『あ、九ちゃん!』
「夢子ちゃんじゃないか、買い物かい?」
『うん、夕飯の買い出し』
知り合ったのは今年の春頃。
お妙ちゃんと並んでるいている所に出くわした時。
「最近寒くなってきたから風邪引かないように気を付けるんだよ?」
『九ちゃんてばお母さんみたいな事言ってー』
もうすぐ冬がやって来る。
他愛もない話をして笑い合う。
こんな時間がとてつもなく好きだったりする。
九ちゃんに出くわす道を覚えた。
九ちゃんが好きなものを覚えた。
九ちゃんの周りの人を覚えた。
九ちゃんが好きだって事が分かった。
九ちゃんが好きな人を知った。
『今日はお妙ちゃんと一緒じゃないんだね?』
「そんな、いつも一緒って訳じゃないよ。お妙ちゃんだって忙しいだろうし」
向かってる方向が同じだから一緒に歩く。
『そっか……。私ならいつも暇だよ?』
さりげなくアピール。
でも、九ちゃんは気付かない。
私が九ちゃんの事を好きだなんて、思ってもみないだろうし。
「夢子ちゃんだってお団子屋さんで働いてるじゃないか」
『でも、お妙ちゃんは夜働いてるから私の方が九ちゃんと時間合うかなって』
九ちゃんは困った顔でこちらを見てる。
私ってやな女かな?
相手が九ちゃんじゃなくて、男の人ならそう思うかもしれないけど、九ちゃんは女の子だ。
『ごめん、やっぱり今の無し。大の仲良しのお妙ちゃんの代わりに私じゃ、務まらないよね』
ごめんごめんと、軽く謝って気にしないでって声を掛けて、また普通に世間話して……。
なんで会って間もない九ちゃんを好きになっちゃったんだろう。
なんで、好きな人が居る人を好きになっちゃったんだろう……。
『あ、ネギ買い忘れた! 戻らなきゃだからここでバイバイ!』
考えが深くなってしまう前に離れなきゃ。
「ぇ、ああ、気を付けて行くんだよ」
嗚呼、そんなに優しい言葉を掛けないで。
貴女を戸惑わせてしまう私なんかに。
『ありがとう、じゃあね!』
「うん、また」
好きなんて言えない
(貴女が男で、好きな人がいなきゃ堂々と言えたのに。何て言い訳に過ぎない。私はずるい……)
rim
お代お借りしました。