『ぁ……』

梟に手紙をお願いしようと梟小屋まで来ていた私は、やどりぎの下に知ってる人影を1つとレイブンクローの女の子を見かけた。

彼を後ろ姿だけで分かってしまう自分が憎い。

『また告白されてる……、あ、走っていっちゃった』

レイブンクローの女の子は泣いていた。

あの子は振ったんだ……。

今がクリスマスの時期じゃなくてよかった。
なんて思ってしまった。

『さて、お母さんによろしくね』

クラッカーをあげていた梟は、任せとけと言わんばかりに羽をばたつかせ、ホーと一鳴きして小屋を出ていった。



「夢子! 何処行ってたの? 何処にも居なくて心配したんだからっ」

談話室に戻るとリリーに怒られた。
何処かに行くなら一声掛けなさいって、リリーはお姉さん通り越してお母さんみたい。

なんて、笑ったらもっと怒られた。

『ごめんってば。早起きしたから母さんに手紙出してきたの、なにも言わなくてごめんね』

「もうっ……、兎に角、何もなくてよかったわ」

ほっとしたのか顔が緩んでる、リリーはどんな表情でも美人だなぁ。
それに優しいし、頭良いし、ジェームズが好きになるのも無理ないよ。

リリーは嫌みたいだけど……。

リリーの事を好き過ぎる彼の事を思い浮かべていたら、本物がやって来た。
噂をすればなんとやらである。

「やぁ! 僕のリリーは今日も可愛いね」

「私は貴方の物ではないは、Mr.ポッター」

こんな言葉を恥ずかしげもなく言えるジェームズもジェームズだけど、それをなんとも思わず辛口で返すリリーもリリーだ。

2人を見てると私が可笑しいのかとすら思えてくる。

『ジェームズ、今日は珍しく1人なんだね?』

いつも4人一緒なのに珍しい。
1人はさっき見たけど……。

「……あぁ、夢子おはよう」

私が居るの、今気がついたなコイツ……。

「ピーターは宿題終わってないとかでリーマスに手伝ってもらってて奮闘中。シリウスは、いつものさ」

小指を立ててニヤリと笑うジェームズ。
分かっていたけど、言葉にされると少し辛い。

『……そうなんだ、それにしてもシリウスはモテるね。羨ましいよー、私も告白されたりラブレター貰ったりしてみたいものだよ』

笑って気持ちを誤魔化す。
こうでもしてないとやってられない。

「夢子はとっても可愛いわよ! 気付いてないだけで、結構視線を送ってる奴は多いわよ?」

そんなお世辞を言ってくれるリリーは優しいなぁ。

何て言ったらまた怒られた。
自覚が無さすぎるって、実際そんな視線を感じないんだから仕方ない。

「僕も夢子は可愛いと思うよ? ま、僕のリリーには劣るけどね!」

励ましてくれてるんだろうけど、私には貶しにしか聞こえませんよジェームズ君。

「ポッター、いい加減にしないと消すわよ」

『リリーさん、冗談に聞こえないから……。ジェームズなりに励ましてくれてるんだろうし、気にしてないから大丈夫だよ』

なんて優しい子なのっ! 何て言ってるリリーに抱き締められる。
何でこんなに過保護なんだろう。

苦笑いが絶えないよ……。

「朝から皆元気だね。何か良い事でもあったのかい?」

わいわい話していたらリーマスが男子寮から出てきた。
後ろにはピーターも付いてきているようだ。

「おはようリーマス、ピーター」

「おはよう夢子。今日も朝から賑やかだね」

「お、おはよう……」

2人はもう朝食の時間だからと部屋から出てきたようだ、確かに腹の虫が騒いでいる。

ピーターは手伝って貰ったにも関わらず、終わらなかった事で落ち込んでいるようだった。
確かに1限目の魔法薬学の授業で、宿題が終わってないとなると減点になりかねないからなぁ。

心の中でご愁傷さまと思いながらも、リリーに手を引かれて皆と一緒に大広間に行く事になった。



「あれ、シリウス先に来てたんだね?」

大広間に着くとリーマスがシリウスを見つけた。

「あぁ、腹が空いちまってよ……、先に食ってた」

わりぃな。なんて言いながらも、黙々と肉料理を口に掻き込むシリウスに、朝から凄い食欲だなぁと感心してしまう。

「今日はどんな子に告白されたんだ? 今回は付き合うんだろ?」

「いや、タイプじゃ無かったから振った」

そんな2人の会話が耳に入ってくる。
知らない振り知らない振り。

「そういや、夢子。お前朝からどっか行ってたのか?」

『えっ? な、なんで……?』

急に話を振られて挙動不審になってしまった。

「朝早く談話室出てくの見たからよ」

『あ、あぁ、お母さんに手紙を出したくて梟小屋に……』

あ、私が梟小屋に居たって言ってしまった。
あそこにシリウスが居たことを知ってると、暴露してしまったようなものだ。

「なんだ、お前見てたのか」

『……見たくて見たんじゃないよ。でも、シリウスはモテていいよねー、私、呼び出しとかラブレターも貰ったことないのに』

私もあの女の子達のように勇気があれば……。

「まあ、夢子みたいな女、中々貰い手が居ないかもな」

「あんた、何て事言うのよ! 夢子を狙ってる男は結構いるのよ?!」

シリウスの言葉にリリーが怒鳴った。
リリーは私の気持ちを知ってるから、でも、大広間で怒鳴るのは目立つからやめて欲しいです。

『リリー、私は気にしてないから、ね? ここ大広間だから、冷静になって……』

私が直ぐさまリリーを宥めると、回りの視線もリリーの怒りも収まった。

「ったく、お前の保護者はうっせぇな。ちょっと来い夢子」

シリウスはそう言うと私の手を掴んで大広間から引っ張り出された。

背後からリリーの怒鳴り声がずっと聞こえていて、振り向こうにも強く引っ張られて、取り敢えず大丈夫だからと言っておいたけど……。

戻った後シリウスはリリーに説教されるだろうなぁなんて、暢気に考えてしまった。

「……おい、おいっ。 夢子!」

『は、はいぃ!』

ぼーっとしていたせいで、イライラした顔のシリウスが目の前にいた。

『どうしたの? 急に引っ張り出して……。早く行かないと1限目、魔法薬学だよ?』

「お前、こんな時に授業の心配かよ……」

呆れた顔をされたが、どうして連れてこられたのか分からないし。

談話室に向かう廊下の逆側に連れてこられたのか、大広間から向かってくる生徒はまだ居ないようで、校内なのに静寂が2人を包んでいた。

『そりゃ、魔法薬学の授業に遅刻なんてすれば1人10点は減点されるだろうし、罰も受けなきゃじゃん。嫌だよ、絶対』

シリウスだってそういうのは嫌がる癖に、って茶化せば、今度は険しい顔に変わった。

「夢子、何で最近俺が告白されても女と付き合わないか、分かるか?」

何で、そんな急な話。

『……そんなの、私が知るわけないじゃん』

知りたくもない、好きな人が女の子に告白されているなんて事。

「エバンスが言ってた事、覚えてるか?」

何でここでリリーが出てくるんだろう。

『何処行くのよ……、だっけ?』

「その前だ、お前がモテるってやつ」

更に疑問が増えた。
何で今ここでそんな話をするんだろうか。

「貰い手がないなんて嘘だ。本当はラブレターだって告白してくる奴だっていんだよ」

『はぁ? シリウス、そんな嘘は通用しないからね! 実際手紙も貰ったことないし、シリウスみたいに呼び出されたなんてのもないし!』

そんな嘘を言うために引っ張ってきたのかこのアホ犬。

本当はジェームズ達も近くで見ているんだろうか。
荒手な悪戯だとしたら、シリウスと2人きりだと少し嬉しくなった私の気持ちを返して欲しい。

「……俺が潰してんだよ。お前に近付こうとしてる奴」

何を言っているんですか、シリウスさん。

『何を訳の分からない事言ってるの? やっぱりジェームズ達どっかに隠れて見てるの?』

「何でそうなんだよ」

『だって! シリウスの言ってる事が意味分からないから!』

バンッ

訳が分からなくて怒鳴ったら、シリウスが迫ってきて壁に追いやられてしまった。

廊下の壁に突かれた手が大きな音を立てて、私の知ってるシリウスじゃないとでまで思えてきた。

『どっ、どうしたの? 何か変だよシリウス……』

「お前が鈍感だからだろ! こんな事されて、わかんねぇのか? だったら……」

怒鳴られたと思ったらシリウスの顔が近付いてくる。
流石にここまで来たら私だって分かる。

キス、されそうになってる、私……。

『まっ待って! 私、シリウスが好きなの! だっ、だからね? 冷静になって話そうよ』

でも、ちゃんと気持ちを伝える前にキスだけされて、私の気持ちを弄ばれるなんて嫌。

「っ、おまっ、何でこういう時に冷静なんだよ」

『だって、何時も他の女の子にキスするの見掛けたりしてたし……。それに、流されて勢いだけでするなんて嫌だもん』

頬を赤くしてそっぽを向く、初々しいシリウスを不思議に思いながら自分の思いを打ち明けていく。

遊ばれるのは嫌だという勢いだけで告白してしまった事に、段々と恥ずかしくなってきた。

でも、もう止まれない。

『兎に角! シリウス達の悪戯でも唯の気まぐれでも、本当に好きな人に遊ばれるなんて嫌なの!』

「ちょっとお前黙れ! よくそんな恥ずかしい事がすらすら言えるな……。それから、俺は遊びでお前にこんな事をしてるつもりはねぇからな」

遊びじゃないって事はジェームズ達との悪戯でも、他の女の子にしているような事でもないって事……?

『じゃっ、じゃあ、どういう事なの? 何で私にこんな事するの!』

「あー、もう鈍いなっ、俺はお前が好きだって言ってんだ! お前に送られてくるラブレターをこっそり捨てたり、コクろうとしてる奴の邪魔したりしてたんだよ!」

先程より顔を赤くさせるシリウスに、夢子は黙ってしまった。

「おっおい? 夢子? どうしたんだよ」

『……なに、それ』

ラブレターを捨てた?
告白する人の邪魔をしてた?

「は?」

『何でそんな酷い事するの!? 折角私の事を思ってくれた人がいたのに!』

返事も貰えない、告白する事も出来ないなんて……。

『私だって告白出来なくて辛かったのに、そんな酷い事して! バカ犬!!』

「なっ!? 俺はお前を思ってだな!」

『そんなの! 私がちゃんとごめんなさいすれば良い事でしょ?! 私が好きなのはシリウスなんだから!!』

私が怒鳴るとシリウスは黙った。

2人して真っ赤な顔で、学校の廊下で、沈黙した。

心の中であ、もう授業遅刻確定だなぁとか、朝ご飯ちゃんと食べてないからお腹空いてきたなぁとか余計な事ばかり考えて。

「……その、悪かったよ」

『……っ、ぷ、あはっ』

ばつが悪そうに謝るシリウスが、少し可愛らしく見えて思わず吹き出してしまった。

「何笑ってんだよ! こっちは真剣に……!」

『ごめん! つい、シリウスが可愛くて……。こんなシリウス、知ってるの私だけだろうね?』

そんな事が今凄く嬉しい。

みんなが思ってるシリウス・ブラックに、こんな可愛らしい一面があるだうか。

私しか知らない、そんな彼を見れて、とても嬉しい。

『今度は勢いだけで言わないよ? ずっと、シリウスが好きだった。私と付き合ってくれますか?』

「ああ、俺も前から好きだった。だから最近は、誰にコクられてもOKしなかったんだぜ? 俺と付き合ってくれ」

『はい!』

額に軽くキスを落とされた。
取り敢えず2人で遅刻して怒られに行こうか。

リリーにも報告しないとね。



どさくさ紛れの告白

(うわっ、減点2人合わせて50点?! しかもマグル式のトイレ掃除……。シリウスのバカ! やっぱり嫌い!!)
(はっ!? 何でそうなんだよ!)

(喧嘩するほど仲が良いってこの事ね)
(なら! 僕らもそうだね、リリー!!)
(私と貴方は違うわ!)
(うぅ…………)

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