(Side:降谷)
長年追いかけ続けた大きな事件が、ようやく片付こうとしていた。決して油断をしていた訳じゃない。けれど、背後から狙われていることに、ほんの一瞬だけ気付くのが遅れた。
「バーボン!テメェだけは生かしておけねェ!」と声が響いて、向けられた銃口にハッと息を飲んだ。刹那、僕と男の間に飛び出してきたのは久しぶりに見た同期の姿。パァンッ!と響いた破裂音と、舞い散った赤。
華奢な体がぐらりと傾いて、咄嗟に抱き留めた。僕に銃を向けた男はすぐに取り押さえられたものの、僕は目の前で起きている事実を受け止められなかった。「ど、うして…君が、」と震える声で彼女の名前を呼べば「いやな、よかんが…っしたから、きてみたら…っぅえ、っげほっ、ごほっ…!やっぱり、あたっ、てた…」と咳き込みながら僕を見て彼女が笑う。
腹部から溢れ出す赤に比例するように、彼女の顔色はどんどん悪くなって、冷たくなっていく。「い、やだ…ッ、待ってくれ、頼む、おきてくれ…!香澄!頼む、寝るな!おい!」と何度も呼びかけて、腹部を目一杯押さえつける。
「だい、じょーぶ、…ッ、ふる、や、…わら、って」と僕の頬に手を伸ばした彼女は、そのまま静かに目を閉じる。違う、待ってくれ。頼む、いくな。僕を置いていかないで。ずるりと彼女の手から力が抜けて、ぱたりと落ちる。
ぐったりと意識を失った体をかき抱いて何度も何度も名前を呼ぶ。半ば無理やり、僕から引き剥がされるようにして彼女は病院に運ばれた。「zr、大丈夫か?」と心配そうに僕の隣に座ったヒロに「…あぁ、」と小さな声で返す。大丈夫な、訳が無かった。
「おいゼロ!!」と松田の声が響いて、バタバタと駆け寄ってくる足音が三つ。ゆらりと顔を上げれば全員が泣きそうな顔をしていて、そこで漸く自分の過ちを自覚した。「ぼくの、せいなんだ…ッ、ぼくが、香澄をまきこんだ…!あやまってすむことじゃない、わかってる、わかってる…っ、」と両手で顔を覆った。
助かるかどうか分からない。目の前の手術室での処置が終わるまで安心はできない。死なないでくれ、と願う傍らで巻き込んでしまったことへの罪悪感で押し潰されそうだった。誰も、何も言えないまま時間だけが過ぎていく。
パチリと手術中のランプが消えて、医者がこちらに向かって歩いて来る。まるで、死刑宣告を待っているような気分だった。「先生!香澄ちゃんは…!」と真っ先に尋ねたヒロに、医者は眉を下げて「命は、助かりましたが…目が覚めるかどうかは、分かりません」と僕たちに告げた。
「う、そでしょ」と呆然とした様子で萩原がぺたりと座り込み「ちッくしょう!!」と苛立った様子で松田が壁を殴りつける。「クソッ…!何で香澄ちゃんだけこんな目に…!」と額を押さえた伊達が悔しそうに吐き出して項垂れる横で「なんで…っ、」と言葉を失ったヒロが呆然と立ち尽くす。
僕が撃たれればよかった。こっちの方が死ぬよりよっぽど辛いじゃないか。顔を覆った両手は暫く離せそうになかった。