修練場への道のりを歩く中、私のものではないブーツの踵がなる音が聞こえ、なんとなく音の方に顔を向けると外に向かって足を進める神田が見えた。

声をかけようかと口を開いてみたが返ってくる反応なんて睨まれるか聞こえないフリをされるとかとにかく声をかけた私が損した気分になるようなものしか返ってこないだろうからやめておく。

修練場に着く。まだ陽も昇っていないこの時間にここで鍛錬している人はいないようだ。

腰についたケースから言ノ葉を取り出し一度深呼吸をする。右手に握った言ノ葉を思いっきり前方に投げるのと同時に飛んでいくそれを追うように走る。
なんとか追いついたら手を伸ばし言ノ葉をキャッチし、今度は左手のそれを投げてから追いかける。

何度も何度も繰り返しているうちに、修練場に明かりが差してきた。
夜が明けた。食堂を取り仕切る料理長のジェリーさんを筆頭に朝食の準備を始めている頃だ。


「(ちょうどいいし、朝ごはん食べに行こうかな)」


言ノ葉をケースに仕舞いながら口にした「そうしよーっと」という言葉は、誰もいない修練場にひどく響いた。




意識はしていなかったが早く食堂に来ていたのか、あまり人は来ていないように見えた。

フライパンを振るいながら注文を受けているジェリーさんに「おはようございまーす」と声をかければ「アラん?おはようナマエ」と返ってくる。


「ジェリーさん、私オムライスでお願いね」
「またオムライス?いいけど、ちゃんと野菜も食べなきゃダメよーん?」


「急いで作るから待ってなさい!」と言われ大人しく待っていると、数分で熱々トロトロのオムライスが渡された。
しかもサラダのおまけつき。「頼んでないよ?」と聞くと「私からのプレゼント!これから毎日つけてあげるからちゃんと食べること!」と言われた。
(そんなに野菜食べてないのかな私………。)(確かにオムライスばっか食べてるのは自分でもわかってるけどさ!)

オムライスが冷めないうちに食べてしまおうと近くの誰も座っていないテーブルに着く。スプーンでオムライスを大きくすくって口に運び入れてるときだった。


「またオムライス食べてるのナマエ?」
「ん?あ、おはようリナ」
「おはようナマエ。口の端、ソースついてるわよ」
「え、うそ」


サンドイッチを乗せたトレイをテーブルに置きながら席に着いたリナが苦笑いしているから慌てて手で擦ろうとすると、
やんわりそれを制され紙ナプキンで優しく拭ってくれた彼女に「ありがと」と言えば「ナマエは手が焼けるんだから」とまたも苦笑いされた。


「昨日はゆっくり眠れたの?」
「うん。任務帰りだったし、ベッド入ったらすぐ眠れたよ」
「ならいいんだけど」
「リナは?ちゃんと寝てるの?」


ジョニーの話によれば、最近の彼女は化学班の手伝いをほとんど一日中しているらしい。

そのことを聞くと「手伝いなんて簡単なことしかしてないし、休む時は休んでるから大丈夫」と微笑むリナ。
その笑顔に若干疲れが見え隠れしているから「本当に?」と疑うように聞けば「心配し過ぎ」と頭を小突かれる。


「それよりも、ナマエの今日の予定は?やっぱり任務帰りだしゆっくり休むの?」
「うーん、そうしたいかなぁ。ここ最近任務続きでぜんぜん休めてなかったし、久々にお昼寝とかしたいかも」


なんて言いながらあくびを噛み殺していると、「あ、いたいた!」と誰かを探していたような声が聞こえてきた。
振り向けばジョニーがこっちに向かって手を振っているのが見えた。そこでなんとなく嫌な予感と悪寒がした。

わけのわからない寒気に両腕をこすっている私を余所に「どうしたのジョニー?」と話かけているリナに対し「班長がリナリーのこと呼んでるんだ」と答えているのが聞こえた。


「リーバー班長が?いけない、もうそんな時間だったかな」
「(なんだ、リナに用事か。私じゃないならいいや)」
「あとナマエも呼んでこいって言ってたから」
うそぉ!?


「私も!?」と大声を出したせいか、食堂にいる人たちの視線が一斉にこっちを向いた。
いたたまれなくなって首を竦めてもう一度「本当に私もなの?」と聞くと「う、うん。ナマエもって班長言ってたよ」と申し訳なさそうにジョニーが頷いたので間違いないようだ。

「わかった、食べたらすぐ行くね」と小さく返事をしたあと残ったオムライスをかきこみながら考える。

リーバーさんがリナを呼ぶ理由はきっとこれまでもしてもらっていた手伝いの件についてだと思う。
だがしかし私は手伝いなんて指で数える程度しかしたことないし彼に呼び出される理由なんて今まで一つしかなかったつまり!


「悪いなナマエ、昨日帰って来て早々。任務だ」
「(だよねー)」


リナと二人指令室に向かうと相変わらず床に散らばった資料と慌ただしい部屋の中。

本来私たちエクソシストに指令を出すはずのコムイさんからでなはくリーバーさんに「任務だ」と言われた瞬間に嫌な予感が的中してしまったことに思わず「私昨日帰ってきたばっか!」と叫びそうになった。


――――申し訳ないけどわがままは聞けないからね


頭を過ぎった言葉に頭をフルフルと動かした。

わがままは言えない。休みたいのは皆一緒。

机に突っ伏して大きなイビキをかいて仮眠を取っているコムイさんを目に自分にそう言い聞かせた。


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