冬の魔女が手を招く



「うわ、雪や」
「だからか。さっむ!」
「おいイケメン2人、窓開けんな」

大きい背の向こうにちらちら雪が舞ってるのが見える。
今日冷え込むって言うてたからな、案の定雪降ったやん。
淳太くんがちょっと怒って注意したのに、流星も望も窓から手を出して雪を触り始めた。

「絶対閉めて。しげ戻ってきたらうるさいで」
「雹降ってる!うっひょー!ってやってくれるんちゃう?」
「絶対嫌や、鬱陶しい」
「雹ちゃうし、雪やし」
「しげちゃんなら間違えそうやなー」

せっかく暖房で暖かくなってたスタジオの控室はちょっとずつ窓から入る冷気に負けそうになる。
淳太くんが本気で怒る前に閉めたほうがええで?
俺も寒いなーって思ってたら、ラックにかかってたコートに真夏が手を伸ばした。

「真夏?」
「コンビニ行ってくるけどなんかいる人ー」
「雪降ってるで?」
「大丈夫やろ。傘あるし。SnowManの肉まん買いたいねん。この前康二に買ってやー言われてん」
「俺コーヒーとなんかお腹にたまるやつ。ごちそうさまです!」
「少しは遠慮しろ」
「俺も行こうか?」
「1人で大丈夫やって。欲しい人ラインしてー」

ひらひら手を振った真夏は軽い足取りで控室を出て行った。
そんなにコンビニ行きたかったん?
こんな寒いのに?
やっと流星が窓を閉めたから、また控室に暖かい空気が満たされていく。

「あ、真夏マフラー忘れてるわ」
「絶対寒いやん」

雪降ってるのにマフラー忘れるってあほちゃう?
急いで控室を出て階段を駆け下りると、ちょうど真夏が傘差そうとしてたところやった。

「照史?どうしたん?」
「マフラー忘れてるで?絶対あかんやん」
「あー!ごめん、忘れてたわ。ありがとう」

受け取った大きいマフラーをぐるぐる巻いていく仕草が可愛く見えて、なんとなく視線を逸らす。
冬の女の子はいつもより数倍可愛いって言うてたの誰やったっけ?
大倉くんやったっけ?
萌え袖がええんやったっけ?
何年か前に神ちゃんから貰ったマフラーは今も現役で、もふもふの中に口元を埋めた真夏は確かにいつもより可愛く見える。

「なんかちょっとあったかいわ。照史が持ってたから?」
「俺の手の熱そんなにやばい?」
「すっごいわ。せっかくやから熱お借りします」
「俺の熱高いで?」
「ほんま?いくらで買える?」
「1億!」
「…あんまおもろないなあ」
「やめてや!俺もそう思った!」

くすくす笑うと息が白くなる。
まだかろうじて室内におる言うても外はすぐそこで、暖房もないここは空気が冷たい。
こんな寒い中1人でコンビニ行かせるん嫌やな。
俺も行こうか?って言おうとしたのに、先に真夏がマフラーから顔を上げた。

「追加で1億円払うから、照史の熱買いたい」
「え?買うん?」
「買います」

えへへってあほみたいに笑って真夏の指が俺の指に絡まる。
冷たい指先とあったかい指先が絡まって、まるで恋人みたいに繋がって、そのまま俺のアウターのポケットに滑り込んだ。

「はぁー、あったか!」
「俺の熱やばいやろ?」
「やばい、めっちゃええ、ずっとこのままがええもん」
「ほんまに?高いで?」
「いくら?」
「3億」
「また全然おもろない」
「ええねんこれで!3億は3億や!払ってもらうで!」
「出世払いで」
「真夏ほんまに払えそうで怖い」
「もっと払うから延長したい」
「延長?」
「このスタジオから外の道路まで。人に見つかるギリギリまで。10億くらいで足りる?」

ポケットの中で真夏の親指が俺の手の甲を撫でる。
その動きとマフラーにもふってなった髪とにこって笑った顔がキラキラに見えて。
この気持ちの行方をどうしようって迷って。
緩んだ口元を誤魔化すこともできずにあははって笑って。

「お客さん、世界で一番可愛いんでタダにしますよ?」

ここから外の道路までほんの20秒。
傘は一本。
黒くて絶対に透けない。
寒くて外に人なんかおらん。
どこまでやったらバレへん?
少しくらい、ええやろ?
真夏の唇、絶対冷たいやろな。



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