夜よ瞬け



「おはよー」
「おいっすー、あ、神ちゃん黒にしたん?」
「そうやねん」
「相変わらず何色でも似合うな。かっこええ」
「ありがとのんちゃん」

楽屋に入ってきた神ちゃんは黒いマスクに黒髪やった。
色変えたーっ笑うと目が細くなって、その笑顔はちょっとだけ若く見える。
そうか、流星とドラマやるからかって気づいた時、しげと照史も楽屋に入ってきた。

「あれ?もんち黒やん!」
「うわー!黒髪神ちゃん久々やな!あれか!ドラマか!」
「そうそう、大学生の役やからさ。若く見えるやろ?」
「金髪でも若いで?」
「可愛いやん!」
「可愛いしかっこええ。…まーた真夏がうるさくなりそう」

真夏、神ちゃんの黒髪大好きやからな。
絶対騒がしいで?
ドラマ撮ってる3ヶ月くらいはずっとテンション高いんやろうな。

「お、噂をすれば」
「なになに?」
「ヒールの音や。真夏ちゃう?」
「あー、それっぽいなー」
「おはようございまーす」
「え?」
「……」
「真夏、おはよー」
「……」
「え、なに?」
「誰!?」

神ちゃんと同じ真っ黒なマスクに銀色の髪。
目元がピンク色のメイクやから余計に異世界の人みたいや。
目を丸くした俺らとは違って神ちゃんはすぐに駆け寄った。

「おー、ええ感じやん?」
「ほんま?いつ色抜けるかびくびくしてんねんけど」
「しばらくは大丈夫やと思うけどな。ライブ前には染め直さなあかんな」
「あー、やっぱり?」
「真夏!?」
「え、そうやけど」
「えー!?髪染めたん!?」
「あははは、皆びっくりしてるやん」
「昨日ともと美容院行ってがっつりブリーチして、」
「めっちゃ綺麗!海外の女優さんみたいや!」
「お、おお!?待ってほんまに無理しげちゃん私のこと殺す気やん」
「ちょ、悶えるんやめて!そこ皆の机やから!」
「ぐりぐりしたら痛いやろ」

しげに褒められて全力で照れて楽屋の机に突っ伏した。
ぐりぐり机に押し付けてる頭は、てっぺんから毛先まで青っぽい銀髪。
染めたばっかりやからだと思うけどまるで生まれた時からその色みたいや。
触れてみると照明に反射してキラキラ光る。
それと引き換えに、いつもより幾分か落ちたキューティクル。
まあブリーチしたらしゃあないねんけど。

「なんで染めたん?仕事?」
「ううん、なんにも仕事きてない」
「俺が染めたから染めたんやって」
「一回やってみたかったんよー、金か銀。今流星が金髪やろ?小瀧も今は暗めやし、グループのバランス的にもやるなら今かなーって」
「俺めっちゃ好き。ええと思う。この世におらん人みたいやもん」
「ほんまに待って、きゅんきゅんで死ぬ」
「この世におらん人って、それもう幽霊やん」
「聞こえません」
「いたっ、」
「そういう意味ちゃうし」

毛先をくるくる巻き付けてた指先をはたかれたけど懲りずにまた触れる。
真夏がこんなに明るい色にしたん初めてちゃう?
思い切ったことしたなーって思うけど、きっとこれはツアーに向けてや。
今回のツアーはかっこいい系に振り切ってるやろうから。

「この髪でWtroubleとかSurvival歌ったらめっちゃやばそうやん」
「せやろ?かっこいい系目指してん。バリバリにダンス踊ってガンガンに歌う感じ?」
「照史はどう思う?」
「俺!?」

さらっとふったつもりやったけど真夏の肩に力が入ったのが分かった。
真夏の銀髪、綺麗やしおしゃれやけど、人によっては好みわかれるやろうから。
照史は真夏になんて言うんやろ?って俺は気になって。
スマホいじってた照史は顔をあげて真夏をじっと見た。

「なんやろな、不思議な感じや」
「…それって微妙ってことやん」
「あー!そういうことちゃうって!なんやろ?俺らもうデビューして6年目やん?関西ジュニアの頃も入れたら結構長い間一緒におるのに、……こんな真夏もいたんやって」
「っ、」
「全然知らんかったなーって今ちょっとビビってる」
「ビビってるって、なんか不思議な表現やな」
「綺麗は綺麗やろ?」
「もちろんもちろん!月みたいでほんまに綺麗!」

知ってることは数えきれないくらいあって。
知らないことなんてもうないんじゃないかって思うくらい一緒にいて。
いいところも悪いところも全部ひっくるめて好きで。
それでもこうやって新しい魅力を見つけられた。
何年経っても変わらないようでずっと更新されていく照史の想いを受けて、真夏が嬉しそうに笑った。
銀髪やから、顔が赤いのがようわかる。

「真夏さん、今のと重岡さん、どっちがきゅんきゅんしました?」
「比べるもんちゃうし、そんなん聞かんといて」
「え?なに?言いたいことがある?きゅんきゅんしたい?そんなきゅんきゅんしたい人に送る恋愛ドラマに出演されるんですよね?」
「番宣か!」
「のんちゃん、この前のパパジャニからこのMCノリ好きやなー」
「おは、ええ!?真夏ちゃん!?神か!?」
「流星邪魔。ドアの前で倒れんといて」
「真夏銀や!ええやん!」
「おはよう」

かっこええアルバム引っ提げてかっこええツアーするけど、楽屋の雰囲気はいつも通りの俺らやな。



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