撮影風景を観てた。
こたつの上に置いてたマグカップの中身はもうなくなりそう。
また淹れ直そうかなって思ってたら、真夏が頬杖ついてこっちを見てた。

「なに?」
「なんか変な感じ」
「なにが?」
「パーティーで女の子の腕引っ張って抜け出して、YSSBでオラオラしてる神山智洋と、こたつ入ってコーヒー飲んでるともが同一人物」
「なんやそれ。それやったら俺も謎やで。パーティードレス着てキラキラ笑顔で笑う望月真夏とスウェットでふにゃーってしてる真夏が同一人物」
「ふにゃーってなんや」
「こういうの。俺といる時の真夏はふにゃーってしてる。可愛い」

手を伸ばしてほっぺたをむにっとすれば嫌そうな顔は一瞬で、すぐにふにゃって嬉しそうな顔になった。
ファンに見せてる顔とお互いに見せる顔は違う。
違って当然やし、違うからこそ意味がある。
俺の前の真夏は特別やし、真夏の前の俺は特別やろ?
ほっぺたが赤くなる前に手を離すと、真夏の視線はまたライブへ。

「ライブのともはめっちゃかっこつけてるけどさ」
「あはは、そうやな。かっこつけてる。真夏もやろ?」
「うん、私も。でも、私の前でもともはかっこつけてるやんな」
「それはそうやろ。……好きな人の前ではかっこつけたいやん」
「…ふははは」
「ふはははってなんやねん」
「私、ときめき、感じた、嬉しい」
「急にカタコト?俺ツッコミ出来へんねんからボケっぽいことせんといて」

くすくす笑う真夏は空っぽになってたマグカップを2つ持ってこたつから出る。
コーヒーメーカーにはまだ残ってたみたいですぐに戻ってきて、いつもの定位置とは逆の、俺の前からこたつに潜りこんだ。
視線はテレビ、俺の胸に当たった真夏の背中。
お腹にそっと腕を回しても、真夏はなんにも言わへん。
髪を横に流して項にキスをしたら、やっとこっちを見た。

「…なに?」
「真夏が止めへんからキスしてもうた」
「していいって言うてへんし」
「したらあかんって言うてへんし。絶対ときめき感じさせるから、ええやろ?」
「出た、かっこつけや」
「かっこええって思ってるんやろ?」
「内緒」
「せやったら惚れさせたる」
「…とっくの昔に惚れてるわ」

ほんまかって返事する前に真夏からキスしてきたから、かっこつけはどっちや、って心の中でツッコむ。
わざわざこっち来てこたつ入って、淹れたコーヒーの量も少しだけで飲む気もなくて、冷たい脚を覆うスウェットは俺のやからぶかぶかで簡単に手が入る。
計算されたムード作りに気付かへんフリをした俺も俺やけど、こういう状況をわざわざ作り出した真夏も真夏やで。
素直に甘えてきたらええのに、恥ずかしいのか雰囲気もセットじゃないと無理みたいやな。
そんな真夏のことを俺は一番よく分かってる。
関西ジュニアの頃から見てきた。
そして、真夏の考えにのってあげて触れるのが一番喜ぶことも。
こたつが熱い。
汗かきそうって分かってるのに何もせずにキスを繰り返す。
真夏の身体が熱くなって、肌が少ししっとりしてきた時にやっと真夏がスイッチに手を伸ばした。

「……意地悪」
「ん?」

とぼけたふりをしてまた触れる。
意地悪やろ。
真夏が自分でスイッチ切るまで待ってた。
自分で切ったんやで?
どこまでしたいか意思表示したやん。
よくできました。
じゃあ、始めよか。




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