「やあ、偶然だね。夢子ちゃん」
いや、絶対偶然なんかじゃないだろ。
私は心の中で思った。
『お久しぶりですね。最近見かけないから、静雄さんにとうとう殺られたのかと嬉しく思っていたんですけど……残念です』
「ははっ、君はやっぱり面白いねぇ」
こっちはどこも面白くなんかねぇよ、と、心の中で悪態を付くが、いつか喉から飛び出してしまわないか不安である。
まあ、こんな奴と縁が切れれば一番良いのだけれど。
『私は面白くなんかありません。忙しいので、これで……』
「待ってよ、久しぶりに会ったんだからお茶していかない?」
背を向けようとすれば、手を捕まれた。
痴漢ですと叫びたい。
不審者の方が当てはまるかも。
『私、忙しいと言いましたよね? 聞こえませんでしたか?』
「相変わらず冷たいなぁ。どうせ帰ってお風呂入って本読むんでしょ?」
何でこいつは知ってるんだ。
いつもの私の日課を……。
バイトがないのも知ってるなんて、情報屋が仕事でも個人情報を勝手に調べるなんて、警察に捕まってしまえば良いのに。
『残念、今日は買い物行くので。じゃあ』
どうしても前から立ち退かない折原臨也にしびれを切らした私は、歩いてきた道を戻ってサンシャインでも行こうかと踵を返した。
買い物なんて行く気なかったのに。
「あれ、そうなの? なら俺も着いていこうかな。買い物するの付き合うよ」
誰も付き合ってくれなんて言ってない!
どうやっても着いてこようとする折原臨也に思いをぶつける。
可愛らしい恋の思いなどなんかじゃなく、どす黒い嫌悪感を。
『何で私に付きまとったりするんですか?』
「何でって、俺は人間を愛してるからね。だから夢子も愛してるんだよ」
さも、当たり前のように話す彼は異常だと思う。
マジでウザいな、この人。
『人間を愛しているならそこの歩道に沢山歩いてますよ? ほら、あの子とか可愛いじゃないですか』
指を指す方に一応顔を向ける折原臨也に、私はじゃあと言ってまた去ろうとしたが、残念な結果に終わった。
「おっと、逃げるなんて酷いなぁ。俺は人間を愛してる! もちろん君も人間だから愛してる。だからさ、君も俺を愛してよ」
本当に一方的だな、この人。
『人間すべてを愛してる人を愛せだなんて、愛人何人作るつもりですか? そして、私は貴方を愛したりしません』
「それは残念だなぁ。まあ、そう簡単に上手くいったら面白くないから、いいんだけどね?」
私のちょっとしたボケも無視ですか。
帝人君や門田さんなら突っ込んでくれただろうに。
どちらにしても面白くない。
静雄さんが、折原臨也を嫌いな理由が本当に分かるよ。
心の中で静雄さんに同情する。
今度会ったらプリンでも奢ってあげよう。
『折原さんに愛されるくらいなら人間やめます。今度こそ着いてこないで下さいね』
そう早口でいい、とっととサンシャインへ歩きだす。
流石に飽きたのか、もう着いてこようともしない折原臨也を振り返らずに歩く。
「……そういう所まで含めて、俺は君を愛してるんだよ」
何か喋った気をしなくもないが、今振り替えればあいつは今度こそ本当に着いてこようとするだろう。
折原臨也が呟いた言葉くらい何となく分かる。
どうせ、俺は人間を愛してる。だから君の事も愛してる。
こうとでも言うのだろう。
ごめんなさい、人間やめます
(あいつの駒になるくらいなら人間やめてやる)
お題お借りしました。
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