新宿の、とある高級マンション

『なーみーえーさんっ！』

「……貴女、いい加減にしなさい。毎回来る度に抱き付かないで頂戴」

『やですよ。波江さんに抱きつかないで誰に抱きつけと！？』

「貴女に話しかけたのが馬鹿だった」

はぁ、とため息を零す。
この女はまともに話しも出来ないのかしら

「臨也、あの子どうにかして」

「んー？ 無理無理、俺には懐いてないからね。彼女のお気に入りの波江さんは彼女をお気に召さないようで」

「…使えないわね」

少し怖がらせれば勝手に逃げてくかしら……。また、顔をあの首に変えて、誠二に見せて見ようか
そしたら誠二は帰ってくるかしら

臨也は大切なお得意様を私に取られたなどとほざいて協力しようとしないし。

『波江さん、今日こそ私とデートしてくださいよ』

「嫌よ、絶対に」

『えー、私のファストキスを取った癖に酷いですっ！』

この勘違い女……。
なんで私なのよ
中身は最悪だけど、見た目は普通な臨也が居るじゃない
誠二には劣るけどまだましよ。

「私は誠二と間接キスしただけよ。貴女は誠二と間接キスする為の道具でしかないわ」

そもそも、私が好意をもってこの女とキスするはずない

『私にとっては大事な大事な初キスなんです！ 誠二君とはキスなんてしてないですしっ』

……ぇ？
どういう事よ

「何よ、それ」

私が勘違いしただけ……？

『私はただ、肩に埃が付いてたのを取っただけです』

そんな……
勘違いでこの女とキスしただなんて。

『だから、責任取って私と付き合って下さい』

「……嫌よ」

何故いきなりデートから、付き合うに変換されるのよ。
絶対に嫌に決まってる。

『えー！？ 何でですか？！』

「そんなキス一つで責任だとか、好きになったとかくだらないわ」

そんなちっぽけな愛私の愛には勝てないわ。

『……私は諦めませんからね！！』

そう言うと帰っていった。
騒がしい女。

「あーあ、帰っちゃった」

「何よ」

コイツ消えたかと思ったのにまだいたのね……、流石暇人だわ。

「少しは優しくしてあげなよ」

「嫌よ、つけあがるだけじゃない」

「素直じゃないなー」

この男ふざけてるのかしら、私は素直に嫌いだと言ってるじゃない。

「煩いわね、さっさと仕事しなさい」

「仕事ねー。彼女が帰っちゃったから無くなっちゃったんだよ」

馬鹿にしたように笑う。

むかつく、うざい、最悪。
イライラするわ……。

「連れ戻せばいいんでしょ、たくっ」

「そうそう、流石波江さん」

コイツ、いつか殺してやるわ


厄介なお得意様

(貴女の所為で仕事が減るのよ、戻ってきなさい)
(戻ったら一緒にケーキ食べてくれますか……？)
(……そのくらいならいいわよ)
(即行戻ります！！)