先生が教団を出て行ってから気付けば二日経っていた。
それまでの間は団服の採寸がなんだイノセンスの加工がなんだと私の周りが忙しなくて、すっかり日付感覚がわかんなくなっていたらしい。

朝食を食べにリナリーと一緒に食堂に行って料理長のジェリィさんにオムライスを頼んだら、それがとても絶品だった。こんなに美味しいものがあるのかと思うくらい。

というか実家がパン屋だったこともあって、三食パン出てくるし、売れ残りが多いときはおかず無しのパンオンリーなんてこともあった。
だからオムライスなんて食べたの何年ぶりか覚えてないくらい食べてなかった。

「今度は何を頼もう」そんな余韻に浸りながら談話室でリナリーとお喋りしていると「あ、いたいた」とリーバーさんが近づいてくるのが見えた。


「ナマエ。今から指令室に来てくれ」
「今からですか?」
「あぁ。お前の分の団服が出来上がったんだよ」


昨日だか一昨日だかに採寸してもう出来上がったのか。作ってくれるのは化学班だって聞いたけども、彼らはちゃんと寝てるんだろうか。
リナリーから兄さんたちは凄く忙しいと聞いたけど、確かに忙しそうだ。

目の下に隈を作ってるリーバーさんに「一緒に行くか?」と言われて「はい」と頷くとリナリーも「私も行ってもいい?」と聞いていた。
ということで、三人で指令室に行くことになった。


「お。来たね」
「お、おはようございますコムイさん」
「おはようナマエちゃん」


リーバーさんと同じような隈を作ってるコムイさんだけど、顔はとても爽やかだ。そうじゃない人もいっぱいいるみたいだけど。


「ナマエちゃんの団服ができたんだよ。はいこれ」
「あ、ありがとございます」


「はい」と渡された黒い服一式とアーミーブーツ。

採寸のときに「どんなのがいい?」と聞かれて、なんて答えればいいのかわかんなかったけど隣にいたリナリーが「私と同じようなのでいいんじゃないかしら」と言ってたから「じゃぁそうしてください」と頼んだ。


「基本はリナリーのと同じにしてあるよ。あ、でもスカートじゃなくてパンツで良かったんだよね?」
「あ、はい」


同じようなのとは言ったものの、彼女と同じミニスカートはちょっと恥ずかしいから動きやすようなショートパンツにしてもらった。

あと、リナリーが履いてるのは彼女のイノセンスで、普段はニーソックスになってるらしく「同じにする?」と言われたけどこれも走りやすそうなアーミーブーツにしてもらうようにお願いしたのだ。
とてもじゃないけどリナリーみたいに脚長くないからニーソックスなんて似合わないだろうし。


「ねぇナマエ。着替えてみたら?」
「そうだな。せっかくだから着替えてくるといい」


リナリーとリーバーさんにそう言われて「じゃぁ」と指令室を出る。着替えるとするなら自室かなやっぱ。

というわけで自室に戻っていそいそと着ていたよれよれのオーバーオールを脱いでタンクトップの上から黒に銀色の装飾がついた団服を羽織る。

ショートパンツをはいてブーツの紐を結び終わってふと気づく。「あれ、フードついてる」


「ナマエー?着替えたー?」
「あ、うん!」


部屋の外から聞こえたリナリーに返事をして慌ててドアを開ける。着替えた私の姿を見てリナリーはニコッと笑って「とっても似合ってるわよ」と言ってくれる。
それに嬉しくなりながら「ありがと」と返しておく。(な、なんか凄い照れる)


「兄さんが着替えたらまた指令室に来てだって」
「あ、うん。わかった」


リナリーと二人で指令室に戻れば、色んな人から「似合ってるな」とか「俺の見立ては間違いじゃなかった!」と言われた。

そしてコムイさんに「じゃぁ次はこれ」と渡されたのはベルトの両脇に丸いケースが二つついたもの。
受け取ってみるとそれは結構な重みがあった。

「ケースを開けてみて」と言われ、素直に開けると正円の真ん中が大きく空いた刃物が入っていた。


「これは?」
「ナマエちゃんのイノセンスだよ。日本では円月輪って呼ばれてる武器らしい」
「え、イノセンスって石だったんじゃ、」
「そう。でも原石のままのイノセンスは扱いが難しいからこうして最適な加工をしてあげるんだ」
「へぇ」


円月輪と呼ばれた刃物を片方のケースから出してみる。一体どうやって使うんだろう。

怪我をしないように持ちながら「これどうやって使うんですか?」と聞いてみると、答えてくれたのはリーバーさんだった。


「資料によると、円月輪っていうのは直径12センチから20センチくらいで指にはさんで投げたり受け取ったりするんだそうだ。お前のは15センチだけどな」
「資料に、よると……?」
「僕たちも最適な形に合わせて加工したから、詳しいことはわからないんだ」


「ましてや日本の武器なんかは特にね」そう言って苦笑いするコムイさん。

加工してくれたことに感謝しなきゃいけないんだろうけど使い方よくわかってないもの渡されても……。

ゆっくり円月輪をケースに仕舞ってからベルトを腰に巻きつける。なんでもケースもちゃんと団服に似合うように考えて作ってくれたんだとか。


「ちなみに、イノセンスには必ず名前があるんだ」
「名前?」
「そうだよ。ナマエちゃんの持つイノセンス……、対AKUMA武器の名前は”言ノ葉”」
「コトノハ………?」


腰の両脇のケースに触りながらもう一度「言ノ葉」と呟く。どういう意味なんだろうか。そう思っているとコムイさんに伝わったのか彼は小さく笑った。


「名前には意味があるからね。いつかその名前の意味がわかると思う」
「…………………、」


そうだと、いいな。


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