君の朝を欲すれど



楽屋の中からなんも音せえへんかったからまだ誰もおらんかと思った。
ガチャって開けてすぐ真夏と目が合って、挨拶しようとしたのにそれより先に『しぃ!』って人差し指を立てられて、俺の口は中途半端に開いたまま止まった。
え、照史が寝てるって珍しない?

「あ、レコメン?」
「そう、昨日木曜日」
「あー」

真夏のこそこそ声に合わせて俺も音を立てへんように荷物を下ろす。
椅子に座ったまま目を閉じてる照史は起きる気配ない。
夜中までラジオの生放送やって、その後打ち合わせかなんかあったんかな。
照史は翌日の仕事に響くようなことはない奴やけど、さすがに疲れるか。
え、よう考えたら照史の木曜日やばない?
ヒルナンデスの収録やってロケやってレコメンやろ?
しんどい…。

「ただ寝てるだけなんかなー、体調悪いんかなー」
「大丈夫ちゃう?体調悪いんやったらうちのマネージャーはこんなとこに1人にせえへんやん」
「そうなんやけど…」
「真夏、椅子座ったら?」
「んー…」

俺の話、ほとんど聞いてへんやろ。
椅子に座ってる照史を見上げるように床にしゃがみ込んだ真夏は、両目しっかり開けてじっと照史を見つめてる。
そんなに見たら穴開くんちゃう?

「顔色は良さそう」
「だから大丈夫やって」
「ほんならええか」
「なにが?」
「……」
「え、なにしてん、」
「しぃ!」

ゆーっくりそーっと立ち上がったと思ったらスマホのカメラつけてインカメに。
照史の隣に膝を曲げて立って、2人が入るように画角調整して。
笑顔で写りたいのかもしれへんけど、緊張してるから全然笑えてないで?
それ、隠し撮りやん。
2人の頭がこつんって触れた一瞬、シャッターが押されてカシャって音が鳴った。

「…真夏、ツーショットくらいさ、起きてる時に撮りたいって照史に言うたら?」
「言えへんよ。恥ずかしいやん…!」
「もー、何年それ言ってん」
「無理。だって別に付き合ってるわけちゃうし。付き合ってないのにツーショット撮るって変やって」
「昨日神ちゃんと撮ってたやん」
「ともはええの。同期やもん。……あー、ブレてる」
「起こして2人で撮りって」
「ブレててもええからもう満足。……へへ、嬉しい」
「……」
「あ、メイク順最初やから行くな?次小瀧やから、ここ来たらメイク室来るように言うてー」
「はいはい、いってらっしゃーい」

真夏はたかが隠し撮りのツーショットで何回ときめくんやろう。
2人の関係を横から見てたらそんなんさらっとできるやろって思ってしまうことも、本人にとっては大切でドキドキしてたまらんものなんかな。
って言うてもツーショット以上のことしてると思うんやけどな。

「……っあー」
「うわ!びっくりした!え、起きてたん!?」
「タイミング逃してもうた。なんなんあれ?しんど…」
「可愛い?」
「…聞かんといて」

いつから寝たフリしてたんやろ。
まあ確かにあんなにジロジロ見られたら起きられへんか。
ただのジロジロじゃなくて、好きーって目で見てたもんな。

「隠し撮り、どうやった?」
「起きてる時に一緒に撮ったらええやんって思ったけど、俺、……真夏と同じことして撮った写真いっぱい持ってる」
「あははは、2人で同じことしてるやん」

それならもう起きてる時に撮れや。



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