震える両手をギュッと握りしめる。

「大丈夫、きっと夢だ」「おじさんが消えちゃったなんてことあるわけない」「目の前の怪物もカーネルじいさんなんかじゃない」

自分に散々言い聞かしても、目の前の状況が変わることはなかった。おじさんを撃ったと思われる銃口が今度は私に向かう。

「逃げろ」「逃げなきゃ撃たれる」そう言い聞かせても足はぜんぜん動いてくれない。


「(あぁ、もう)」


夢なら早く覚めてよ………。


ギュッと目を瞑って蹲ろうとしたとき、「ナマエ!」と悲鳴にも近い声が聞こえて、体をグイッを引っ張られた。


ドンッ―――


「っ、」


銃声が聞こえたけど、ギュウと抱きしめられててよく聞こえなかった。プハッ!と顔を離せば真っ青な顔をしている父さんが見える。


「え、なんで、父さんここに」
「そんなことより今は逃げるんだ!」


父さんに抱き抱えられながら家の外に逃げようとするものの、さっきの一髪のせいで家が壊れようとしてるのか埃が凄くて中々動けないみたいだ。


「クソッ!」
「マイク!こっちだ!」


声がした方に顔を向けると、お肉屋のおじさんが窓の外から手を大きく振っていた。どうやら窓から庭に逃げろということらしい。
父さんは「よし、」と窓に向かって走り出す。

なんとか家の外に出てきたけど、あの怪物の近くにいることに変わりはない。

お肉屋のおじさんの他に、八百屋さん、酒屋のおばさん、そして母さんがいた。


「あぁ……、ナマエッ!」
「うわっ、」


父さんに下してもらってすぐ、今度は泣いている母さんに抱き着かれた。「無事で良かった…!」と小さな声が聞こえて、ジワッと私も涙が溜まってきたのがわかる。


「おい!とにかく今はここから離れるんだ!じゃないと、」


ドッ―――


お肉屋のおじさんの言葉が遮られたと思えば、スゥと浮かび上がる数々の黒い星模様。びっしり黒い星で埋め尽くされて、最後にはボロッと砕け落ちた。


「な、な、なんなんだ…、」
あいつに撃たれちゃダメ!


粉々になったおじさんを皆が茫然と見ている中、母さんの腕の中から「皆砕けちゃうよ!」と大声で叫べば酒屋のおばさんが悲鳴を上げた。
それが聞こえたのか、怪物はおばさんに銃口を向けて、また一つ銃声を鳴らした。


「(おじさんが、おばさんが、カーネルじいさんが、父さんが、母さんが、私が、)」


一体何をしたの?


母さんの腕に込める力が強くなったのがわかり、私もヒシッと母さんにしがみつく。

そんなとき、誰かが走ってくる音が聞こえた。チラ、と顔を上げて見えたのは黒い服。「あ、」


「絵描きの、おじさん」
「遅かったか………」


「くっ、」と顔を歪ませているのは、昨日の帰りに会った絵をくれたおじさんだった。

おじさんは私に気付いたのか昨日と同じ笑顔をしながら「もう大丈夫だ」と言ってくれた。その言葉を聞いた瞬間、安心感が一気に体を満たしてくれた気がした。

次に聞こえたのは絵描きのおじさんの「よし、行きなさい」という言葉。(誰に喋ってんだろう?)
その言葉が聞こえたと思ったら、ヒュンッ!と光が私の手元に落ちてきて、慌てて手を出せばコロンと手のひらに転がった。


「石………?」


歯車みたいなものが石の周りをくるくる回って光ってる。

これはなんだろうと首を傾げていたけど、またも聞こえた銃声と「危ない!」という声にせっかくの満たしてくれていた安心感が消え去る。

鉄の塊が、怪物が、皆を危ない目に合わせてる。
酒屋のおじさんが、おばさんが、お肉屋のおじさんが、砕け散った瞬間が、真っ青な顔した父さんが、泣いた母さんの顔が頭を過ぎる。

自分の中で恐怖と、怒りが沸いてきているのがわかる。(だって、なんでこんな、悲しいことが、)

手のひらの上の石をギュッと握りしめる。(お前さえ出て来なければ、お前のせいで皆が)


お前なんか消えちゃえ―――――!


叫びに近い言葉を発した瞬間、石から眩い光が怪物に矢のように向かって放たれた。その光に貫かれた怪物はあっけなく爆発して消えたのだった。


PREVTOPNEXT
INDEX