そのまま目を閉じた

公安が主体になって行われた大捕物は、恐らく物語の終幕だった。先陣を切って突っ走って行った我らが首席様が危険な目に遭う可能性は極めて高い。何より私は最終決戦の物語を知らない。

つまり、降谷の身に迫る危険の詳細を把握していないのだ。混乱に乗じて駆け出して降谷の姿を探す。廃倉庫に入っていった降谷の後を追いかけたのは一人の男。嫌な予感がして、廃倉庫に飛び込めばタイミングはバッチリだった。

「バーボン!テメェだけは生かしておけねェ!」と叫んだ男が降谷に向けたのは黒い鉄の塊。降谷と男の間に飛び出したのは反射だった。破裂音と、目の前に散った赤。勢いに耐えられずに傾いた体は降谷に支えられて、そのまま崩れ落ちる。

「ど、うして…君が、」と震える声で私の名前を呼んだ降谷にへらりと笑う。嫌な予感がしたから来てみたら、やっぱり当たってた。そう言いたかったのに、腹部が脈を打って声が出ない。じわじわと痛みで熱が広がっていくのに、何故か酷く寒い。

目を開けているのも辛くて、目を閉じようとすれば降谷が泣きそうな顔で叫ぶ。「香澄頼む、寝るな!おい!」と叫ぶ降谷は、見たことが無いくらいに情けない顔をしていて、重たい体にムチを打って手を動かす。

「だい、じょーぶ、…ッ、ふる、や、…わら、って」と降谷の頬を撫でて、そのまま意識を手放した。きっと目を覚ましたら巻き戻ってるんだろう、なんて安易なことを考えていた私は目が覚めるなり「……これは夢だ」ともう一度目を閉じた。

いつもなら自室で目覚めるはずなのに、今回に限っては綺麗な花畑で目が覚めた。なるほど、とうとう死んだか…と変に納得して頷く。真っ白なワンピースと色とりどりの花。天国なんて勿論行ったことは無いけれど、多分ここなんだろうな。

そう思えてしまうほどに穏やかな場所だった。頬を撫でる温かな風と鼻をくすぐる柔らかな花の匂い。ぼふりと仰向けに寝転がってゆっくりと深呼吸をして、私はそのまま目を閉じた。
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