「ん…………、ん?」


なんとなく目を開ければ横向きになったままずっと寝ていたことに気付いた。背後からは同じベットで寝ているラビの寝息が聞こえる。

部屋の明かり具合からしてまだ陽は昇っていないようだ。

目をうっすら開けて視線をずらすと、資料を片手に膝を立てながらベットに腰かけている神田と目が合う。
「なに見てんだよ」とぶっきらぼうに言われたことで今度はばっちり目が開いたけど、中々言葉が出て来ない。


「お、おはよう……………?」
「………………………」


寝転がったまま「おはよう」と言っただけなのに(疑問形ではあったけど)何故か睨まれてる。

そこでふと思う。確か昨日寝る前に神田を見たとき、資料を読んでいたんじゃなかっただろうか。

まさかとは思うけど昨日からこれまで一睡もしていなかったということはないよね……?
コートも脱がないで資料片手に持っているところを見ると、その”まさか”ではないのかと思う。(でも何のために?)

例えその”まさか”だったとして、神田がこうして起きていなきゃいけない意味が見当たらないし。まぁAKUMAの襲撃に備えてっていう場合もあるだろうけど。
でも初めての任務のときなんかはコート脱いで無防備にさっさと寝始めてたわけだからAKUMAは関係ないか。

色々な可能性を考えてみたものの何も思い浮かばないから恐る恐る直接聞いてみることにした。「神田、」


「ずっと起きてたんじゃないよね………?」
「は?」


眉間に皺を寄せて「何言ってんだお前」みたいな顔されたから「あ、いやコート着てるから昨日から起きてたのかなぁ、と」と少しずつ顔を背けながら聞いてみる。あくまで寝転がりながら。
すると神田は「ンなわけあるか。素振りしに今起きたとこだ」と言ってベットから立ち上がり部屋を出て行こうとしていた。

何かあって起きてるのかと考えていたさっきまでの自分にため息をつき、「まだ陽昇ってないのによくやるなぁ」なんて他人事に思いながらもう一眠りしようかと目を瞑る。


「目ぇ覚めたんならお前も来いナマエ」
「へ、」


一度閉じた目をカッ!と開いて勢いよく起き上がり「いやいやなんで!?」と抗議の声を上げると、背中合わせで寝ていたラビがもぞりと動いてから上半身を起こした。


「んー………、もー朝?」
「ごっ、ごめんラビ。まだ朝じゃないし寝てて大丈夫みたいだよ!」
「ユウとナマエはなんで起きてるんさ」


寝ぼけ眼のラビに「ちょっと目覚めちゃって」と苦笑いしてから「でも二度寝するよ!」と言ったのに。


「何言ってんだ早く来いこのバカ!」
「ぎゃっ!ちょ、首根っこ掴むな苦しせめて上着着せてよ!


タンクトップの襟を掴まれてずるずる部屋の外に引っ張られていく途中「ラビ助けて!」と訴えてみたけど「いってらー」と手を振られただけだった。(おい!)

初めて朝陽が眩しくて辛いと思った瞬間だった。










「で、どこから当たる?」


宿屋で朝食をもらったあとすぐに街に出てきた。

昨日着いたときは夜中だったし人はぜんぜんいなかったけども、さすがに朝となれば働きに出て行く人などで溢れているようだ。

資料を見ながらラビが「噂の飴を喰っちまった爺さんのとこでも行ってみるか?」と言い、「まぁ妥当だな」と神田が呟いたのでとりあえず飴を食べて若返ったお爺さんのところに行くことになった。

しかしそうは言ったもののそのお爺さんがどこに住んでるのかわからないため、街の人にどこに住んでいるのか聞かなければいけない。
手当たり次第ラビがお爺さんのことを聞いて周っていたとき。


「おーい、黒い服着てるそこのお前さん」
「?」


後ろから声をかけられ振り返ってみると、ニコニコと笑っているお爺さんが近づいてきていた。
「な、なんですか?」と答えれば「お前さんたち他所から来た人だろう?」と聞かれる。


「は、はい。でもなんで」


「ですか」と続けようとした瞬間、お爺さんの指につままれた何かを私の口の中にポイと入れられる。
吃驚して慌てて吐きだすのを忘れて(しかも結構美味しい)思わずもぐもぐと食べてしまった。

どうやら球状のチョコ―レートだったらしく、まったりした甘みが口の中に広がっている。


「え、えっと……………?」
「ふふふ。美味しかっただろう」
「あ、はい。まぁ、」


更に笑みを深くしているお爺さんに「じゃなくてだからなんなの!?」と言おうとしたときだった。

急にグン!と目線が低くなった気がして目を瞑ると、耳の近くでポンッ!と大きな音が聞こえた。

その音に周りにいた人たちが反応して「なんだなんだ」とこっちに視線を寄越す。
その中に神田とラビもいたが、二人の顔は見たこともないくらい驚いた顔をしていた。あの神田でさえだ。


ナマエ、おま、なんだよそれ……………、
「マジかよ…………、」


ドン引きした二人の声を余所に自分の姿を恐る恐る見て見る。

団服の上着の袖はぶかぶかで腕が出て来ない。穿いているショートパンツなんて完全にずり落ちてる。言ノ葉のケースもだ。つまり、


「やった成功だー!」


「ほらどうだどうだ?あの店で買ったお菓子を食べたこの娘っ子が小さくなったぞおい!」と周りに聞こえるようにはしゃいでいるお爺さん。「いやいやいやいや!


どーいうことなのこれ!


お爺さんのはしゃぐ声を上回る私の絶望した声が街の中に響いた。


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