(Side:伊達)
「危ない!」と声が聞こえてハッと顔をあげると目の前に車が迫っていた。驚くと体が固まると言うのは本当で、避けなければと頭では分かっているのに体は動かなかった。そんな俺を小さな体で突き飛ばしたのは同期の香澄だった。
とん、と押された体。直後、けたたましく響いた衝突音。tkgの悲鳴にも似たような声に、俺は返事が出来なかった。真っ赤な海に沈む、華奢な体。光を失った瞳がうろうろと彷徨って、ぼんやりと俺を見てから微かに光を取り戻す。
慌てて駆け寄って抱き起こすけれど、くたりと力を失った体はどんどん冷たくなっていく。「ッ香澄!おい!香澄!」と何度も声をかけて顔を覗き込む。「ぁ、て…、げほっ、…ぶ、じ…?」と微かに動いた唇から聞こえる声に「あぁ…!俺は何とも無い、お前のおかげだ」と返事をする。
大事な同期を失うかもしれない恐怖に声を震わせる俺を見てふっと頬を緩めて「かのじょ、だいじにしなよ、」と呟いてから、そのまますっと目を閉じた香澄に何度も声をかける。ダメだ、目を開けてくれ。頼む。まだ、逝かないでくれ。
縋るように何度も、何度も。繰り返し名前を呼ぶけれど、溢れる赤は止まらない。どんどん冷たくなっていく体と色を失う顔を見て、どうしたって最悪の想定しかできなかった。「アイツの死はお前のせいじゃない」と全員が口を揃えて言った。
それでも、そう思えなかった。もっと周りに気を配っていれば、あの時体が動いていれば。タラレバを考え出すと止まらなくて、あの日の温度を、景色を、言葉を、忘れることなんてできなかった。夜、眠る度に夢に見て、その度に飛び起きた。
後悔しか無かった。どうして、あの日、助けられなかったのかと。そんな中、久しぶりにアラームがなるまで夢を見なかった。目が覚めて、いつものようにテレビを付けた俺は、ニュース番組を見て驚きを隠せなかった。
既に解決済みの事件が、たった今起きたと報じられている。何度見ても、日付が、時間が、何もかもが巻き戻っていた。それなら、あの日の出来事を覆せる。「事故が起こると分かってて、防げない訳ねぇだろ」と拳を握り締めた。
俺とナタリーの結婚式には絶対に参加するのだと息巻いていたアイツを、二度も死なせてなるものか。理由は分からずとも起こった奇跡を利用しない手など無い。「絶対、死なせねぇからな」と呟いて、誓うように指輪を握り締めた。