ずっと、待ってるから

(Side:萩原)

「死なれるのも堪えるけど、ずっと目が覚めないってのもしんどいな」と呟いた俺に全員が言葉に詰まる。分かってる。こんな言い方、最低だって。「ははっ…これじゃ、俺たちの時みたいに死んで、起きてくれって言ってるみたいだな」と自嘲めいた笑みを浮かべた俺に「……んなこと、誰も言ってねぇだろ」と松田が小さな声で言う。

全然、説得力ねぇっつーの。「悪い。頭、冷やしてくるわ」と前髪をくしゃりと握り締めて立ち上がった俺は扉を開けてぴしりと固まった。「いまの、どういうことだ」と呆然とした顔の降谷ちゃんは俺を見てから、そろりと病室に視線を移す。

「俺たちの時みたいにってなんだよ…死んで、起きるってなんだよ…!おい、ハギ!」と声を荒げて俺の肩を掴んだ降谷ちゃんの言葉にぎゅっと唇を噛み締める。「おいゼロ!落ち着け!」と止めに入った伊達の手を振り払って「落ち着けだと!?お前ら何を言ってるのか分かってるのか!?」と悲鳴にも似たような声を上げた降谷ちゃんに「……ああ、分かってるよ」と返す。

「俺たち、降谷ちゃんに黙ってたことがあるんだ」と呟いて病室の中へと降谷ちゃんを促す。ここまで疑心を抱かせて、何も話さない訳にはいかないだろう。そう思ったのは俺も、皆も同じだった。

「最初は、俺な」と肩を竦めた俺がぽつり、ぽつりと話し出す。俺を庇って香澄ちゃんが死んだ後、目が覚めたら過去に戻っていたこと。香澄ちゃんを死なせないために、己の行動を変えたこと。

続けて松田、諸伏ちゃん、伊達も同様に話をすれば、降谷ちゃんの目が見開かれる。「そんな、有り得ないだろ…!だって、」と言葉を詰まらせた降谷ちゃんに「でも、俺が潜入調査から離脱した時にゼロ、言ってたよな。リークされてるって、なんで分かったんだって」と諸伏ちゃんが言う。

ハッとしたように息を飲んでから「まさか、」と震える声が零れて「ああ、そのまさかだよ。俺を庇って香澄ちゃんがビルの屋上から落ちた後、俺が得た情報だ」と諸伏ちゃんが笑う。

「俺らだって、有り得ねぇと思ったよ。でも、目の前で死んだアイツは間違いなく本物だったし、今ここにいる香澄も、間違いなく本物だ」と松田が静かな声で呟いて、香澄ちゃんの頬をするりと撫でる。

あの事件の日から、一ヶ月が経った。起きる気配を見せない香澄ちゃんの姿をずっと見続けるのは、しんどかった。「萩原の気持ちも分からんでも無いんだ。痛いとか、苦しいとか、感じる暇も無く意識を失って、死んで目覚めたら無かったことになってる。その方が楽なんじゃねぇかって、俺も考えたことはあるよ」とドカリと椅子に座って額を押さえた伊達は、いつかの日のように小さく見えた。

「香澄ちゃんに何度も死んでる自覚があるかどうかは分からない。でも、班長が言ったみたいに、痛いとか苦しいとか、そういうのを感じずに済むなら、その方がいいのかなって…俺も、思っちゃうんだよ」と諸伏ちゃんが握り締めた両手に額を押し付けて懺悔するように震える声で呟く。

皆、思っていることは同じだった。もう一度、やり直せれば。「でも、香澄ちゃんにはもう死んで欲しく無いんだよ。コイツらの話を聞いて、どれだけ痛くても、どれだけ苦しくても、生きてて欲しいって…思っちまうのも、本当なんだよ」と呟いて目元を手で覆う。

俺も、皆も、そう思ってる。誰も間違って無くて、誰も正しく無い。正解が何かなんて分からないけれど、ただ一つ言えるのは、俺たちが香澄ちゃんを大事に思ってるってこと。

「別にゼロが悪いとか、香澄が死ねばいいとか、そういうことじゃねぇんだよ。俺らが、ちょっとだけ、不思議な体験をしちまったから…有り得ない奇跡とやらに情けなく縋ってるだけだ」と鼻で笑った松田に激しく同意した。

起こるかどうかも分からない奇跡に縋るなんて、らしくないのは分かってる。皆それぞれ思うところがあって言葉を詰まらせていれば「奇跡は奇跡でも、起きるかどうか分からないと診断された香澄が、明日目覚めるかもしれない奇跡に縋るのはダメじゃないだろ」と降谷ちゃんが凛とした声で言う。

眠り続ける香澄ちゃんの額にそっと手の甲を当てて「僕は、香澄が目覚める奇跡を、何年だろうと待つよ」と柔らかく微笑んだ降谷ちゃんが俺たちを見て「君たちも、そうだろ」と得意げな顔で笑う。

ああ、そうだ。こんなに、簡単なことをどうして忘れてしまっていたんだろう。何度だって、奇跡を起こしてきた。困難も、ピンチも、何だって乗り越えてきた。そして、そこにはいつだって香澄ちゃんがいた。

「は、ははっ…はははっ…!そう、だね」と笑った俺に釣られるように皆の顔にも笑顔が浮かぶ。香澄ちゃん、皆ずっと待ってるよ。また笑ってくれる日まで、ずっと、待ってるから。
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