一閃のめまい



「一周回って私とカラオケ行かへん?」
「どこをどう回ったらそうなんねん」

もうほんまに酔っぱらった真夏嫌いやねんけど。
誰か他のメンバー来てくれや。
仲良いスタッフさん何人かと飲んでたらたまたまドラマの共演者さんと真夏がお店に入ってきて、成り行きで一緒に飲むことになって。
いっつも真面目ストイックな真夏が酔って甘えたモードに入るのが俺はほんまに嫌い。
いや、嫌いちゃうか。
苦手やな、苦手。
だって変ちゃう?
怖い先輩望月真夏がデレデレして俺の隣にちょこんって座ってお酒ちびちび飲みながらカラオケ誘ってくんねんで?
どうなっとんねん。
カラオケの誘い方がえぐいっていうかしつこい。
距離近いし肩当たってるし夏やから軽めの服装で、俺が見下ろせば胸元見えそうでエロいし、なんなんほんまに。

「なあ、なんでそんなカラオケ断るん?ええやん、行こうや。歌いたいやん」
「先週Mステで歌ったやん」
「それはそれやん。今週は歌ってないやん」
「どんなルールやねん。てか近い暑いお酒臭い」
「小瀧だってお酒臭い。すいませーん!ハイボール2つ!」
「え、俺ハイボールじゃなくて別の飲みたいんやけど」
「ほんなら頼みーや。ハイボールは私が飲む。てかさっきからペース遅いんちゃう?」
「厄介な酔っ払い…、お願いやから神ちゃんきてくれ…」
「ともは今日仕事でーす!とものスケジュール知ってまーす!小瀧のスケジュールも知ってまーす!明日はおやすみでーす!」
「うざい…」

変なテンションになった真夏は手がつけられへんしどんな対応してええのか分からへん。
メンバーやし、メンバーの好きな人やし、昔からビビってた先輩やし。
それでも席を立たへんのは、俺以外の人がこの絡みの対象になるわけにはいかへんからや。
俺やからセーフなだけで、照史が今ここに来たら最悪やで?
店員さんが持ってきたハイボールをほんまに2杯抱えようとしたから、すかさず1杯を奪い取った。

「カラオケ行ってどうするん?踊るん?」
「なんで踊んねん。今踊ったら絶対リバースやん」
「じゃあもうええやん帰ろうや。酔った真夏とカラオケ行くん嫌」
「なんでや、のんちゃんひどい」
「のんちゃん言うなや。自分、酔ってカラオケ行ったらどうなるか記憶ある?『しげちゃんのソロ曲がない!?』ってビービー泣いてんねんで?」
「それはしげちゃんのソロ曲入ってないカラオケが悪いやん」
「しげのソロ曲はCDになってませーん」
「なりまーす!今度ソロアルバム出しまーす!一周回った世界線ではリリースされまーす!」
「もー!うざったいな!酔い覚ましに外一周してこいや」

声が大きかったのか、スタッフさんが大丈夫?って声をかけてくれたけど大丈夫ですって力なく笑って応えた。
大丈夫ちゃうけど、真夏が潰れるまであと少しやろうな。
潰れたら寝てくれるから、そっちの方が好都合。

「なあ、なにしたらカラオケ行ってくれるん?」

こいつ、まだ諦めてないんか。
しぶとい。

「行かん言うてるやん。皆も行きたくないと思うで?」
「ほんなら2人で行こうや」
「行くわけないやん。照史に怒られるわ」
「なんで照史出てくんねん。別に怒られへんし」

他人事みたいにケラケラ笑ってんのがほんまにむかつくわ。
真夏は知らんし気づいてないんやろうな。
照史がどんだけ心配してるか、照史がどんだけ他の男を警戒してるか。
メンバーっていうても俺やって男やから、照史が絶対嫌がるに決まってる。

「お願い!1時間だけでええから!ちょっとだけ!それで満足する!」

引き下がらないこのお願いの仕方に関西の血を感じてしまった。
あれや、村上くんと一緒や。
ライブの後だろうと飲み会の後だろうと、カラオケに誘う執念。
さっきより近づいた身体が熱い。
密着して柔らかい胸が俺の腕に当たってるのを見て口元を覆った。
やったラッキーって気持ちを照史に申し訳なくて握り潰す。
なんやそれ計算か?
自分の武器わかりすぎやろ。
計算でそんなんできるんやったら照史にやれや。
これはもう行くしかない。
行って真夏の機嫌を取ったほうが、絶対に事は大きくならへん。
深いため息を肯定と捉えたのか、真夏が満面の笑みでガッツポーズした。
このカラオケ行こうや勝負、全っっっ然勝てへんな!!!



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