「あ、あの………、」
喋ってると舌噛むぞ
…………………。


少しの距離を空けて先を走る神田さんに「黙って走れ!」と言われてのでその通り黙って走り続ける。


なんで私こんな一生懸命に屋根の上走らされてんだろう……。


水路から出て街を抜けて、大きな駅に着いたと思ったら近くの建物の屋根に移動させられた。

そこで数分ボーッとして、探索部隊の人の「汽車が来るぞ!」という一言で走り始まったわけだが、ぜんぜん二人に追いつかない。(むしろ離されてる気がする)

正直息が切れ切れになってきた頃、探索部隊の人が駅の屋根に軽々飛び移ったのが見えた――ってえぇぇえーそんな簡単に飛び乗れちゃうもんなの!?

走る足を止めて、茫然と飛び移った先を見る。
「とてもじゃないけど私にあれはできない」なんて思っていると、その後ろを走っていた神田さんが足を止めて振り返った。


「(あ、止まっちゃったの怒られる!)」


急いで足を動かそうとする前に神田さんが早足で私の目の前まで近づいてきた。あれもしかして怒られちゃうんじゃないのこれ。

「チッ」と盛大に舌打ちされ腕を振り上げられて慌てて「ひぃ!」頭を庇ったものの、お腹の辺りを抱えこまれた感触に「へ、」と間の抜けた声が零れてしまった。


もしかしなくても私、神田さんに抱えられてる?


チラと顔を盗み見てみればわぁめっちゃ青筋立ってるよ。
そんな神田さんは私を小脇に抱えたまま走りだしそのまま駅の屋根へと飛び移る。「え、ちょ、」


心の準備できてないのにィィィイー!
うるせぇ騒ぐな!


ズダン!と大きな音を立てて駅の屋根に着地した神田さん。

相当大きい音したからホームにいる人たちビックリしたんじゃないかな……。(ごめんなさいでも私のせいじゃないよ)

今だに小脇に抱えられながらぐったりしていると「すぐに汽車が来るぞ」という声が聞こえる。これは神田さんの声じゃなかったから探索部隊の人が言ったんだろう。

ていうかこの状況からどうやって汽車に乗るんだよ……………。そう心の中で呟いた瞬間嫌な予感に襲われる。

遠くを見れば汽車が走って来るのが見えた。
まさか汽車にまで飛び乗ることはないよね?と淡い期待を抱いていたけど、屋根の下から汽車の先頭車両が見えた瞬間、探索部隊の人が「今だ!」と合図を出したのと同時に屋根から飛び降りる二人。
もちろん私は神田さんに抱えられたまま。


ぎゃぁぁぁぁぁあ!
だから一々騒ぐんじゃねぇよ!


バシッ!


ィッタぁ………!た、たくことないのに…………」
「うるせぇ」


頭を思いっきり引っ叩かれたあと、ようやく降ろしてもらえたが早いスピードで走る汽車の真上に乗ってるもんだからバランスが取れずに後ろに倒れそうになる。
どーせならまだ抱えてて欲しかった。

ゆっくり汽車の上を歩いて行き、入れそうなところから中に侵入する。あれこれ立派な犯罪だよね?
乗っていたお客さんたちの変なものを見る目に戸惑っていれば「こ、困りますよそんなところから入って来られると!」と車掌さんに怒られた。

しかし車掌さんの目が私の胸元に行くと、サッと顔を青くして「もしかして黒の教団の………!」と言ってから「すぐに一室ご用意致します!」と頭を下げられた。「?」


「黒の教団ってのは、ヴァチカンの名においてどこでも優遇される存在なんだよ」
「へぇ………」
「俺は今回君たちと一緒に任務するウィルだ。よろしく頼むよ」
「あ、えと、ナマエ・ホワイトです」


差し出された手を軽く握り返す。

車掌さんに促されて誰もいない車両に案内されたところでウィルさんが真っ先に口を開いた。「しかし、」


「新人が君みたいな子供の女の子とはねぇ。今日初めて会って驚いたよ」
「は、はぁ…」
「まぁ神が選ぶのに歳は関係ないってことなんだろうけど」


「神田だってまだ子供だしな」と向かいの席でムスッと外を見ていた神田さんを見ながら言うウィルさん。

神田さん、大人っぽく見えるけど実際は私と歳変わんないのかな。


「ナマエは10歳………だっけ?」
「はい」
「神田は今年13だろ?まだまだ二人とも子供だな」


そう言って笑うウィルさんに対して神田さんは「歳なんざ関係ねぇよ」と低い声で返す。
それはただの威嚇なのか何か意味を含んで言ったのかわからないけど、私と三つしか離れてないとは思えないくらい怖った。

ウィルさんは何も感じなかったのか「とりあえず奇怪現象について話するけど、」と何事もなかったかのように話始める。
神田さんも資料を見ているから、さっきの言葉に意味はなかったのだろう。

私も慌てて資料をめくる。一番最初に目に入った文章は「神隠し?」


「あぁ。なんでも今から行く街で神隠しが起こったそうだ」
「あの、神隠しってなんですか?」
「そんなことも知らねぇのか」


いやいやなんでそんな睨まれなきゃいけないの私なんも変なこと言ってないよね!?


今にも人殺しそうな目から逃れるためにウィルさんにしがみつけば苦笑いされた。
そして「神隠しって言うのは」と語り始める。


「生きた人間がある日忽然と姿を消してしまったときに使われる言葉なんだ」
「行方不明じゃなくて?」
「生きているものが神域に間違って入ると現世から完全に消えてしまうから、神隠しって言うらしい」


「つまり神隠しにあった人が、行方不明って言われるわけだ」と続けたあとにニッコリ笑うウィルさん。

すぐあとに神田さんが「単にアクマに殺されただけじゃねぇのか」と呟くがウィルさんは首を横に振っていた。


「今から行く街の奇怪現象は神隠しだけじゃない」
「?」


「次のページを見て見な」と目で促されてその通りにパラリと資料のページをめくってみた。


「三年前に神隠しにあった子供が帰還?」
「そう。神隠しにあった子供が戻って無事に返ってきているというのがイノセンスの影響じゃないかと俺らは見てる」


神田さんの言葉のあとに続けるウィルさん。
「奇怪減少あるところに、イノセンスあり」と。


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