『セブルス、私はリリーじゃないのよ?』
「……ああ、分かっている」
分かっていると言う彼は、私を後ろから抱き締めたまま、離そうとする気配は微塵もなかった。
『なら、離してちょうだい。いい加減姉さんの事は忘れて、いい人見つけなさいよ』
彼が抱き締めているのは、私の中にあるリリーの面影だけ。
「分かっている」
どこが、分かっていると言うのよ。
私がどんなに傷付いているかも、貴方は知らないで。
『……分かってないわ。貴方は』
ハリー・ポッターが入学してきてから、彼のこの行為は更に増していた。
あきらかに、あの少年の瞳の中のリリーを私に求めている。
『私は、姉さんの代わりではないのよ。私は私。なぜ貴方は双子のリリーを好きになったの? 何故私じゃないのよ!』
大人しく抱き締められていた腕を振りほどいた。
『小さい頃から私は貴方しか見ていなかったのに、何でリリーなのよっ。私の中にリリーはいない! 似ていても私はリリーなんかじゃない!!』
立ち上がった私を見ている彼の目は、哀しみしか見えない。
「夢子……」
やっと、私の名前を呼んだ。
リリーではなく、私の名前を……。
「すまない、夢子……」
そして、思い知らされた絶望。
「我輩は、リリーが……忘れられん」
貴方はそう言って私を抱き締める。
それは姉のリリーの面影と温もりを求めて。
微睡みの中の現実
(貴方は微睡みを、私は現実を。抱き抱えたのは残酷な絶望だけ)