心という臓器などない。しかし確かに、君に触れるたびそこが確かな存在を放って叫ぶのだ@



「じゃーん!」
「M田や!」
「おお!買うてくれたん!?」
「当たり前やん!2冊買うたで!」
「ありがとう真夏!!!」

スマホの画面の向こうで真夏が嬉しそうに笑った。
今、日本では外出を控えなければならない状況になって、俺たちも集まって仕事をする機会が減った。
ライブもスケジュール通りに開催できなくなっていてものすごくもどかしい。
どうしたらファンの人を喜ばせることができるのか。
1人で家にいても何も解決せえへんから、俺たちは空いてる時間にこうやってテレビ電話で繋がっている。
全員が来るまでまだ時間はあるけど、暇やった俺と望と真夏はもうテレビ電話を始めてた。

「このはまちゃんめっちゃカッコええな」
「最初虫取り少年にしよかーって言うてたんやで?やばない?」
「それはほんまにやばい。売れへんやろ」
「あ、真夏も流星と同じこと言うてる」
「これやったら絶対売れる!大人の色気やばい!」

真夏がパラパラページをめくってるのは俺が表紙のアイドル雑誌。
ジャニーズWEST全員のソロ表紙が企画されて、今月は俺の番。
外出自粛と重なってもうたのはほんまに残念やけど、こうやってメンバーが手に取ってくれるのは嬉しいな。

「なんか恥ずかしいわ!そんなじっくり見んといて!」
「えーなんでや!見たいやん!かっこええもん!」
「ほんまに?」
「これはほんまに!お世辞とかちゃうで?」
「俺のやつ買った?」
「…私買った?」
「なんで自分に聞いてんねん!絶対買ってないやん!」
「どうやったかなー」
「真夏買うてたで?俺と一緒に本屋行ったやん」
「そうやったそうやった。小瀧のも買った」
「ほんまむかつく」
「メンバーの表紙のやつは全部買うたよ」
「嘘やん」
「ほんまやって。ちょっと待ってな?」

カメラがガタガタって動いて、ペチペチ裸足で歩く音が聞こえる。
映された本棚には俺たちの雑誌がぎっしり。
迷うことなく棚の1コーナーにカメラが向いた。
そこには今まで発売されたメンバーのソロ表紙の雑誌が綺麗に並べられてた。

「な?ほんまやろ?小瀧のもあんで?」
「ほんまや」
「真夏は誰が一番よかった?」
「しげちゃん」
「まだ発売してへん!」
「そうやっけ?」
「しげちゃんがどんな表紙にしようと優勝やねん。私には分かる。その未来がもう見えてる」
「きしょい」

あー、そうやった。
メンバーソロ表紙は俺が6番目、後はしげと真夏が残ってるんやった。

「真夏はどんなんにするん?」
「んー、まだ決まってないねんな。編集部さんからおすすめはいくつかもらったんよ」
「おつかれ。3人とも早いな」
「神ちゃん!おつかれ!」
「おつかれー」

真夏がゴソゴソ鞄漁ってるうちにスマホが4分割になった。
ドラマ用に黒髪になった神ちゃんが映って、カメラが安定しない真夏を不思議そうに見てる。

「真夏何してんの?」
「ノート探してる」
「今、真夏のソロ表紙なんにするか話しててん」
「あー、POTATOか」
「あった!これや!」

またカメラが動いて真夏の手とノートが映された。
箇条書きで書かれたのは編集部さんが考えてくれた真夏のソロ表紙のアイデアや。

「とりあえずさ、制服はやめたほうがええと思うで」
「よう見て。ちゃんとバツ書いてるやん。さすがに私もこの歳で制服はきつい」
「へえー、俺ん時と全然ちゃうな」
「いろいろあって面白そうやん」
「チャイナ服やばい!ちょっと見たい!」
「それもバツ書いてるやろ」

俺らと違って女の子やから上がってる候補も違うし、魅せ方も違う。
女性誌みたいに女性向けに振り切ってはいけないし、かと言って男性向けに振り切ってもいけない。
神ちゃんも望もリストを見ながらアイデアを出していくけど、リストの中にある”水着グラビア”には誰も反応せえへんし、そういうグラビア路線を誰もおすすめせえへんのが俺ららしくてええなって口元が緩む。

「ん?それなに?メンバーが撮るって書いてんで?」
「あ、これ編集部さんが一番おすすめしてくれた案。メンバーから見た私を撮るっていうやつ。神山さんとかどうですかー?って言われてん」
「ええやん!もちもんち人気高いし!」
「俺が真夏撮るってこと?上手く撮れるかなー?」
「ともやったら絶対素敵に撮ってくれそうやな」
「照史は?」
「え、」

ぽろっと言った言葉に真夏が息を飲んだ。
今はノート映してるから真夏の表情はわからへんけど、きっとびっくりして焦ってるんやろうな。
目に浮かぶわ。
ちょっとニヤニヤしてもうた俺とは対照的に、神ちゃんは真剣に考え始めた。

「ええんちゃう?照史から撮った真夏、絶対可愛えと思うけど」
「あかんやろ!誰が見んねん!それ売れるか?」
「売れるやろ。だって真夏が一番可愛い顔してるのって照史と話してる時やで?」
「っ、」
「さすが神ちゃん!ようわかってるやん!やっぱりきりもちやろ!」


照史が撮った真夏、俺も見てみたいしファンなら見たいはず。
俺たちもデビューして6年目。
この6年で積み上げてきたファンとの信頼がある。
照史が撮った真夏が表紙になったって、酷いこと言うてくるファンは少ないと思うで?
真夏があかんあかん言うて騒いでるこのタイミングで照史がテレビ電話に入ってきた。

「お!照史ええとこに!」
「おつかれ、え、なに?もう会議始まってるん?」
「POTATOの真夏のソロ表紙さ、照史が撮るってどう?」
「……ん?」
「っあ!真夏!?」
「逃げた!」
「待てや!スタンプテロしたる!」

首を傾げた照史とそそくさと退室した真夏。
そんなに逃げんといてよ。
絶対ええ写真撮れると思うで?


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