Wtrouble メイキング



Wtrouble メイキング






台本読んだ時の感情は、恋愛要素への驚き。
それも真夏としげ。
真夏から一方的にしげに好意を伝えることはあったけどあくまで重岡大毅のファンとしての感情。
そうじゃない男女の恋愛要素を目の当たりにして、ラブシーンって呼べるほどではないけど2人の絡みを見て、俺はどう思うんやろう。

「照史?」
「へ?あ、なに?」
「そろそろ始まるで?」
「あー、うん」

歯切れの悪い返事に真夏がきょとんって首を傾げた。
アキトとマナツが公園で落ち合うシーンの撮影が始まろうとしていた。
砂場に描いた絵を消すシーン。
監視カメラの画面を撮るシーンやからカメラマンさんもスタッフさんも遠くにいて、砂場には俺ら2人だけやった。

「元気ないやん、どうしたん?」
「別になんもないで?」
「ほんま?体調悪いわけじゃないんやったら終わったらうどん行こうや」
「お、ええなー。美味しいところ知ってんで」
「食べてからアジトのシーンいきたいな。お腹パンパンにせんと、今日夜遅いやろうし、もたん」
「しげとのシーンも今日撮るんか」
「そうそう。たぶん戦うシーンが夜まであって、朝方に歌のシーンやね」
「しげってほんまに歌うんやっけ?」
「うん。曲なんでもええって聞いたから負けへんでBabyをお願いしたんやけど断られた」
「そらそうや。シーンと全然合ってないやん」

軽い会話とは裏腹に心がざわざわしてた。
真夏はちゃんと台本読んだんかな。
しげだって読んだんかな。
台本、読み合わせの時よりシーンが足されてた。
しげが歌う早朝のシーン、監督さんの手書きの文字で”抱き合う?キス?”ってメモ書きがあった。
え、ほんまに?
メンバー同士で?
がっつりするん?
フリだけ?
どうなんやろ。
ほんまに、やるんかな。

「……真夏さ」
「ん?」
「しげとキスするん?」

革靴についた砂をはらうように爪先を擦り合わせた。
真夏の顔なんてよう見れん。
この質問、めっちゃ女々しいな。
女々しくて嫌になってしまうけど、真夏の返答が怖くて怖くて仕方がない。
これはお仕事。
ファンの方に楽しんでいただくための作品。
幸いにもしげもちを推してくれてるジャスミンもいるから、受け入れてもらえるかもしれへん。
でも、俺は…。

「え、あのシーンなくなったで?」
「え!?そうなん!?」
「うん、さっき監督さんが言うてた」
「え、あー、そう!なんや…」

ほ、ほっとした〜!!!
そうか、ないんか、しげと真夏のキスシーンはないんか!!!
よかった!!!
アホみたいに顔から力が抜けたからか、真夏があはははって笑い飛ばした。

「なんなん?それ気にして元気なかったん?」
「そら気にするやろ!」
「気にすることないやん。しげちゃんやで?」
「関係ないわ。真夏が男とキスするなら誰でも気にするって」
「私はお仕事やったら誰とでもキスできるで」
「はあ!?」

なんやそれ!
俺ばっかりやきもち妬いて俺ばっかり好きみたいやんか!
もーそんなん嫌や。
ムッとして爪先で砂を蹴ったのに、真夏はひょいっと避けてて、その余裕っぷりにもっとむかつく。

「桐山さん望月さん!撮りまーす!」

ああ、カメラが回る。
ムッとしてるわけにはいかへんから急いで表情を作ろうとしたのに、真夏は爪先で砂をかけ返してきた。

「ファーストキスは好きな人とできたもん。せやからキスは誰とでもできる。あれには絶対誰も勝たれへんし」

カメラには映らへんから砂場にはなに描いてもええって言われてたけど、ほんまに危なかった。
この子、なに考えてるん?
なんで今そんなこと言うん?
危うく砂場に『すき』って書くとこやったやん。
台本通りにいってたら真夏に足で消されてまう。
焦ってガタガタの字で『あほ』って書けば、真夏はしてやったり顔でその文字を台本通りに踏みつけた。
もー、ほんまにむかつく。






「真夏があっちで落ち込んでるから撮ったって」

なんて言いながらカメラさんを引き連れてアジトのセットを歩き回る。
全員が集まるアジトのシーンの撮影が始まる直前。
真夏はセットの暗い場所で丸くなってた。

「どう?姉さん調子どうよ?」
「……絡まんといて」
「ええ〜?なんでよ〜?」
「にやけてるやん!いじる気満々やん!」
「そんなことないって!」

って一応言うとこう。
ま、いじる気満々に決まってるやん。
朝からめっちゃ面白かったで〜。

「聞いてくださいよカメラさん。今日ね、スケジュール的にこのアジトのシーン撮って、そのあと真夏としげが戦うシーン撮るんですよ。それに向けて役作りのためにしげが真夏を避けてるんですけど真夏はしげと共演できるからめっちゃテンション高くてウザがられてるんですよ」
「だって嬉しいやん。重岡大毅と共演やで?めっちゃ気合入れてしげちゃんに話しかけたら『ごめん、雰囲気作りたいから話しかけんといて』って言われてん。悲しい…」
「真夏もしげにデレデレせんと雰囲気作ったら?」
「え?雰囲気ってよーいスタートってなったらできるやん」
「は?」
「それまでの積み重ねでカチッてスイッチ入れたら戦えるって」
「……たぶんその考えはしげとは違うんよ。せやから避けられてんねん」
「え…」

役作りは人それぞれやからな。
こうやってメンバーみんなで演技する機会なんてなかったから知らんかったけど、役に入り込むスイッチはみんな違う。
特に真夏は意味わからんけど、ずーっといつも通りケラケラ笑ってるのにカメラ回った途端に役に入り込める特殊な感じ。
そりゃ、ゆっくり役に入り込みたい人からしたら理解できへんやろ。
セットの椅子に腰掛けてじっと台本見つめるしげを、穴が開くくらい見つめてる真夏は完全にジャスミン。
でもカメラ回ったら、マナツになる。

「はああ…、役者重岡大毅たまらん好き」
「ほんまに?」
「ほんまに!しげちゃん好き!」
「っ真夏ちゃんそれやめて言うたやろ!!!」
「ごめん!!!」

やーい、怒られてやんの。






思いっきりやってくれ!とは言われても女性を思いっきり殴れる男って少ないんちゃう?
真夏ちゃんはずっと戦闘態勢。
リハだろうと本番だろうと、カメラが回れば役者のスイッチが入って本気の目で俺を睨みつけてくる。
凄まじい気迫に口がパサパサになるけど、ここでビビるわけにはいかん。

「行くで?」
「いつでもどうぞ?」

その余裕綽々の顔が少しだけ腹立たしい。
真夏ちゃんに勝ちたい。
勝つって何に?って感じやけどとにかく勝ちたい。
ストイックおばけに負けへん演技をしたい。
深夜の倉庫街で撮影スタッフさんに囲まれながらそう思って、息を吸い込んで殴りかかった。
練習した動きを同じように繰り返す。
でも演技やって分からへんように気迫を込めて。

「っうわ!」

え、やっば。
真夏ちゃんの気迫に負けへんように睨みつけてたら足滑った。
このままやと転ぶ、かもしれへん。
どうにか反対の足で踏ん張ろうと思って力入れたら、身体が地面に着く前に真夏ちゃんが俺の腕を掴んでぐいって引っ張った。

「あ、っぶな!」
「っ、」

ほんまに一瞬やった。
ぐいって強い力で引っ張られて、倒れそうやった俺の身体を支えて、守るみたいに抱きしめられて。
俺の身体に回った真夏ちゃんの腕はめちゃめちゃ細いのになんでか力強くて。
ぎゅって抱きしめられたから一気に変な汗出てきた。
身体、柔らか、

「しげちゃん大丈夫?」

鼻先当たってるんちゃう?って距離で、マナツのギラギラした目じゃなくて真夏ちゃんの心配そうな目で覗き込まれて、口の中もっとパサパサになった。

「だ、いじょうぶ」
「よかったー、しげちゃんになんかあったらどないしようかと思った。スタッフさーん!靴に貼る滑り止めとかないですか?思ったよりここ滑ります!」

想像もしてなかった事故にスタッフさんも心配して慌ててるのに、それを安心させるように笑って指示を出してる真夏ちゃんから余裕を感じる。
スタッフさんと話してる間も俺の腕をぎゅっと掴んだままで、まるで守られてる子供みたいや。
同じメンバーやからそんなに意識したことないけど、この人は俺より先輩で、年上で、ストイックで、メンバーを守れるほど強い人やった。

「…?しげちゃん?」

俺の腕を握ってた真夏ちゃんの手を強くぎゅっと握り返したら、不思議そうに首傾げたけど、目が合ったらにこって笑ってくれた。
なんどでも殴り合える、強い目やった。
あー、楽しいな。
こうやってメンバーと演技すること、真夏ちゃんと本気でぶつかれること。
楽しくて楽しくてしゃあない。
守られてる場合ちゃうで。
俺も、全力でぶつからなもったいないやん。



backnext
▽sorairo▽TOP