あの事件の日から、萩原に加えて松田まで過保護になった。そんなに心配しなくても、だとか甘やかすな、だとか言ってのはどこの誰だ。「仕事しなさい」とため息を吐いて告げた私に不満そうな顔をしてから渋々仕事に戻る二人を見て再びため息を吐く。
あれから何度も考えているけれど、どうして日付が巻き戻っているのかは分からない。死ぬことで時間が巻き戻るのだとしても、萩原や松田の行動が変わっている理由が分からない。とは言え、分からないことを悶々と考え続けても仕方がない。
早々に考えること辞めた私は、彼らの中でも助けるにあたって最も難易度の高い男のことを考えていた。一筋縄ではいかない事は分かっていたけれど、諦める理由にはならない。「……手当り次第、探すしかないか」とため息を吐いた私は、その日から毎晩のように廃ビルを徘徊した。
路地裏や人通りの少ない道。人目を避ける彼らなら、きっと通るであろう場所をしらみ潰しに探し続けた。そして迎えたあの日、視線の端で動いた影を反射的に追いかけて腕を掴む。
その手を振り払ってから焦ったような顔で振り返った諸伏が、私を見て目を見開く。「なんで…!」と諸伏が発した声に重なって男の声が響く。「ダメだ、ここにいちゃ…!」と焦ったような顔をする諸伏の頬を両手で包んで「大丈夫、彼を信じて」と笑う。
そのまま身を隠そうとした私は運悪く何かに躓いた。ガシャンッ!と錆び付いた柵に体がぶつかって、そのまま重力に従って体が落ちていく。必死な顔で手を伸ばした諸伏にごめん、と呟いて目を閉じる。
体を包む衝撃と痛み。抗うことなく意識を手放して、次に目が覚めたら、いつも通りの朝だった。「……やっぱり、戻ってる…?」と携帯の日付を見て首を傾げた私は、ため息を吐いて頭を抱えた。
お陰でしらみ潰しに探さなくても良くなったという利点はあるけれど、だからと言って手放しで喜べる訳じゃない。とは言え、やはりどれだけ考えても答えが見つかる訳もなく、あの日を迎えてしまう。
今度はもう少しスムーズに助けられるだろうと意気込んでいた私だったけれど、萩原と松田によって足止めを食らってしまった。「今日飲みに行かない?」と誘ってきた萩原と松田は珍しく何度断っても引き下がらない。
「何かあんのかよ」と視線を鋭くした松田にこれ以上は怪しまれてしまうと察してぐっと言葉を飲み込む。「…別に、何も無いけど」と視線を逸らしたが最後、肩を組まれて「じゃあ決まりな」と松田が笑う。
諸伏のことが気がかりで酒の進まない私に、理由を知らないはずの萩原が頻りに「大丈夫だよ」と言う。今の私にはその言葉を信じることしかできなかった。