今まであの街から出たことがなかったから汽車に乗って、汽車から見える外の景色は凄く新鮮だった。
あんな片田舎とは違って人がたくさんいて、お店もいっぱいあって活気が凄い。
もちろん都会だけじゃなくて緑が多い草原とかも汽車の窓から見えた。
「(世界は本当に広いんだなぁ)」
そして一緒にいるティドール先生はというと、ひたすら目に見えるものを絵に残してた。
周りから見ればすっごい不思議だろうから注目の的になってる。ましてやあの黒い服に金色の装飾が余計に目立つのかもしれないけども。
ちなみになんでティエドール”先生”なのかと言うと、私はエクソシストになるのと一緒にティエドール先生の弟子になるかららしい。
「いやぁ、女の子の弟子って欲しかったんだよねぇ」とかなんとか嬉しそうに言ってたから他にも弟子の人がいるのかも。
それはともかく、汽車を何本も乗り継いでようやく辿り着いたみたいだが。
「わ、わぁ………」
見上げながら思わず情けない声が出てしまう。ドドーンとそびえ立つ大きな黒い建物。一体何階建になっているんだろうか。
そして目の前にある顔みたいな門。(なんなんだろう)
先生の横で飽きることなくキョロキョロと周りを見渡していると、『悪いんだけど一応門番の身体検査受けてくれるかい?』という声がどこからともなく聞こえてきた。
よく見れば目玉に羽がついたやつがパタパタ飛んでこっちを見てる。
「検査?」と首を傾げれば先生が「教団に入る前に絶対やらなければいけないんだよ」そう言って私の背中を優しく押してくれる。
するとあの顔みたいなやつがニュッと出てきて目からビームのような光を浴びせてきた。(ていうか、)
「(こここここ怖ェェエー!)」
何を検査してるのかまったくわかんないけど、体中をたくさん照らされている。
しかしそれも束の間ピンポーン!という音が聞こえると門番(?)は「人間と判明!」と言ったえ、ていうか喋んのこれ?
「じゃぁ入ろうか」
「あ、は、はい」
「開門んんー」それを合図にゆっくり大きな門が上に上がっていく。
開いた瞬間にスタスタと中に入って行く先生に着いて行く途中、気になったことを聞いてみる。
「先生、」
「なんだい?」
「あの、さっきのって、」
「あぁ。門番の検査のことかな」
「あ、はい」
「あれは教団に入る前に、人間かアクマかを判別してもらってるんだよ」
「へぇ」と先生の説明に相槌をしてから「もし検査を受けてアクマだったらどうなるんですか?」と聞くと、
「教団内にいるエクソシストに破壊されてしまう」
とだけ言われた。上手く理解できなかったけど、とにかく私は人間と判別してもえらえたからいいのだろう。
先生の後ろを着いて歩いていると、白い帽子に白衣を来てる眼鏡をかけた男の人が近づいてきた。
「ティドール元帥!お待ちしてましたよ」
「やぁ。彼女の入団の準備はできてるかな?」
「もちろん。連絡を受けてすぐ始めましたから」
「そうか。ならいいんだ」
話が盛り上がる二人に疎外感を感じつつ「あいさつした方がいいのかな」なんて思っていると、白衣の人が「君がナマエちゃんだね?」とかがみながら話かけてきてくれた。
「は、はい!ナマエ・ホワイトって、言います」
「僕はコムイ・リー。ここ黒の教団の化学班室長です」
「よろしくね」と手を出された。恐る恐る握り返せば私とはぜんぜん違う大きくてゴツゴツした手だった。
握り返した瞬間、気のせいかもしれないけどコムイさんの顔が少しだけ寂しそうに見えた。(気がする)
「よし!じゃぁまず僕と一緒に来てもらうけどいいかい?」
「あ、はい」
「じゃぁ私は報告にでも行ってこよう」
「あぁ元帥。あとで僕も報告聞きに行きますよ」
「(え、)」
「先生は一緒に来ないの?」そう目で伝えてみると、先生は困った笑いをしながら「またあとですぐに会えるよ」と言う。
知らないところで例え誰かが一緒にいてくれると言っても、やっぱり顔を知ってる先生と離れるのは心細いのだけども。
「(わがままは言っちゃダメだ)」
ここに来るまでに、先生にエクソシストになるために大事なことを聞いた。
多くは理解できなかったけど、簡単に言うと子供だろうが大人だろうがエクソシストになれば皆同じなのだと。優遇はされない。
エクソシストはイノセンスの情報を元に見つけ出す。それには必ずAKUMAがついてくる。だからそのAKUMAを破壊する。
死と隣り合わせの戦いだけどAKUMAは、子供であっても用者はしないのだと。
それを聞かされたとき、先生は私に「ナマエにはその覚悟ができるか?」と言われた。
「(まだわからないよ先生)」
あの日の恐怖を忘れたわけじゃないし、父さんと母さんに会えなくなるかもしれないと思うともっと怖い。
コムイさんのあとを着いていくと、逆三角形の機械に乗せられてどんどん下に下がって行く。
「イノセンスは持ってる?」
「は、はい」
ポケットからイノセンスと呼ばれてる石を出して、手のひらに乗っける。その瞬間、体がフワッと浮く感触がした。
体中が白い物に掴まれてる。まるで私の身体を調べるように。
「たったすけ、父さ、かあさんッ――――!」
気持ち悪い、怖い。私はエクソシストにならなきゃいけないのに、今からこんなに怖い思いをしてる。
ずっと遠くにいる愛おしい二人の顔を思い浮かべて恐怖からなんとか逃れようともがいてみる。
「落ち着いて……、私はお前の敵じゃない………」
そんな声が聞こえた気がすると、大きな白い顔のようなものの額と私の額をピトリとくっつけた。
「11…23………54…………67%!」
ゆっくりと降ろされてから「お前のイノセンスとのシンクロ率の最高値は…、どうやら67%のようだ……」と言われる。
しかし私にその言葉はまったく届かず、ペタンと座り込んでしまった。
コムイさんの慌てた「大丈夫!?」という声が聞こえて、体を支えてくれる。
「ご、ごめんなさい…。大丈夫、です」
「こちらこそいきなりごめんね。怖い思いをしただろうけど、これは大切なことなんだ」
「私はお前とお前のイノセンスについて知りたかった……」
私やコムイさんよりもっともっと大きい白い奴は、「私はヘブラスカ」と言い私の名前を呼んだ。
「ナマエ・ホワイト………、お前のイノセンスはいつしか世界に光を照らす救世主を生むだろう……、私にはそう感じた…」
「救世主………」
「良かったねナマエちゃん。ヘブ君の予言は良く当たるんだよ」
笑顔で頭を撫でられるのをくすぐったく思いながら首を傾げる。
「良かったね」と言われても何が良いのかさっぱりわからないんだから。
「改めて、入団おめでとうナマエちゃん。今から君の部屋に案内しようと思うんだけど、」
「あ、よ、よろしくお願いします」
頭を下げてると、スッと手が差し出された。その行動の意味がわからなくてまた首を傾げると、「あ、ごめんね」と困った笑みをするコムイさん。
「ナマエちゃんと同じ歳くらいの妹がいるから、なんだか同じようにしちゃって」
「あ、い、いえ」
「よし、じゃぁ行こうか」
差し出された手が引っ込められて、あれが手を繋いでくれようとしてたのだとわかるとなんだか申し訳ない気持ちになる。コムイさんなりに気をつかってくれていたのに。
逆三角形の機械が上に上がっていき、部屋がたくさん並ぶ階に着く。その一室の前で立ち止まり、コムイさんが「ここが今日から君の部屋だよ」とゆっくりドアを開ける。
「好きなように使ってくれて構わないからね」
「は、はい」
「あとで教団内を案内してあげるから、それまでゆっくりしてていいよ」
トランクケースをベットに置いて部屋の中をグルッと見回してみる。殺風景なコンクリートの部屋だ。
クローゼットの中は何か入ってるんだろうか。なんて考えていると、ポンと頭に手が置かれた。少しだけ見上げれば、コムイさんが私の頭を撫でていたのだとわかる。「?」
「これからきっとナマエちゃんの人生は大きく変わってしまう。辛いこと、悲しいこと、ここでたくさん経験していくと思うんだ」
さっき見た、少し悲しそうな顔をしていて私は黙ってそれを見る。それでもコムイさんは口を動かしていた。
「でもね、せめて教団に……、ホームにいるときだけは、安心して僕たちに頼って欲しいんだ。約束できるかい?」
頭を撫でる手を止めて、今度はかがんで小指を差し出された。小指を恐る恐る出すとそれをしっかり絡められる。
「今日から、君と僕は家族だ」
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