『臨也さん、また人間、ですか?』
人間の部分を強調して言う。
私はその、人間の中に含まれていないから。
「まあね。自殺コミュニティに新しい子が来て、ちょっとね」
『そう、ですか』
彼は人間が好きだ。
彼の手のひらで転がされている彼ら達が、少し羨ましい。
「今日もバイトかい?」
『はい。後で、波江さんと出掛けてきます』
「そう。気を付けてね」
私の事には然して興味がないのであろう。彼は、話を聞き終わったとでも言うように直ぐにパソコンへと視線を戻してしまった。
人間に生まれなくても、パソコンと言う機械に生まれていたら触れてもらえていただろうか?
私はそんな歪んだ思考しか持ち合わせて居なかった。
「夢子、紅茶、飲むかしら?」
『あ、波江さん。……頂きます。』
返事を返すと紅茶を淹れてくれた。
人間ではない私に善くしてくれるのは彼女くらいだ。
例えそれが利用価値があるから、と言う理由でも私は彼女が友達として好きだ。
『今日も、よろしくお願いします』
「それはこっちの台詞よ。何時も悪いわね」
『いえ! 私が誰かの役に立てるなら……、こんな私でも』
私はセイレーンと言われるギリシャ神話の生き物の末永。
半人半鳥から半人半魚になった、今じゃ一般的に人魚と言われる生き物だ。
歌えば人間を殺すことができたり、涙や血肉には不老不死になれる効果がある何て言われてる。
実際、本当かどうかわからない。
私も本当に末永なのか……、血肉を食べた側の末永なのか今一分からない。
そこで、波江さんの研究のお手伝いをしている半面、自分の事を知る切っ掛けと思ってる。
これが、生活をするのに余るくらいの給料が貰えてしまうのだから驚きだ。
流石に切られたりしたら治るのにまあまあ掛かる。
涙や血の採血、鱗の採取等々が基本内容だ。
「神話の生物って自意識過剰な者が多いイメージだけれど、貴女は違うわね」
『それはよかったです』
やっぱり、波江さんは良い人だ。
その良い人を紹介してくれたのは、臨也さんだった。
「君達、楽しくお茶飲むのはいいど、俺の飲み物は用意してくれないのかな?」
「あら、そのくらい自分で用意しなさい」
「波江って、俺には酷いよね」
仲良さそうに話す2人を見て、羨ましく思う。
波江さんにその事を言うと凄く嫌がるけど、臨也さんの知人女性の中でも波江さんは一番近い位置に居る人だと思う。
『あの、私が用意しましょうか……?』
「……いいよ、楽しくお茶してるのを邪魔しちゃ悪いし。自分で用意するさ」
貴方が邪魔してきたんじゃない。
なんて、波江さんは言い返してくれるけど、私の心は沈むだけだ。
やっぱり人間でない化け物は彼には愛してもらえないのだろう。
何時も距離を感じてしまう。
興味だけで近づいてきた彼は、私がどんなものかを知ると他の居場所を用意して捨てた。
彼の駒にすらなれない私。
人魚姫が声を失ってでも、人間なりたかった気持ちが今はよくわかる。
彼のそばに居るだけでもよかったのだと、そして、最後には王子を殺せず泡となって消える存在なのだ。
私も彼ら彼女達と同じように彼に愛してもらえたなら、この声が無くなっても良いかもしれない。
一時でも愛してもらえたなら、泡になっても悔いはない。
同じだけの愛を
(人間になれたなら、同じだけの愛を降り注いでくれるだろうか)