「着いたさ〜」
「着いたね………」


汽車から降りて「んー!」と伸びをしているラビに続いて、私も荷物を地面に置いて「はぁ」と解放感からため息をはく。

相変わらず汽車は教団の特権で一車両貸切だから周りを気にすることはなかった。
ただラビが必要やたらに絡んでこなければ私だって騒がなかったし神田に「ウルセェ!」と殴られることもなかったんだけど!


「っつってももう真っ暗じゃん。今から情報集めすんの?」
「さすがに遅ぇだろ」


着いた時間がもう真夜中だからだろうか。神田の機嫌がすこぶる悪い。

舌打ちをしてから「宿探すぞ」と一人スタスタ歩いていく神田。ラビと顔を見合わせてからお互い首を傾げ「ユウなんか機嫌悪くね?」「多分着いたの遅いからだと思うけど」なんてコソコソ喋ってみる。


野宿してぇのかバカ二人
「「したくないです」」


真夜中の駅にキラリと光った鋭い眼に「ひぃ!」と怯えながら慌てて神田に追いつくように走り出す。
なんかもう目からビーム出せそうだよね神田って。




駅を出て少し歩けば街に着いた。

時間も時間だからやっているのは宿屋と酒場くらいで確かに情報収集はできなさそうだ。
今回の任務はイノセンス探しよりもアクマ退治が主らしいけど、これからどうするんだろうか。

神田を先頭に街の中をずんずん歩いていくうちに、路地裏らしいところに入ってしまったようだ。ていうかわざと入ったな。
「なんでこんなところに」と思ったけど神田の前に二人、私とラビの背後から三人人が現れた。


「街に入ったときから着けてられてたな」
「え、うそ」


薄暗い路地裏で挟み込まれたというのに何とも思ってなさそうなラビがそう言った。
私はと言えばまったく気づいてなかったから素直に「気付かなかった」と呟けば「何気ぃ抜いてんだ」とでも言うように睨んでくる神田センセー。

どうやら着けられていたらしい。神田とラビは街に入った瞬間から気付いていたらしいけど。


「だっ誰か着いて来てるなぁとは思ったよ!?」
「なんでそれがアクマだって思わねぇんだよお前何年エクソシストやってんだ!あァ!?
「さ、三年目です……………」


指で「3」と示せばすぐさま舌打ちされた。
「ちったぁ成長しやがれ!」と怒鳴る神田の声が路地裏に響くと、私たちを挟んでいる奴等がアクマの姿に転換する。

腰の両脇についたケースから言ノ葉を取り出すのと同時に振り向く。今目の前にいるアクマは全部レベル1みたいだ。
だからと言って油断はできない。ぐっと言ノ葉の柄を握ったときだった。「ユウとナマエ。ちょっと下がっててくんね?」


「「は?」」
「俺一人で片づけるさ」


珍しく神田と意見が合ったのか「何言ってんだこいつ」という視線を二人で送ると「見てなって」と口角を上げるラビは自分のイノセンスを解放させる。


「大槌小槌……………満満満――――!


ラビの持っていた槌がボンッ!と大きくなったと思えば私たちの背後に現れた三体のアクマが一気に振り払われあっさり破壊された。

あまりにも早くて口を開けたまま見入っていれば「伸!」という声が聞こえて神田の前にいたアクマたちに向かって伸びていく槌。

いつの間にか槌の先は元の大きさに戻っていたけど、アクマの元に到達した瞬間また大きくなりそれらを殴り飛ばした。
そして数分もかからないうちに五体のアクマを破壊してしまった。


「ら、ラビ凄い………………」
「まぁ雑魚相手ならこんなもんさ」


思わずパチパチと手を叩いてしまった。これが経験の差なのだろうか………。

満足気に笑って「さっさと宿探そうぜ」と路地裏を進んでいくラビは神田の横をすり抜けて行く。


神田はというと機嫌悪いのをアクマに当たり散らそうとしていたのか六幻を抜いて斬る気まんまんだったのに、ラビに全部破壊されて更に機嫌が悪くなったように見える。


「(今は声かけない方がいいな)」
「おいナマエ」
「(逆に声かけられた)」


「なんでしょう!?」と言ノ葉を構えながら言えば「さっさと行くぞ」と六幻を鞘に戻し踵を返して言われただけだった。めっちゃ声低かったけど。

なんか言われるんだと身構えてたのに思いの外(ほか)何もなくて「あ、あれ?」と首を傾げてしまう。

置いていかれる前に言ノ葉をケースに戻して二人を追いかけた。











路地裏を抜けて明るい場所に出れば簡単に宿屋を見つけられた。しかし、


「申し訳ございません。今晩はもうお二人様用の一部屋しか空いていないんですよ」


宿屋の主人がそこまで申し訳なさそうにしていない様子で「どうします?」と聞いてきた。
なんか前にも似たようなこと聞いた気がする。

「そうだ初めて任務のときだ!」とあのときは神田と二人きりで過ごしたことを思い出した。

ラビが神田と私に確認するように「どうする?今から他の宿探してもいいけど」と言うと主人が「あー、今からじゃどこも同じだと思いますけどね」と言ってきた。


「二人部屋に三人でお泊りになられるならお安くしときますよ」
「だってよ」
「チッ…………」


舌打ちをしてから「お前はいいのかよ」と言葉にはしないで目だけをこっちに向ける神田。ラビも「ナマエはそれでもいいんか」と聞いて来る。

正直言うと今からまた宿探しするのも嫌だし早く休みたい。

二人部屋とは言ってたけど、宿屋の主人だもん。その辺は布団貸してくれたり何かしら気は効かしてくれるだろう。
そう思って「うん。それでいいよ」と頷くと「ではご案内しますね」とすぐに部屋に通される。


「ではごゆっくりー」
「「「………………………。」」」


主人は布団を用意してくれるわけでもなく何も言わずにさっさと部屋を出て行ってしまった。

通された部屋にはソファなんて素敵なものはなく、大き目のベットが二つ並んでいるだけ。


「(ごゆっくりー。じゃねーよ!)」
「どーするんさこれ」
知るかよ


二つのベットを前に三人で立ちつくすしかない。神田に関してはまた更に機嫌悪くなってる。


「わ、私体小さいからシーツ貸してもらえればベットの間に寝るよ………?」


神田かラビが寝るにはこのベットの間は狭いだろう。そうすると二人より体が小さい私が寝るのが一番いい。

「一晩ならそれくらい我慢できるよ」と言えば「んなことダメに決まってんだろ!」とラビが全力で否定してきた。


「あ。俺とナマエ二人で一緒に寝るのはどうさ?」


「ナマエなら体小さいし窮屈じゃないしそれが良くね?」とまるで名案!と言うように笑うラビ。「いやいやいやいや!」


「なんでそーなるの!?」
「じゃぁユウと寝るか?」
「そ、それは…………、」


ベットと神田をちらっと交互に見て一緒に寝ているのを想像しようとしたけど恐ろしくてできなかった。「俺だって御免だ」


「長旅で疲れてんだ。別に変なことしねーから安心しろって」
「(へ、変なことってなんだろう)」


疲れてるのは確かだ。それに固い床で寝るよりもやっぱりふかふかのベットで寝たいのが正直な気持ち。

まぁラビが気にしないで一緒に寝てもいいと言ってるんだからいいか。神田とよりはゆっくり寝れそうだし。


「じゃ、じゃぁそれでいい……………」
「あいよ」


荷物を部屋の隅に置くと「今日はとりあえずもう休みますかー」とラビがさっさと団服のコートを脱ぎ始めたので私も上着を脱ぐことにする。

大き目のベットだし窮屈ではないだろうが、できるだけ端によって寝転がるとラビが続けて背を向けて寝転がった。

疲れからかラビが同じベットにいることなんて気にすることもなく眠気が襲ってきた。
それに逆らうことなく目を瞑ろうとしたけど、コートも脱がないで隣のベットに腰かけてる神田の方が気になり目を開ける。


「(神田は寝ないのかな)」


初めての任務で同じ部屋になったときはさっさと寝たのに。まぁありがたいお言葉を頂いてからだったけど。

資料の冊子をめくっている神田がいつ寝るのか気になってバレないように見ていたけど、やっぱり眠気には勝てずに目を閉じるのだった。


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