僕は君しか知らない



ずっとずっと悩んでいたことを知っている。
思いが強くてメンバーのことが大好きだからこそ、言えなかったことも知っている。
自分の熱をぶつけることが怖くて、それでも諦めきれないほど思いが強いことも、知っている。
知っていたからこそ、何も言わなかった。

「びっくりした」
「ん?」
「真夏ちゃんはもっとしげの味方すると思ってた」
「味方って言葉はちゃうやん?別に私ら対立してるわけじゃないし」
「そうやけど…」

事務所の廊下から車までの道で流星が振ってきた話は、さっきまでのメンバー会議のことやった。
しげちゃんが作った『間違っちゃいない』をメンバー全員で歌う。
そんな意見が出て、どうするかをみんなで話し合って。
結果的には歌うことになったけど、『間違っちゃいない』を作った時のしげちゃんは、まあ、結構な強行突破で突っ走ったから。
今回も意見のぶつかり合いは避けられへんかったけど、その中で私が一度もしげちゃんの味方をせえへんかったことが流星は引っかかってたらしい。

「私はしげちゃんのこと大好きやけど、全肯定するわけではないで?あかんことはあかんって言うし、反対することだってある。今回のこともさ、しげちゃんの考えもあるし私の考えもあるし、メンバーみんなの考えもあるからさ」
「あんまり説得力ないで?真夏ちゃんはいつもしげのことほぼ肯定やもん」
「ほぼ、やから!全部ではない!」
「いつからそんなにしげのこと好きやったっけ?入った時からそんなんやったっけ?」
「えー、その話する?長いで?」
「ええよ。こっから次のスタジオまで時間かかるし。今更やけど聞いたことなかったし」

しげちゃんを初めて好きになった時のことは今でも覚えてる。
まだ彼が幼くて、私も幼くて、何のためにアイドルをするのかふわっとしてた、あの頃。






「真夏!はよせえよ!」
「わかってる!」

ギラギラした瞳とギラギラした瞳がぶつかって周りの関ジュたちが萎縮したのが見えたけど無視した。
そんなものに構ってる暇はない。
見てるのは目の前のステージだけ。
京セラドームはあまりにも広くて大きくて、眩しい。
そこに立つ自分を何回想像しただろう。
歌って踊る自分を何回想像しただろう。
泣き笑いする私のファンの方を、何回渇望しただろう。
どうしてもそこに行きたかった。
どうしても越えたかった。
この暗幕1枚を、消し去りたかった。
次の出番に備えるためにともと何人かの後輩とステージ裏の暗幕に張り付く。
2センチの隙間から見えるキラキラな世界をともと一緒に焼き付けてた。

「あの、真夏さん、ちょっといいですか?」

耳元で囁かれた声にびっくりして振り返ると、立ってたのは重岡大毅だった。
まだ幼い、私よりも身長が低い。
明らかに私にびびってる声色なのに、ギラギラした瞳の温度が、きっと私より高かった。

「俺も見たいんで、右、ずれてほしいです」

お願いなんかじゃなかった。
私なんて全く見てなかった。
ステージだけを見て、そこに立ちたくて、でも立つことが目的じゃなくて。
この人はきっと、自分が作り出したい世界がある。
私にも他の関ジュにもデビューした先輩たちにも作れない世界を作ろうとしてる。
アイドルって職業もステージに立つことも京セラドームも、すべては手段だ。
重岡大毅が作り出したい世界を構築するための、手段でしかない。
すごいな、かっこええ、俺も出たい。
そんな言葉をみんなが呟くこの暗幕の裏側で、重岡大毅は何も言わなかった。
何も言わなくて、表情ひとつ変えずに、一瞬だけ唇を噛んだんや。

「っ、」

その瞬間に悟った。
ああ、かっこいいな。
この人はアイドルの中で1番熱い人や。
誰よりも熱くて、誰よりも強くて、誰よりも弱くて、だからずっとずっと一瞬たりとも目を離したくない。
この人が作る世界に私も在りたい。
そんなアホみたいなことを思って、後でともに話しても理解されずに笑われて。
でも、私は疑いもせえへんかった。
大袈裟やしほんまにアホみたいやけど、重岡大毅が世界を変えるって。






「って感じ」
「全っっっ然わからへん」
「せやろ?私もそう思うけど、あの時から私はしげちゃんのこと大好きやねんな。それに、……私が感じたあの感覚は今でも間違ってないと思うで」

重岡大毅は今もこれからも世界を変える。
そしてその世界に、私も在りたい。



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