あの事件の日から、萩原は私に対して過保護になった。「そんなに心配しなくたって、コイツも警察なんだから大丈夫だろ」と松田が苦々しい顔をするくらいに。「香澄ちゃんは俺に心配されるの迷惑?」と寂しそうに眉を下げられたらNoと答えるしかない。
「まあ、迷惑では無いけど…」と肩を竦めれば「やった」と萩原が嬉しそうに笑って「あんま甘やかすなよ」と松田がため息を吐いた。それから4年後、松田の死に大きく関わる事件が起きる日がやって来た。
何が理由かは分からないけれど萩原の死は回避できた。それなら、松田を失わないために出来ることをしよう。その決意通り、ゴンドラに乗り込もうとした松田の肩を掴んで押し退ける。
「捜一は管轄外でしょ」と呆れたような声で言った私に松田は目を丸くした。ゴンドラに乗り込んで椅子の下に設置された爆弾に向き直る。構造は至ってシンプル。けれど、仕組みは酷く意地の悪いもの。
かかってきた電話に苦笑いを零しながら応答して、怒鳴る松田を宥めながら爆弾の構造と仕組みを伝える。「あと、よろしく」と笑ってもう一つの爆弾の在処を告げた直後にタイマーがゼロになる。
あの時と同じように、体を包んだ熱と衝撃。体を裂かれるような痛みに意識を飛ばして、次に目がめたら、いつも通りの朝だった。「……いや、さすがにおかしい…よね…」と呟いて携帯を見れば、あの日と同じように日付が巻き戻っている。
いくら考えてみても、あの日と同じように答えは分からない。不思議に思いながらも登庁して萩原と話をしていれば「お、陣平ちゃん。おはよ」と萩原が手を上げて、釣られるように振り返ると驚いた顔の松田が立っていた。
「おはよ、松田」と笑って挨拶をすれば、松田は自分の頬を抓りだす。何をしているんだと思いながらも今日の日付を思い出して松田の肩をぽんと叩く。「今日から捜一でしょ。頑張ってね」と笑った私に「……ああ、そうだな」と笑い返した松田の表情は、見たことが無いくらいに優しくて驚いてしまった。
そして、迎えたあの日。同じようにゴンドラにやって来た私が松田の肩を掴もうとした瞬間、くるりと振り返った松田が私の手首を掴んで引き寄せる。「もう一つの爆弾は、お前に任せる」と笑って病院の名前を呟いた松田に驚いたように目を見開く。
私の頭をくしゃりと撫でて、そのままゴンドラに乗り込んだ松田に呆然としていた私だったけれど、ハッと我に返って萩原へと電話をする。松田から聞いた病院名を告げて電話を切り、ゴンドラを見上げた。
その後、無事に合流した松田を見て強烈な違和感に苛まれる。私が感じた熱も、衝撃も、何もかもが幻だったとは思えそうになかったから。