どどどどどどどどーしようこれ!


「どうしようこれ」と言ったつもりだったのだけど、思っているよりも自分自身焦っているようで言葉がどもっていた。

それはまた置いといて、完全にずり落ちたショートパンツと言ノ葉が入っているケースを拾いつつ神田とラビに問いかける。

私に変なチョコを食べさせたお爺さんと言えば「ほら見てみろ!あの娘!小さくなっちまったぞ!」と嬉々として周りの人に喋っているようだ。覚えてろよジジイ!

ギリィ!と歯ぎしりをしながらお爺さん(もうジジイでいいか)を睨んでいたけど、周りの人の視線が全部私に向いていることに気付く。
皆、異端なものを見るような目をしている。

そんな視線に気まずくなり逃げるように顔を俯かせた瞬間、ひょいっと体を持ち上げられる感覚に襲われ「おわっ!」と間の抜けた声が零れた。見れば視線が高くなっている。
顔を上げてみると、どうやらラビが抱き抱えてくれたらしくすぐ近くにオレンジ色の髪がある。


「ら、らび」
「もー、驚かせんなよなぁナマエ。急に小さくなったりすんなって!」
「へ?」


わざとらしく「皆ビビッてんじゃんほら!」と好奇の目で見ている人たちに向かって言うラビ。私と神田は何が何だかよくわからず言葉が出て来ない。
それにも関わらずラビは続けるのだった。


「いくら小さくなれる”特異体質”だからってところ構わず小さくなることないだろ」
「え、いや、」
「いやぁ〜。お騒がせして申し訳ないさー。こいつ自分の意志で小さくなれるちょっと変わった特技持ってるんさ」


そう言ってヘラヘラ笑うラビ。私はますます訳がわからず頭の上に「?」がつくばかり。

しかしそれを聞いた周りの人たちは「なんだ。あの爺さんが食わせたチョコのせいじゃないのか」「爺さんの悪ふざけかー」「しかしあの娘(こ)不思議な身体してるな」などと口にして去って行くではないか。


「ど、どーいうこと?」
「あのままチョコのせいで小さくなったと思われてちゃ、イノセンスの怪奇探しの邪魔されかねねーさ」
「??」


まだわからない。そういう顔をすると「好奇心旺盛な奴らに噂のお菓子屋とやらに大勢で行かれたら面倒だろ?」とニカッと笑うラビ。
そこまで説明してもらってようやくわかった。

ラビの腕から降ろしてもらって「そう言えばあのジジイは、」と辺りを見渡せばまだ近くにいた。
そして私に向かって「お前さんはチョコを食べたから小さくなったんじゃろ!」と騒いでいた。


こらジジイ!よくもこんな体にしてくれたなおい!
「ほ、ほら見たことか!なーにが特異体し」
うるせぇよジジイ


指をさしながら近づいてきたジジイを遮って六幻を鞘から抜き取り刃をチラつかせながら神田は「斬られたくなかったら変な菓子屋の場所を教えるんだな」と声を低くしながら言った。

六幻に怯えたのかジジイは「す、すぐ近くの古ぼけた看板のあるお菓子屋だ………」と震えた声で教えてくれた。
変なチョコ食べさせられてなんだこのジジイって思ってたのに神田に脅されてるの見ると申し訳なくなるのはなんでなんだろう。

「ひぃぃい!」と年寄りとは思えない速さで逃げて行くジジイの背中を見ていたけど「行くぞ」という神田の背中に続くように歩き出す。

ショートパンツは穿いてても仕方ないから畳んで持って歩くことにした。言ノ葉のケースはショルダーのようにして肩からかけておく。

スタスタ歩く神田とラビに置いていかれないようになんとか着いていくけど、小さくなった分歩幅が狭くなって小走りで着いて歩くのがやっと。
だけどブーツも今の足にはブカブカだから何度も転びそうになる。どーせなら服もブーツも縮んでくれれば良かったのに!

そんなことを思っていたらまたひょいと体を持ち上げられる感覚に襲われた。見上げればラビが後ろから抱っこをしてくれたらしい。


「歩きづらいんだろ?」
「う、うん。ごめんねラビ」
「いいっていいって。こんな経験滅多になさそうだしな」
「あははは……………、」


恥ずかしい気持ちの方が上回っているけど、この恰好で着いてまわるのは足手纏いかと思い今回は甘えさせてもらうことにした。
もう一度「ごめんね」と言うと、神田が振り向いた。


「まさか見ず知らずの人間から食い物もらって何も疑わずに食う大バカがこんな近くにいたとはな」
「ちょ、さっきのは不可抗力でしょ!?ていうか大バカって強調しないでよ!
「俺に抱えられたままケンカ始めんなよ!」


ラビの抗議も無視して「気付いたら口にチョコ入ってたんだもん仕方ないじゃんか!」と言えば体ごと振り向いて「それが油断だって言ってんだよバカかお前は!」と怒鳴って来る神田。
そんなこと自分で一番わかってるわ!


「大体そんな体でAKUMAに襲われたらどーする気だ!?円月輪扱えるとでも思ってんじゃねぇだろーな!」
「うっ…………、そ、それは、」


そういえば小さくなっちゃったけどイノセンスって発動できるのかな?と考えてみる。

投げることはできないかもしれないけど”言葉”で操ることはできるかもしれない。
そう言おうと思ったのに「例え”言葉”で操れたとしてもその小さい体じゃ体力なんてたかが知れてる。せいぜい”一言”しか操れねぇだろ」と先に言われてしまった。
そうしたら私完全に足手纏いじゃん。

何も言い返すことができずに俯く。すると上から「まぁ一日あれば元に戻るんだろ?なら心配ないんじゃね?」とあっけらかんと言うラビの声が聞こえた。
それに対して神田はすぐに「一日アクマに襲われない保障でもあんのかよ」と低い声で返す。


「ないとは言えないさ。でもその前にナマエを元の姿に戻す方法を見つけられるかもしれねーわけだろ?」


「今はナマエを責めるより怪奇の元を探すのが先さー」とヘラッと笑うラビに「なっ。ナマエ?」と顔を覗きこまれた。この任務にラビいてくれて良かったと心底思うよ今。

神田は「チッ」と舌打ちをしてまた足を進め始めた。これ以上何かを言っても無駄だと思ったらしい。ラビもそれ以上何も言わず歩き始めた。

あのジジイの言う通り、少し歩いたら古ぼけた看板のあるお菓子屋があった。
外から見てみるものの、お店の中にお客さんは誰一人いないようだし商品も埃被ったように見える。


「(ていうか私こんな不衛生なとこのチョコ食べさせられたの………?)」


なんて顔を青くしていると神田が無言で扉を開いてお店の中に入っていき、ラビに抱えられた私もそれに続いた。

中は埃っぽく、ところどころに蜘蛛の巣がかかって見える。とても営業しているようには見えないけど…………。

お店の中を見渡していると、奥からゴトッと音が聞こえてきた。

神田は六幻に手をかけ、ラビは私を抱えてるせいで槌に手を伸ばすことはできないけど身構えてるのがわかる。
私も言ノ葉のケースからいつでも取り出せるように手を伸ばす。あくまで抱えられながら。

店の奥からどんどんこちらに音が近づいてくる。「もしかしたらAKUMAかもしれない―――――、」そんな緊張が襲ってくる。


カタリ――――


「あ、あれ、お客さん?」


店のカウンターに現れたのは若い女の人だった。


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