「ぅらあ!」
「ッ!」
ひゅっと風を切るように突き出された拳から、背を反って避けて目の前にある腕をガシッと掴んで思いっきり引っ張ってやる。
まさか掴まれると思っていなかった相手が「うおぉっ!?」と驚きの声をあげながら前のめりになったところを見逃さずに、右足を少し前に出して足を引っかけてやろうとしたが掴んだ手を振り払われてしまった。
「っと、危ねぇ危ねぇ………。」
「(あと少しだったのに……)」
大勢を立て直しながら私の考えてることを読み取ったのか「甘いじゃん?」とニヤッと笑う目の前の男は次の攻撃をしかけるために身をかがめた。
今度はなんだ、どんな攻撃だと男の目を反らさずいつでも回避できるように右足を後ろにずらした瞬間、地を蹴ってこちらに向かってきた。
小柄な体系を有利に活用した素早い蹴りや突きを繰り出されて中々反撃に移れない。
「さっきのチャンスを逃さなければ……」なんて、しても仕方ない後悔をしながら腕で防御しつつ攻撃を避けていたとき。
「どうしたナマエ、あれっきりぜんぜん攻撃できてないじゃん?」
「い、今考えてるとこなの!」
「そんな余裕あるかぁ?」
ピョンと跳ねたと思えばすぐに迫ってくる右脚。跳び蹴りだとわかりガードするために左腕を上げ体全体に力を入れたあとに衝撃がぶつかった。
よろけはしなかったものの痛みに顔を歪ませたのが悪かった。次の攻撃に備えるのをすっかり忘れていた。
左腕を降ろし相手を探そうとしたときにはもう、私の額に向かって手が伸びてきていたのだ。そして、
ビシッ!
「ッタァ!………………うぅ、」
「よっしゃオイラの勝ちだな!」
デコピンされた額を抑えて「くやしい」と呟けば「ナマエに勝つのは早いじゃん」と勝ち誇った顔をしながら言われた。くそう腹立つな。
「兄弟子に勝つにはまだまだ修行が足りねぇんじゃねーの?」と続けている目の前の男を見て思うこと。
今年17歳になったくせにどうしてこうも大人げないというかなんというか。(別に負けたから嫌味言ってるわけじゃなくてね!?)
彼よりも一つ年下のあの仏頂面のポニーテール男の方がよっぽど落ち着きがあって年上に見えるなぁと。
「お前今オレのことバカにしただろ」
「えぇ!?いやしてないよ思ってないよ!?」
「ほんとかぁ?」
「うん!デイシャより年下の神田の方が落ち着いてるなぁとかしか思ってな」
「バカにしてんじゃねぇか」
疑いの目で見てくるデイシャにそう言えば「お前なぁ!?」と怒声が飛んできた。短気なとこはどっこいどっこいかな……。
「大体人のこと言えねーだろお前!」
「13にもなってぜんぜん成長してねーじゃん!」ビシッと指をさされた先を目で追えば辿り着いたのは私の胸。
「オレにどうこう言う前に少しくらい女っぽくなってみやが」
バキィッ!
失礼なことをブツブツ呟いていたデイシャは「ぶへぇ!」とうめき声をあげながら数メートル先に飛んでいく。
「ふぅー」と息を吐いてから飛んでいったデイシャをキッ!と睨んでやればすぐさま起き上がって顔面を赤くしながら怒り始めた。
「おま、いきなり顔面殴んなよ!?」
「うるさいセクハラで訴えてやるかんな今度!」
た、確かにどんどん大人っぽくなってるリナに比べてみたら私なんてまだまだ幼児体型抜け出せないのは認めるけど……!
他人に言われるとすごい腹立つんだよ。
自分の胸を触りながら「ていうかまだ13歳だし!」と言ってから先生に言われたことを思い出す。
日本人は歳の割に見た目が幼く見えちゃうのは仕方ないことなんだって、こないだ帰ってきていた先生に教えてもらった。
つまり私が子供っぽく見えるのは日本人の血筋のせいだから仕方ない。
そう叫べば「それは違う気がするじゃん……」と小さく言うデイシャ。それにムッと口を尖らせてから「デイシャもう一回勝負!」と再戦を挑むことにした。
さっきのリベンジとセクハラとバカにしてきた分全部返してやる………!
本日二度目の組手が始まり、「今度こそ勝ってやる!」と意気込みながら回し蹴りをお見舞いしたがギリギリでかわされてしまった。
逆に回し蹴りされ返されたが、それをかがんで避けて下から思い切り足を上に伸ばしてデイシャの顎を狙ってみたが少しかすめただけだった。
顎についた擦り傷を触り「イテ、」と顔を歪めたデイシャだったけどすぐに口に弧を描いて「にしても、」と口を開いた。
「?」
「お前いつの間にか体術上手くなったよな」
「前まで凄い下手クソだったじゃん」思い出すように言われた言葉に、私も昔の記憶を掘り起こしてみた。もちろん組手は止めずに。
神田に戦う術を教えてもらい、体術を叩きこまれ始めた当初は私が一方的に傷を負い続けるだけだった。
少しずつでもまともに組手できるようになってきたものの、私が神田に対して攻撃を食らわせたことは一度もない。
「でもナマエは遠距離攻撃タイプなんだし別に組手にこだわることないんじゃねーの?」
「それなんだけど多分私の弱点になっちゃうんだよ」
「弱点?」
不思議そうな顔をするデイシャに「うん」と頷く。
私の対AKUMA武器である円月輪言ノ葉は飛び道具だ。敵に向かって投げたり自分に返ってこさせるなどコントロール重視の武器。
返って来る言ノ葉を最初は「ぎゃぁ怖い!」「だから何避けてんだこのバカ!」なんてこともあったし柄を上手く握れなくて刃で怪我もたくさんした。
今でこそ言ノ葉を”言葉”でではなく自分のコントロールだけで操れるようになってきたが、それが弱点だとも気づかされた。
「結構前に神田と対AKUMA武器使って手合せしたんだけど、」
「神田の六幻とか?」
「うん。まぁ神田に飛び道具通用するとは思ってなかったんだけどね」
まさかあっさり六幻で言ノ葉が二つとも弾かれると思わなかったんだよ!
返ってくるはずの言ノ葉が六幻によって弾かれ全然関係ないところに飛ばされてしまったのだ。
慌てて「”戻って来い!”」と言ったけどその隙を神田に取られて惨敗。こっぴどく叱られた。
「つまり相手に言ノ葉を弾き飛ばされたら終わり。それが弱点ってことか」
「うーん……。まぁ防ぎようはあるんだけど、あのときはどう対処すればいいか思いつかなくて」
弱点と言ってしまうと言ノ葉を加工してくれた化学班に申し訳ない気持ちになる。
円月輪という武器はもともとそういう戦術のものなのだから。
「だから言ノ葉での遠距離攻撃はとりあえず置いといて、近距離攻撃の白兵戦極めることにしたの」
「なるほど。ナマエもそこまで考えて戦うようになったんだな!」
「まぁそれ思いついたの神田なんだけどね」
「お前自身じゃねーのかよ!」
ビシィとツッコミを入れるデイシャに「だだだだだって言ノ葉のコントロールせっかく極めたのに!」と慌てて返す。
とにかく、三年間で私が身に着けてきた戦術は遠距離攻撃と近距離攻撃の二つだということ。
そしていざというときに”言葉”を使うために必要な集中力と、体力の増加。伊達に神田先生のスパルタメニュー受けてないよ!
「だから、」
「あ?」
「今度こそこの組手は勝ぁぁあつ!」
「おわっ!?」
「ふん!」と目もとに化粧を施している顔に向かって拳を突き出すと「いきなり危ねぇじゃん!」と避けられた。
何言ってんの忘れられてるかもしんないけど今組手の最中だからね?
「ったく、」と呆れられたと思えばすぐさま蹴りのオンパレード。だから大人げないんだよデイシャは!
しかしさすがあの対AKUMA武器、隣人ノ鐘――チャリティベル――の使い手とでも言うべきだろうか。拳より蹴りのが断然威力が高い。けれど、
「(私だって無駄に木刀横素振りしてるわけじゃないんだよ!)」
デイシャの華麗な回し蹴りを避けてすぐ背後に回り込み裏拳を入れてやろうと頭めがけて左手を振る。が、
「そこまで!」
「「?」」
後頭部を思い切り殴ろうとしていた裏拳を寸のところで止めてデイシャと二人、声のした方を見る。
リーバーさんが険しい顔をしながら「いい勝負のとこ悪いな」と言って近づいてきた。「今すぐに指令室に来てくれ」
「任務だ」
あとがき
前の話より三年経ってからのスタートです。
15話で戦術教えてもらって16話ですぐに戦術変えるってちょっと急すぎかな?とも思いましたが話を続けて行く上でここで主人公の戦闘スタイルについて書いておかないとあといつどこで書けばいいのかわからなくて……。
本当話の展開とか順序良く書けなくて悔しい、というか申し訳ないです。
それに組手シーンの難しさ……!色んな戦闘シーンのあるアニメを見て勉強しましたが、やっぱり文章にするのは大変ですね。
これからもどんどん組手やら戦闘シーンがたくさん出てきますが、あまり深く考えずに「多分こんな感じで戦ってる」くらいの目で見てください。(おい)
以上うるみ子でした。
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