「……昨日、シズちゃんと一緒に居たでしょ?」
『うん?』
「何で、シズちゃんなの?俺という彼氏が居ながら浮気? 俺が見てないとでも思った?」
『違うよ! 買い物してたらバッタリ会っただけだよ?』
問い詰めるように顔を近付けてくる臨也。
どんどん夢子との間を縮める。
「でも、楽しそうに話してたでしょ。顔赤くしながら」
『あれはっ!』
「もういいよ、夢子はシズちゃんの方が好きなんだ」
近くにあった顔は、もう、近くになくそっぽを向いている。
玄関に気まずい雰囲気が流れる……。
「とりあえず、上がりなよ」
まず、切り出したのは臨也だった。
『……うん』
ココ、私の家だよね……?
疑問が浮き上がるも今は仕方ないと、臨也の言葉に従う。
「夢子はコーヒーにミルクと砂糖入れる?」
『う、うん』
臨也はキッチンでコーヒーを煎れている。
今確信した、臨也は何度も私の家に来ているようだ。
鍵変えようかな?
どうせ無駄になる気がするけど……。
でも、そんな事どうでもいい。
今は、臨也の誤解を解く事が最優先だ。
「どうぞ」
『ありがと』
私が考え事をしている内に、コーヒーが煎れおわったらしい。
臨也はそのまま、夢子が座っているソファーに座った。
「で、夢子が俺に飽きた理由は?」
『だっ、だから違うんだってば!』
「どう違うの? シズちゃんと居た事実は変わらないよ?」
意地悪、いや、意地が悪い。
自分は人が好き、愛してるとか言って、普通に女の子を抱きしめたりするくせに……。
私が男の子と少し一緒に居ただけで文句を言ってくる。
『偶々、買い物してたら会っただけだよ、それ以外に何も無いよ』
「じゃぁ何であんなに赤くなってたの?」
『それは……』
「何? 俺には言えない事?」
『そんなんじゃ、無いけど……』
「なら、言えるよね」
そう言われ、私は話す事にした。
『……高校時代の、臨也さんの事聞いてて』
「うん、それで?」
『臨也さんの事色々聞いたりしてたら……』
「うん」
『静雄さんが、「お前、ほんとに臨也が好きなんだなっ」って、言うから……』
「それで顔赤くしてたって事? ?」
『うん……』
「はぁー」
『なっ、何で溜め息付くの!?』
やれやれ、といった感じに臨也は溜め息を付いた。
「だってさ、本当にシズちゃんに盗られたらって、スッゴい心配した俺は馬鹿だなって……」
『え?』
「心配したんだよ? 俺の勘違いだったんだけどさ」
『ご、ごめんなさい……』
「ほんと馬鹿だよね。シズちゃんを本気で殺そうかと思ったよ」
『……それって…嫉妬したって事?』
「っ!……そう、俺はシズちゃんに嫉妬した」
苦虫を噛み潰したみたいな顔をしながら、臨也が言う。
『なんか、嬉しい』
「俺は嬉しくない、もう、あんな思いしたくもない」
臨也はまた、そっほを向く。
『臨也さん、好きだよ』
「俺は愛してる、愛してるよ夢子。人以上に」
臨也は機嫌が直ったのか、振り向いた。
『私も』
「だから……シズちゃんとは会っちゃ駄目だから」
『うん』
二人はソファーで寄り掛かり合いながら、一日二人きりで過ごした。