(Side:萩原)
突然やって来たかと思えば香澄ちゃんをまじまじと見て「元気そうだな」と笑った伊達に違和感を覚えた。「元気だよ?何で?」と首を傾げた香澄ちゃんに「いや、最近忙しそうにしてるって聞いたからどんなもんかと思ってな」と笑った伊達に「忙しいのは私だけじゃないよ」とくすくす笑う香澄ちゃんを見つめる目に、覚えがあった。
ちらりと松田の様子を伺えば、俺と同じことを考えていたようで驚いたような顔で伊達を見ていた。その日の夜、いつかと同じように伊達を呼び出して「意味が分からなかったら、分からないって言ってくれていい」と前置きをした上で「もしかして、班長も戻ってる?」と尋ねれば、瞬時に言葉の意味を理解したらしい伊達は目を見開いた。
「俺も…ってことは、お前らもか?」と驚いた顔をする伊達に「俺と萩原、あと諸伏もだ」と松田が言えば、更に驚いた様子で、ぽかんと口を開けていた。それからテーブルの上で拳を握り締めた伊達がぽつりぽつりと話し始める。
突っ込んできた車から庇うように香澄ちゃんが飛び出してきたこと、溢れる赤と、冷たくなっていく体。あの日の温度が、光景が、頭から離れないのだと項垂れた伊達はいつもよりもずっと小さく見える。それは、当然だろう。
「俺たちと違って、目の前で…だもんな」と小さな声で呟いた俺の隣で松田が舌打ちをする。俺も松田も、確かに香澄ちゃんが爆発に巻き込まれたのは見た。けれど、死ぬ瞬間にそばにいた訳じゃない。
諸伏ちゃんも、俺たちと同じだった。聞いたのは落下した音だけ。その後すぐにその場を離れた諸伏ちゃんは、香澄ちゃんの死だけを伝えられたと言っていた。つまり、俺たちは誰一人として香澄ちゃんの死を直接見ていない。ただ、伊達一人を除いて。
「アイツの元気な姿を見ても、まだ脳裏に過ぎるんだ。あの日の、姿が…ッ、あの事件を乗り越えても、多分、ずっと、忘れられない」と額を押さえた伊達の声は震えていた。
「でも、生きてる。香澄ちゃんを死なせないために、俺たちにはまだ出来ることがある」と伊達の手に自分の手を重ねる。「その為に、戻ったんだ。だから俺もハギも、諸伏も、全員アイツを死なせねぇために、手を尽くした。今度は、お前の番だろ」と松田も同じように手を重ねる。
その言葉にハッとしたように目を見開いて「…そう、だよな」と噛み締めるように呟いた伊達が胸元の服をぎゅっと握り締める。そして、その服の下にあるのは、恐らくチェーンに通して首にかけていた彼女とのお揃いの指輪。
「ナタリーとの結婚式に、アイツを招待するって約束してるんだ。何が何でも、生きててもらわなくちゃ困るよな」と笑った伊達に「じゃないと、いつまで経っても結婚式挙げられねぇぞ」と茶化すように笑えば「ハハッ!呼ばなかったら末代まで祟られるらしいからな」と伊達笑う。
「マジで?アイツそんなこと言ってたのかよ」とけらけら笑う松田に「呼ばれなかったら祟るってベロベロになりながらな」と伊達が苦笑いで返して、三人で笑い合う。俺たちが、こうして笑い合う未来に香澄ちゃんは必要不可欠だった。
もちろん、ここにはいない諸伏ちゃんや降谷ちゃんも必要不可欠。「ちゃんと、全部乗り越えて、また皆で飲みに行こうぜ」と呟いた俺を見て、二人が頬を緩める。「ああ、そうだな」と伊達が笑って頷いて「連絡付かねぇエリート組もな」と松田も悪戯っ子のように笑った。