リーバーさんに呼ばれて汗まみれにも関わらず指令室にやって来た私とデイシャ。

相変わらず指令室は資料が散らばっていて足の踏み場がない。

そして何時にも増して忙しそうに見えるのは気のせいなのだろうか。
化学班のメンバーが慌ただしく資料の束を持っては走り持っては走り……。

そんな彼らを見ていたけどコムイさんに「来てくれたね」と声をかけられたため視線をそっちへと変える。


「悪いんだけど詳しく説明してる暇はないんだ」
「任務か?」
「うん。君たち二人にはスペインで任務中のリナリーとスーマンの応援に行ってもらいたい」


そう言えばリナはこないだから任務だって言ってたなぁ。なんて頭の片隅で思い出しながらコムイさんの説明を聞く。

任務内容はアクマが頻繁に出没するスペインの街に破壊に行った二人の応援。
探索部隊からの連絡によればアクマの数が半端じゃないらしく、応援を頼まれたんだとか。

説明を聞いていた最中体にゾクッと悪寒が走り、思わず腕をさする。


「あ、あの、リナたちは……、」
「………わからない。ただ応援を呼ぶくらいだからね」


そう言って苦々しい表情をするコムイさんを見たらそれ以上は何も聞くことができなかった。

ここ数日、彼は仮眠さえ取れていないはず。何せ目の下の隈がいつにも増して濃いし、顔も凄く疲れ切っている。
それはコムイさんに限ったことじゃないが、室長という立場の彼にとって今回の応援に関して気が気でいられるわけがない。


「(リナ……、大丈夫かな)」
「で、応援はオイラとナマエの二人だけなのか?」
「神田君とマリには別の地方に応援に行ってもらってる」


今現在教団に残っているエクソシストは私とデイシャ、そしてチャーカーとカザーナの四人。
なのであとの二人を教団の護衛に残し私たちが応援に行くんだそうだ。


「支度が済んだらすぐに向かってほしい。案内は探索部隊に無線ゴーレムで連絡を取りながらしてもらう」
「りょーかい」
「はい」


鍛錬着のままだったため、一度部屋に戻って着替えなくては。そう思いデイシャに続いて指令室を出ようとしたとき、「ナマエちゃん」と声をかけられた。「?」


「…………頼んだよ」
「え、あ、は」


普通に「はい」と答えようとしてから、コムイさんが何を言いたかったのかがわかり「はい!」と大きく頷けば「ありがとう」と弱弱しい笑顔が返ってきた。

頭に浮かぶのは私と歳が変わらない、笑顔が良く似合うとても可愛い少女の顔。
彼女は私にとっても大切な存在。絶対に、


「(一緒に帰ってきて、ただいまって言おう)」


そしてお互いに、「お帰り」と言おう。















「せめて汗くらい流せたらな」なんて言うデイシャのすぐ横を苦笑いしながら走る。

相変わらずの飛び込み乗車をするために屋根伝いを走って移動しているのだ。

二人同時に「よっ!」と声を上げて駅のホームの屋根から飛び降りちょうどよく走ってきた汽車に飛び降りる。
ダンッ!とキレイに着地できたと思いきや、


「おぉっ!?」
「っと、何してんじゃん」
「ご、ごめんデイシャ……、」


バランスが取れず倒れそうになったところをデイシャに抱えてもらってなんとか走る汽車の上から振り落とされずに済んだ。あ、危なかった……。


「ったく。何時まで経ってもこれだけは上手くなんねーのなお前」
「何時までって……」
「本当じゃん?マリに聞いたぜ。こないだのこと」


「マリから?」と何のことを言ってるのかさっぱり思い出せなかったが「前にマリと任務行ったときのことじゃん」と言われてようやく思い出した。


「なななななんでデイシャが知ってんの!?」
「は?マリから直接聞いたんだよ」


「お前、屋根の縁の装飾に足引っかけたらしいじゃん」とバカにしたような笑いを向けられた。
汽車の上じゃなかったら殴りかかってるなこれ。という衝動を抑えて「マリめ……」と今はいない兄弟子に怒りの先を向けてみる。


「マリが咄嗟に抱えてくれたから助かったんだろ?良かったじゃん」
「あぁうん……。(あのときは本当に怖かった)」


屋根の縁の装飾に足を引っかけて飛び降り損ねた私をマリが抱えてくれてなかったら多分汽車の上に頭から落ちていた。
想像するとゾッとするなぁ……。

そう思うとマリに矛先を向けるのは違う気がしてくる。それにマリは神田やデイシャに比べてとても優しい兄弟子なのだ。まぁデイシャも比較的面倒見はいい方だけどね!

汽車の上の屋根から中に侵入し、中にいた車掌に声をかけて一室用意してもらうことになった。

誰もいない車両に通されてようやく落ち着いた気がする。


「しかし任務が他の奴の応援とはな。アクマの破壊だけならイノセンス回収より楽っちゃ楽だけど」
「コムイさんも言ってたけど応援呼ぶくらいだし……」


そこまで言っておいて不安になっている自分がいた。膝の上でギュッと手を握りしめてコムイさんの表情を思い出す。


「(すごく、辛そうだった………)」


きっと応援の連絡を受けたときすでに、たくさんの死傷者がいたのかもしれない。じゃなかったらあんな苦しそうな顔しない。
そう思うと白い服を纏った人たちが頭に浮かんできた。私たちと違って、アクマを倒す術を持たない人たち。


「(あぁ、)」


汽車がもっと早く走ってくれればって思う反面、今から遭遇する恐怖と絶望から逃げたくて「もっとゆっくり走ればいいのに」なんて思う自分がいるのが嫌だった。


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