花のプロポーズに震えて
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  • 『ねぇドラコ』

    「何だ? 僕は今忙しいんだ、話なら後にしてくれ」

    いつからか、貴方は私を見てくれなくなった。

    『あのね、大事な話なの』

    「この僕の、貴重な時間を裂いてまで話す事か? 後にしろと言ってるだろ!」

    愛してると言ってくれた貴方は、もう居ないの?

    今ならパーキンソンの気持ちが良く分かる。
    相手にされない事が、こんなにも辛いなんて。

    『……分かった。ごめんなさい』


    ここはドラコの家。
    夏休み中にルシウスさんが招待してくれた。

    でも、それももう出来なくなる。
    今年で最後。

    『ドラコのバカ……っ』


    私は一応ドラコの恋人だ。

    でもそれはもう、この夏の間までの約束。
    私は、親に決められた許嫁と結婚することが決まった。

    ホグワーツを自主退学し、春から許嫁の所へ嫁ぐ事となっている。だからこの夏休みが終わったら花嫁修行で実家に帰らされる。
    逆らえない決定事項。

    ナルシッサさんは私の為に泣いてくれた、ドラコの事を大切に思ってる彼女は私の事まで気にかけてくれてた。

    ルシウスさんもこの事が決まった時、夏休みの間お家にいて良いと言ってくれたのだ。


    辛いだけだと分かってたけど、ドラコの側に居たかった。
    ちゃんと自分から別れを告げるためにも、私は今ここに居る。


    「夢子、話ってなんだ? 梟まで寄越して」

    同じ家に居ながら梟を飛ばした。
    今日、時間が空いたら中庭に来て欲しいと書いて。

    『ごめんねドラコ、忙しいのに』

    「あぁ、だから早くしてくれ」

    少し眠そうなドラコが中庭まで来てくれた。
    何に忙しいのかも教えてくれないけど、時間を空けて来てくれた事が、今は、とても嬉しくて悲しかった。

    言わなきゃいけない。私の口から。
    すうっと、少し冷たい空気を吸い込み、口を開く。

    『私ね、来年結婚する事になったの……』

    その言葉にドラコは目を見開いた。
    当たり前だけど、怒った表情をしてる。

    「何言ってるんだ? お前は僕と付き合ってるじゃないか」

    『うん、そうなんだけどね……。許嫁って親が決めちゃって、もう私じゃどうにも出来なくてっ』

    泣かないように我慢してた、でも、無理だよ……。
    ポロポロと溢れる涙は、綺麗に手入れされた中庭に染み込んでいく。

    「夢子はそんな事で僕との関係を終わらせるのか? そんな事で別れるなんて言うのか?」

    『ドラコ……っ』

    「そんな奴だと思わなかった、……話がそれだけなら僕はもう寝る」

    待ってと言いたかった、引き留めてドラコの胸に飛び込みたかった。
    でも、それは許されない。私がドラコを裏切ったんだから……。


    それから3日程経った、涙は枯れる事なく流れ続けたが状況が変わるなんて事はない。

    3日後は9月1日、ホグワーツ登校日。ドラコは新学期の準備で忙しくなる。私は新学期を迎えられない訳で、今日実家に帰ることになった。

    『ルシウスさん、ナルシッサさん、約1ヶ月お世話になりました』

    2人に向かって深くお辞儀をする。
    私にはこうするしか出来ないから。

    「もう会えなくなるなんて……」

    顔を上げると涙目のナルシッサさんに、私も涙腺が我慢できそうにない。

    『ドラコと一緒に居られた時間は、私にとってとっても大切で、忘れられない思い出になると……思います、っ』

    やっぱり、我慢できない。

    『わたしっ、ドラコと離れたくない! ぅ……っ』

    声を圧し殺して暖炉の前で泣き崩れた。
    ルシウスさんは頭を撫でてくれた、ナルシッサさんは一緒に泣いて抱き締めてくれた。

    なんでこんな私がスリザリンなのだろうか。

    ドラコと出会っていなければ、こんな気持ちしなくても済んだのに。


    「おい」

    未だにナルシッサさんの胸の中で泣いていた私に、一番聞きたくて、でも聞きたくなかった声が聞こえた。

    『ドラ、コ?』

    「何を泣いている、お前らしくもない」

    一応お見送りに来てくれたんだと思うと、胸が苦しい。

    『怒ってる、よね? ごめん……なさい』

    ドラコの表情はあの中庭で告げた時と同じままだ。
    最後くらい笑ってくれないかな、ってのは我が儘かな。

    「ああ、怒ってる。僕の努力も知らないで呑気に泣いてる夢子と、知ってて泣いてる母さんにな」

    努力? 知ってて泣いてる?

    『ドラコ、どういうこと……』

    言葉の意味がよく分からず、ナルシッサさんの肩口からドラコを見つめると1通の手紙を渡された。

    手紙を開いて、驚いた。

    「お前の両親に毎日手紙を送ってた。結婚を取り止め、僕との交際を認めて欲しいとな」

    手紙には自主退学を取り止め、許嫁の件は白紙に、お前の愛する人と結ばれなさいとだけ書いてあった。

    らしくないと言われたが涙は止まらなかった。

    『ドラコッ! あなたが好き。知らない人と結婚なんて嫌、私はドラコがいい……!』

    「それを聞けてよかった。中庭で別れたいって言われた時は吃驚したんだぞ。まあ、僕はどんな手を使ってでも夢子を手放したりしないけどな」

    そういうと赤、白、青の3本の薔薇を渡された。

    「卒業したら、結婚しよう夢子」

    『……うん! ドラコ愛してる』

    ナルシッサさんはいつの間にか離れていて、ドラコに抱き締められた。

    安心からと嬉しさからで涙と震えが止まらない。

    「夢子泣き止め、顔がぐちゃぐちゃだ」

    そう言って涙を拭ってくれた。


    後々聞くと、ナルシッサさんはドラコが手紙を私の両親に送っとることを知ってたみたいで、結婚は無くなるだろうと見越していたみたいだった。

    ルシウスさんはマルフォイ家を断れば私の親でも許さないとか、怖い事を言っていた気がする。

    貰った薔薇には枯れない呪文を掛けて、大切に飾ってある。
    彼が口で言わず、照れ隠しで使った花言葉のプロポーズ。



    花のプロポーズに震えて

    (白は私は貴女にふさわしい。青は奇跡、神の祝福。赤は貴女を愛しています。)

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