答えてくれる人は誰も

「この間諸伏ちゃん見かけたぜ〜」と笑った萩原に「えっ本当に?」と目を見開いてしまった。「陣平ちゃんも見たよな?」と聞かれた松田が「ああ、最近連絡無かったけど元気そうだったな」と笑うからホッと息を吐いた。

私は何もしていないけど、生きてたんだ。死なずに済んだんだ。きっと萩原や松田の時と同じように、私が死んだことによって何かが変わったんだ。「そっか、元気そうでよかったよ」と笑った私に二人も同じように笑って返してくれる。

あとは、伊達を救えば物語の中で決まっていた死は全て回避できる。伊達の死はプライベートを装っても十分に助けられる。そんな、ほんの少しの気の緩み。「危ない!」と声を上げて駆け出した私は伊達を突き飛ばして、そのまま突っ込んできた車に撥ねられた。

あ、痛いかも。そう思ったらじわじわと全身が酷く痛んで、意識を飛ばしてしまえたらいいのに、そうもいかない。「ッ香澄!おい!香澄!」と何度も声をかけられて視線を向けて伊達の無事を確認する。

大丈夫だ、と頷いた伊達を見てふっと自分の頬が緩んだのが分かった。物語の中で伊達の死によって引き起こされた、もう一つの悲しい死。それを思い出して「かのじょ、だいじにしなよ、」と呟いて目を閉じる。

呼ばれる名前に返事ができなくて、体はどんどん冷たくなっていく。意識を失ってさえしまえば、楽になれる。穏やかな気持ちで意識を手放した私が、次に目が覚めたら、いつも通りの朝。

そろそろ驚かなくなってきたな、と苦笑いをしながら携帯を開く。彼らの死に関わらず死んだら強くてニューゲームみたいな、そんな不思議な力が私にはあるのかもしれない、と馬鹿みたいなことを考えて苦笑いをする。

「そんな訳ないじゃんね」と誰に言うでも無く呟いてから数日後、やって来たあの日はいとも簡単に覆った。「こんな時間に何してんだ」と呆れた顔で私の前に立った伊達にぽかんとしながら「え…散歩…?」と首を傾げれば「俺に聞くなよ」と苦笑いで返される。

直後、少し先で大きな音がして車が歩道に乗り上げる。「悪い、香澄。通報頼めるか。俺は運転手の容態を確認してくる」と走り出した伊達に「あっうん、了解」と返して手早く通報する。「……やっぱり、変だよな」と首を傾げた私の疑問の声に、答えてくれる人は誰もいなかった。
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