宿の部屋に戻るとすぐに畳んでおいたショートパンツを手に取った。
男二人に「着替えるから出てって!」というわけにもいかず、神田のコート大きいからその下で隠しながら穿けばいいかと思い、もそもそと穿こうとしたのに。
スパンッ!
「ッたぁ!っ何でいきなり頭はたいたよ!」
「お前には恥じらいって言葉はねぇのか!?」
何故か怒鳴ってきている神田に「は、恥じらい?」と言えば「こンのバカ!」ともう一髪私の頭を殴ってから部屋を出て行ってしまった。(イタイ!)
「な、なに怒ってたんだろ。コートをカーテン代わりにしたこと?」
「ナマエって色気ねーよな」
「え、」
ラビが「あれはさすがに俺でも怒るわ」とボソリと言うから「なんで!?」と聞いてみた。ていうか色気ないってどういう意味だ。
キッ!と睨むと「あのなぁ」と呆れた声が返ってくる。
「せめて”着替えるから出てって……………”とか恥ずかしがって言えねーわけ?」
「うわ気持ち悪ッ」
「本気のドン引きヤメテ傷つくから俺!」
ショートパンツを腕に抱きながらラビから少し距離を開けると「今のはナマエへのアドバイスだろーが!」「もういいさ!」と捨て台詞を残して部屋を出て行った。
アドバイス?さっきの台詞を言えと!?
「(二人に気使っただけなのになんで私が悪いみたいになってんの)」
「私の気遣い返せ!」と心の中で愚痴りながらコートを脱ぎ捨てようやくショートパンツを穿いたのだった。
神田とラビが部屋を出ているついでに荷物を纏めてしまうことにした。
とは言ってもいうほど荷物を広げていたわけではないから、カバンだけを持ち部屋から出ることにする。
二人はすでに荷物を纏めて部屋から出ていたようだ。
忘れ物はないかと見渡してから脱ぎ捨てた神田のコートを拾い上げ目立つ埃を念入りに払う。
「こんなものかな」とようやく埃が見えなくなってから部屋を出ると、壁に寄りかかっている神田がすぐ目に入る。
ラビや探索部隊の人は?と見渡してみる。
それに気づいたのか「汽車の切符買いに探索部隊と先に行った」と言われる。なるほど。
「神田は待っててくれたの?」
「コート」
「(ですよね)」
手を伸ばし「早く返せ」と視線で言われ「長々お借りしました……」とコートを返せばすぐに羽織り「行くぞ」と歩きだす神田。
遅れないように私も足を動かすと、神田が急に足を止めてしまった。
「?かんだ」
「コートを無傷で返したことは褒めてやる」
「え、」
前を見据えたままそう言った神田。一瞬何を言われたのかわからなかったが確かに「褒めてやる」と言っていた。
それに気づいたときには大分神田は先を行ってしまっていたけど。
「(神田が、褒めてくれた)」
よく考えればコートはもちろん体のどこにも傷を負っていないことに気付く。
エクソシストになって、神田に会って戦い方を教わって、気づけば三年経ってて、初めて褒められた。
上から発言が気にならないくらい喜んでる自分がいる。
足を止めてボーッとしていると「何してんだ早く来い!」と怒鳴られ現実世界に引き戻されて小走りで追いかけた。
水路を離れて本部の中に入ると、ドッと疲れが襲ってきたような気分になる。
前にそう言ったとき、リナから「それは教団がナマエにとって居心地がいい場所だからじゃない?」と言われた。
「(そりゃ、ホームですから)」
コムイさんのところに報告に行く途中に神田がまったく違う場所に行こうとしていて(方向的に神田の部屋)「報告は!?」と聞けば「ハズレだったんだからお前らだけで十分だろうが」と言い残し足早で去って行った。
というわけで報告は私とラビだけで行くことになり、目的地に着いたのはいいのだけども。
「ただいま帰りましたー」
「おう!お帰りナマエ!無事に元に戻ったんだな」
「それにラビも、初任務お疲れ」とラビに労りの言葉をかけているリーバーさん。見ない間にまた隈増えたな………………。
コムビタンを渡しながら「今回の任務の報告しに来たんですけど」と言い周りを見るがコムイさんの姿が見当たらない。
「リーバーさん。コムイさんどこにいるんですか?」
「あー、あの人な」
遠い目をしながら「あの人は」と口を開いたリーバーさんにラビと二人で首を傾げる。
なんでもこのあいだ電話をしたことで仕事をせずにこっそり怪しい薬を作っていたことが皆にバレて、その上さらに新しい薬を作ろうとしたものだから自室に閉じ込めて缶詰状態で書類整理させているんだとか。
ラビが「いいのか室長相手に……」と呆れた顔で言うが、化学班の皆は当然の報いだと思っているらしい。
「それにそこまで酷じゃないと思うよ」と書類を運びながらジョニーが言った。
「なんで?」
「だって見張りにリナリーつけてるから」
「リナを?」
「うん」
ジョニー曰く、コムイさんの見張りにリナをつけているのはまだ万全の状態ではない彼女の療養も兼ねてそうしたんだとか。
リーバーさんもリナが近くにいればコムイさんも真面目に書類整理に取り組むだろうと考えているようだ。
「じゃぁ挨拶がてら報告しに行ってきます」と部屋を出てコムイさんの自室に足を向けた。
コムイさんの自室に近づくにつれて進める足が速くなり、気づいたときにはドアをコンコンとノックしていた。
するとすぐに「はーい?どちら様ですか?」と透き通った声が聞こえてくる。
「ナマエだよリナ」と言えば「待って、今開けるから!」と返され、ガチャリと鍵が開けられた。
「ごめんなさい。兄さんが逃げないように鍵をかけていたの」
「あはは。さすがにリナが見張ってたら逃げないんじゃない?」
そう言ってみたのだけど「そんなことないの!兄さんたら隙を見てはこの部屋から出ようとするんだから!」と頬を膨らませるリナ。見張りも大変だなぁ……。
ボロボロの状態で書類だらけの机に突っ伏しているコムイさんを呼び掛けると、彼の耳がピクッと動いた。そして勢いよく起き上がった。
「おかえりナマエちゃぁぁぁぁぁあん!皆ひどいんだよ僕を缶詰にして仕事させて!あげくにリナリーまで見張りにつけて!」
今にも飛びかかってきそうなコムイさんから距離を空けて「た、ただいま」と返す。
こんな状態の彼に報告は無理かな。なんて思い「あとで報告書書いて持ってきますね」とだけ言って部屋から出ようとしたが。
ガシッ!と腕を掴まれた。言わずもがな掴んでいるのはコムイさんである。
「ところでナマエちゃん。任務先で僕が作った薬を見つけたそうだけど」
「え、あ、はい」
「ていうかそれが奇怪現象の原因だったんですけど」とは言わずに「リーバーさんに渡しましたよ?」と言えば顔をズイッ!と近づけられた。
(ひぃ怖ッ!)(神田とは違う意味で怖い!)
「効き目はどう!?体に異常はない!?どのくらいで効力が切れたの!?」
「え、えっと、異常はないです。効力は、多分数時間……………?」
「数時間!」
「なるほどなるほど」とブツブツ呟くコムイさん。どうかしたんだろうか。
「コムイさん?何かあるんですかあの薬に、」
「そりゃぁもちろん!次に作る薬の参考にするのさ!」
「「…………………。」」
この人反省してないな。
リナと顔を合わせ「はぁ」とため息をついてみる。コムイさんは「どうしたんだい二人ともぉー!」と上機嫌で部屋の中で踊っている。
「兄さんの見張り。神田にでもやってもらおうかしら」
「それがいいかもね…………」
今はとてもじゃないけど室長の威厳なんでどこにも見当たらないのでコムイさんをフォローしてあげる気はまったく起きなかった。
「あ、そうだ。おかえりなさい。ナマエ」
「うん。ただいまリナ」
あとがき
三年目の話はここで区切りたいと思います。
主人公がエクソシストになって三年が経ち、ようやく一端に戦えるようになった。という話でした。
今回の任務で奇怪現象がイノセンスが原因ではないことにしたのは、数少ないのにそんなにイノセンス見つかるか?と話の都合がそっちの方がいいと思ったからです。
まぁ教団から薬が外に流出する方が可笑しいとは思うんですけど………。
次から原作の方に入れればいいなぁと考えていますので、どうぞお付き合いください。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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