もう手に負えない



「望、昨日頼まれてたの持ってきたで?」
「え、なんやったっけ?」
「パーカー」
「ああ!あれね!ありがとう!ほんならそれ真夏に渡しといて」
「え?私?」
「これ真夏にやったん?」
「ちょ、待ってなんの話?」
「昨日真夏とリモート飲みやったんやけど照史に全然会えへんから照史の服欲しいー言うてて、」
「小瀧ーーー!!!小瀧のぞむーーー!!!その口を閉じなさい!!!」
「ソーシャルディスターーーンス」
「ず、ずるい!そのワザを使うなんて!」
「なにしてん」

歌番組の収録に呼ばれた俺たちは感染防止のために人との距離をめちゃくちゃ空けて収録してる。
同じ部屋に集まった俺と望ともんちと真夏はそれぞれのスペースが決められてて、足元にあるテープより外へは行けへん。
テープのギリギリに立って精一杯腕伸ばしてる真夏と両手の掌を向けて見えないバリアを張る望は、ふざけてるんか真剣なんか分からへん。
真顔で突っ込んだもんちはあんまり興味ないのか台本に視線を戻した。

「なんでバラすん!?言うな言うたやん!」
「えー?そうやったっけー?結構飲んでたから覚えてないー」
「嘘つけ!」
「2人でリモート飲みしたん?仲ええやん」
「良くないわ。で、飲んでたら真夏が『コロナで照史に会えへーん!もう限界やー!』言うて、」
「言うてへんわ!」
「おもろかったから動画も撮ったんやけどー、」
「なに証拠残してんねん!?小瀧望!口を閉じなさい!」
「ソーシャルディスタンスええな。真夏が絶対こっちこうへん」
「のんちゃん、コロナ明けたらえらい目にあうで」
「で、俺のパーカーなん?」

なんで?って顔で真夏を見たら一気に顔が赤くなってひゅっと息を吸い込んだ。
さっきまで望に怒ってた顔が焦りに変わる。
真夏の言葉を聞き逃さへんように耳を傾けると、察した望ともんちが静かになった。
望、ニヤニヤ顔やめなさい。

「……」
「……」
「……自粛中、うちで着たいなー、なんて、思って」
「……」
「でもちょっと変態っぽいなって、思って、照史には言えへんなーってなって、で、小瀧にバラされた」
「……あほやん」

常に笑いのネタときりもちネタを探し回ってる望にそんな話したら面白がってこういうことになるって分かるやん。
それも考えられへんくらい酔ってた?
ソーシャルディスタンス保つのが限界やった?
そんなに、……俺のこと好きやった?

「真夏が欲しいんやったら貸してあげるわ」
「え!?」
「欲しいんやったらちゃんと欲しいって言うて」
「……」
「…ん?」
「……」
「……」
「……ほ、欲しい」

俺の好きな人が俺の服を纏う。
家で1人で過ごしながらも傍に俺を感じていたい。
なんなら包まれていたい。
それ、なんやねん、ほんまに、もー、

「かわええなあ、あほ」
「なっ、あほちゃうし」
「あほやん」
「お2人さん、ソーシャルディスタンスしながらいちゃつくんやめてもらってもええかな?」
「望がやらしたやん!」

あーあー、早く触れるようにならへんかな。
パーカーなんかなくても、俺が真夏を包めるようになったらええのに。
抱き締めて、触れて、キスして。
感じられたらええのに。



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