(Side:松田)
長らく連絡の取れてなかった男から連絡が来たのは明け方の事だった。『明日、会えないか?』と連絡をもらった俺と萩原は指定された時間に、指定された場所へ向かった。「や、久しぶり」とへらりと笑った諸伏の腹に一発入れた俺は悪くない。
「で?わざわざこんな所に呼び出して何の用?」と首を傾げながらにこやかに笑った萩原を見て俺はそっと目を逸らした。ガチ切れだった。小さい頃から一緒にいる俺でも数回しか見たことの無い、本気で怒った時の顔。
そろりと視線を逸らしたけれど「あー…いや、その、香澄ちゃんのことで話があって…」と言葉を詰まらせた諸伏に、思わず萩原と顔を見合せた。「来週の7日の夜、絶対に香澄ちゃんから目を離さないで欲しいんだ」と真っ直ぐに俺たちを見た諸伏の目は、見たことがあった。
そう感じたのは俺だけじゃなく、萩原も同じだったようで少し考えるように視線を泳がせてから「諸伏ちゃん、一個聞いてもいい?」と首を傾げる。「…答えられることなら」と眉間に皺を寄せた諸伏に「俺の質問の意味が分からなかったらそれでいいよ」と肩を竦めて笑った萩原が諸伏を見て「諸伏ちゃん、戻ってる?」と尋ねる。
事情を知らない人が聞いたら意味の分からない質問。それでも、経験したことがある奴にとっては核心に触れる質問。予想通り諸伏は目を見開いて「…なんで、」と小さな声で呟いた。
「やっぱりな。俺らも、お前と同じだ。戻って、やり直したんだよ」とがりがりと後頭部を掻いて「俺も、萩原も、香澄が死んだ後、アイツが死ぬ前に戻ってんだよ」と告げれば諸伏は「ま、待ってくれ…ッ、じゃあ香澄ちゃんは三回も死んでるってことか?」と泣きそうな顔をする。
萩原と俺はその問いに言葉を返せなかった。それは俺たちもずっと考えていたから。「俺たちの中では、ね。香澄ちゃんにその自覚があるのかどうかは分からないよ」と首を横に振った萩原はそっと目を伏せた。
当然、この疑問を解消する為には香澄本人に聞くしかない。「だからって、死んだことあるか…なんて聞けねぇだろ」と呟いた俺に「そう、だよな…っ悪い」と諸伏が申し訳なさそうに眉を下げる。が、今はそんな話をしている場合じゃない。
「で?来週の7日、お前に何かあるってことだよな?」と諸伏を見れば、こくりと首が縦に振られる。「何かある、と言うよりあった、が正しいな。詳しいことは今は話せない。でも、俺の命日になる日だったあの日は、香澄ちゃんの命日になった。俺はきっかけになった事件そのものが起きないように、今動いてるんだ。だから、間違ってもあの日と同じ場所に香澄ちゃんがやって来ないようにしたい。頼む」と頭を下げた諸伏になるほどな、と納得した。
俺の時も、萩原の時も、アイツは死ぬ前と変わらず、事件現場に現れた。つまり、今回も同じである可能性が高い。「分かった。香澄ちゃんが事件現場に行かないように、俺たちが一緒にいればいいってことね」と頷いた萩原を見て、諸伏がホッと安堵の息を吐く。
が、タダで聞いてやるとは言ってない。「いいか、絶対死ぬなよ。アイツが守った命を無駄にするなんて、俺がぜってェ許さねぇからな」と諸伏を睨み付ければ「あぁ、勿論。香澄ちゃんを死なせる気も、俺自身が死ぬ気も、万が一にも絶対無いよ」とニヤリと笑う。その顔が、何よりもの信頼の証だった。