コムイさんに案内された部屋のベットに座り込み、トランクケースの中身をがさがさ漁って見る。

出てくるのは下着やら着替えやらそんなのばっかりだけど、一番奥底にあったものを取り出せば、少しクチャクチャになってしまった絵が出てきた。
ティエドール先生と初めて会ったときにもらったあの街の絵だ。

出てきてからまだ時間は経ってないというのに、もう懐かしい気持ちになるのはどうしてだろう。

擦れてしまったところを指で撫でていると、コンコンとドアが叩かれた。「は、はーい!」と慌ててベットから降りてドアを開けてみるとそこには長い黒髪の女の子がいた。


「こんにちは」
「え、あ、こ、こんにちは……」
「私リナリー・リーっていうの。あなたはナマエでしょう?」
「あ、はい」


「どうして知ってるんだろう」と口には出さなかったけど、顔に出たのだろう。目の前の女の子は「兄さんに教えてもらったの」と可愛い笑顔を零した。
「兄さん?」と首を傾げてリーという名前にあっと気付く。この子はきっとコムイさんの妹だ。コムイさんもさっき私と同じ歳くらいの妹がいると言っていた。


「これから教団の中を案内しようと思うんだけど、」
「あ、よろしくお願い、します。リナリーちゃん」
「…………。」
「?」


部屋から出ながらペコッと頭を下げたら、リナリーちゃんはムスッと口を尖らせてしまった。(あ、あれ、私何かしたかな)


「もう。歳近いんだからそんな敬語なんていらないわ。名前も呼び捨てにしてね?」
「え、でも私10歳で、えっと、」
「あ、じゃぁ私の方が一つお姉さんね」


「それでもタメ口でお願いね」とニッコリ笑うリナリーに思わず顔が緩くなるのがわかった。おまけにとっても可愛い。

リナリーに着いて行きながら教団内を案内してもらう。
とりあえず私が行きそうなところを教えてもらって、あとは生活していくうちに覚えられるだろうと言われた。

ちょうど談話室の近くに戻ってきたとき、彼女の顔がすごい嬉しそうに見えたから「どしたの?」と聞いてみると、「え?どうして?」と不思議そうな顔をされた。


「なんかずっと嬉しそうに見えるから、何かあるのかなぁって」
「実はね、私ナマエが教団に来てくれて凄い嬉しいの」
「どーして?」


純粋な疑問を言えばリナリーは「ふふっ」と笑って「だって同じ歳くらいの女の子、ここにはぜんぜんいないんだもの」と言った。


「ティエドール元帥から連絡来たときからナマエが来るまで凄く楽しみにしてたのよ」
「そうなんだ」


そう言われると私もなんだか嬉しくなってくる。だってこんな可愛い子とお友達になれるとか自慢できるレベルじゃない?


「これからよろしくねナマエ。困ったことがあったらすぐに私に言ってね」
「うん。ありがとリナリー」


ギュッと二人で固い握手を交わしていると、「おや。もうリーと仲良くなったのか」という声が聞こえた。「先生!」「元帥!」


「先生、もう報告終わったんですか?」
「うん。ついさっきね。ところで、リー」
「はい?」


先生がリナリーに「ユー君どこにいるかわかる?」と聞くと、リナリーは「多分修練場だと思うけど」と答えてた。
それに対して先生は「ありがとう。あとナマエを借りて行ってもいいかな」と言われた。


「いいですよ。それじゃぁまたねナマエ」
「うん。またねリナリー」


ヒラヒラと手を振ってから踵を返すリナリーの長くてキレイなツインテールが揺れる。それを見送ってから先生に着いて歩く。


「いや、女の子同士の会話を見てるととっても和むねぇ」
「………。」


短い間しか一緒にいないけどたまにこの人何言ってんのかなって思う。




先生と修練場に足を踏み入れると、周りにはチラホラ体を鍛えてる人がいた。

キョロキョロ見渡しながら歩いているうち、先生が足を止めて「おーいユーくーん」と誰かを呼ぶ。
「ユー君て誰なんだろ」と思って先生の視線の先を見て見る。そこには黒いコートを羽織ったポニーテールの人が刀を振るってる。が、
一瞬にしてコッチを目で人殺せる勢いで睨んできた。(ひぃ怖ッ!)


「………元帥。その呼び方やめてくださいと言いましたよね」
「いいじゃないユー君」
………………。


なんか今にも血管切れそうだけど大丈夫なんだろうか。ていうかユー君て人男なんだ女の子かと思った!(怒られそうだから絶対言わないけど!)


「で、何か用ですか」
「あぁうん。今日からエクソシストになったナマエだよ」


先生に肩を押されてユー君の前に出される。ビクビクと顔を上げればキッ!と睨まれた。(えぇなんで!?)
しかしすぐに珍しいものを見るような顔をされる。


「日本人?」
「そうだよ。ユー君と一緒。だからこれからナマエちゃんの面倒見てあげてね」
「「は?」」


偶然にもユー君と私の声が重なった。じゃなくていやいやいやいや何言ってんの本当ていうか何だ”ちゃん”て!
ていうかこのユウ君の第一印象からして絶対「はい」って言わないよ絶対!


断る
「(ほら!)」
「そんなこと言わないでよ。ナマエちゃんはユー君の妹弟子なんだから」


「兄弟子が面倒見るのは当然だろう」と私の肩を持ちながら言う先生。
どこからその当然の話が出て来たのかわかんないんだけど私は先生が戦い方教えてくれるんだと思ってたよ。


「元帥が連れて来たなら自分で面倒見るべきじゃないんですか」
「そうしたいのはやまやまなんだけどさぁ」


「私元帥だからすぐに次の任務に行かなきゃいけないしね」と先生はしれっと続けた。あぁ今にもユー君が師匠に対してブチ切れちゃいそうだよ!


「俺には関係ありません」
「そう言わずにさ。ね、ユー君?」
っだからそのユー君て呼び方ヤメロっつってんだろーが!


ついにユー君がキレてしまい、その怒声に私の肩が大きく跳ねた。おまけに周りにいる人が驚いた顔しながらこっち見てるし。

弟子にブチ切れられて先生は何も思わないんだろうかと思って顔を見て見ると、なんだか凄く楽しそうな顔をしていた。


「(もしかして弟子の反応楽しんでる?)」


だとしたらとんでもない人を師匠にしたんじゃないか私。そう思いながら顔を反らすと、先生は「相変わらずユー君は可愛いなぁ」なんて呟くのが聞こえた。


「でも私が今すぐに次の任務に行かなきゃいけないのは本当だし、いつ帰って来るかもわからない。だからナマエちゃんのこと、よろしく頼むよユー君」
「……………。」
「え、先生。行っちゃうの?」


元帥というのがとても忙しいことも聞いてるけど、まさかもうすぐにお別れしなきゃいけないなんて思わなかった。

「行かないで」と言えるわけがないけど、この数時間で先生が私の拠り所になっていたせいか、急に不安になってしまう。

そんな私の言いたいことがわかったのか、先生は優しい笑顔をしながら私の両頬をゴツゴツした手で挟んでくれた。「ナマエ、」


「大丈夫。君は強い子だ。私が想像してるよりもずっと、ずっとだ」


先生は満足したのか「よしよし」と頭を撫でてくれた。そして「じゃぁ頼んだよユー君」と言って修練場を去って行く。

その背中が見えなくなるまで見送ってから、ザッと踵を返したユー君に声をかける。「あの、」


「ナマエ・ホワイトです。えと、ゆー」
次ユウって呼んだらぶった斬るからな


ギロリと睨まれた。「じゃぁなんて呼べばいいの」って聞きたいとこだけどむしろこれから関わんない方が賢明な判断じゃないかと思う。


「神田だ」
「へ、」


いきなり「神田」と言われても咄嗟に何も返せなくて「へ、」と間の抜けた声しか出てこなかった。

でもまぁきっと彼は神田ユウという名前なんだろう。だがしかしユウって呼ぶと斬られるらしい。


「(……あんまり関わりたくないなぁ)」


兄弟子らしいけど。


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