あべこべの硝子の奥

 色々なことがあった秋学期はあっという間に終わりを告げ、鏡の間にて各々が帰省する国の名を告げている。私も、最低限必要な分の着替えと課された少量の課題、貴重品をなるべくコンパクトに収めて、鏡の間の端で佇んでいた。魔法薬学のホリデー課題は、少し入手困難な薬草が必要だったため、先生に学校にいるうちに植物園で済ますことを推奨されたので、言われた通り早く終わらせたのだ。オクタヴィネル寮生としても、課題は早めに終わらせないと。
 数百人が一気に押し寄せて、鏡に順番に吸い込まれていくのを眺めながら、もう少し人が減ったら帰ろうかな、と思っていたとき、肩をぽんぽんと叩かれた。

「ナマエちゃん」
「あれ、流氷で帰らないんじゃ?」
「それはそうなのですが、僕たちはナマエさんや寮生たちのお見送りに来たんですよ」

 振り返るとフロイド先輩が立っていて、またいつもみたいに少し離れたところに副寮長。もう少し近くに来たらいいのにな、と思いつつも、それはそれで威圧感倍増だ。もっとも、そんな威圧感にとうに慣れてしまって、むしろ安心感すら覚えるようになっているだなんて、入学当初の私は少しも思っていないのだから。

「ナマエちゃんって、どこ出身だっけ?」
「えっと、歓喜の港です」
「歓喜の港……ということは、サムさんと同じですね」

 歓喜の港出身の友人はなかなか少ない。けれど、購買部のサムさんが知りうる範囲での同郷だ。サムさんのことは、ミドルスクール以前からよく「あの名門ナイトレイブンカレッジに歓喜の港うちから教師になった人がいる」とかなんとか、よく耳にはしていた。なんていったって、小さな国だから。実際は教師、というには少し違ったのだけれど。

「なに、ナマエちゃんはウミウマくんと知り合い?」
「私は名前は知ってたんですけど……」

 初めて購買部に顔を出したとき、私の前に何やら買い物をしていた生徒には『Thank you! 小鬼ちゃん』なんて呼んでいて、やっぱり学園には変わった人が多いんだなあ、と思いながら個性的な内装と商品を眺めていたところ、初対面のその人は私を見て『ナマエちゃん。何か探し物かい?』なんて、名前を呼んできた。まあ、驚いたように目を見開いていると、『オレはナマエちゃんと同じ歓喜の港出身なんだ』なんて。けれど今考えれば、学園唯一の女子生徒だし、ある程度情報を把握されているのも当然の話なのか。
 それにしてもウミウマ……ウミウマって、ああ、タツノオトシゴかあ。一人でうんうんと納得していると、フロイド先輩は腕を組んで眉をひそめていた。

「うへぇ、なにそれこっわ」
「けれど小さな町ですし、サムさんだって学園関係者なので当然だと」
「ま、それもそっか」

 まあ、確かにあのときは普通に怖かった。名乗っていないのに出身地や名前まで把握されていたのだから。けれど、今考えれば当たり前といえばそうだし、何よりおかげで購買部に行く度にサムさんと地元トークで盛り上がっていたりする。教師陣も帰省するみたいだし、帰った先でばったり出会う、なんてことも可能性として無きにしも非ずだろう。
 フロイド先輩は穏やかな表情でまた一歩と私に近づくと、少し腰を屈めて私と目線を合わせた。えっ、フロイド先輩ってこんなに気の遣えるひとだったっけ。

「歓喜の港って、あったかい?」
「まあ、賢者の島よりはあったかいかなあ」
「へ〜。オレら毎年アズールとジェイドとホリデー過ごしてるのつまんねぇから、オレもナマエちゃんのとこ行こっかな」

 だめ? 小首を傾げて純粋な、子供みたいな表情でそう言われると少し、困る。そういうフロイド先輩の表情に弱いのは私が一番わかっているし、フロイド先輩だってきっと、確信犯。フロイド先輩が歓喜の港にいるのはそれはそれで楽しそうだけど。すると一歩引いて様子を見ていた副寮長が、一歩、二歩近づいてきた。

「こらフロイド。ナマエさんは不安な学園生活が一旦休み、ようやく会いたかった家族に会えるんですよ。そうやって邪魔をするような真似はいけません」
「つまんねーの。まあ、ナマエちゃんも久しぶりのお家でゆっくりしておいで」
「ありがとうございます」

 頭を撫でられると、なんだかやっぱり少し変。この間みたいに顔の方が熱くなるんじゃなくて、喉奥がきゅうっとする感じ。それで少し下唇を噛むと、それを知ってか知らずか、フロイド先輩は目を細めた。相変わらず綺麗なピアスを揺らして。
 副寮長の言う通り、早くお母さんに会って安心させたいし、安心もしたい。メッセージでやりとりはしていたけれど、最低限で学園生活を楽しんでしまっていたし。でも、たったの二週間、オクタヴィネル寮の皆に会えないのも少し寂しいなあ。

 何やら遠くでドタバタ四人組が騒いでいたのはホリデーを満喫する予定の学園長のせいらしく、いつものことでは? と思いながらも遠くから様子を見守る。するとラギーさんだったりレオナさんだったりハウルだったり、色々な人が監督生たちに挨拶に回る。いや、監督生顔広すぎない? というか、私と人脈が被っている気がする。
 どうせならトラッポラたちにも挨拶してから帰ろうかな、と思っていたけれど、あの人気ぶりを見るにそれは無理そうだ。すると少し遠くに、他より少し小さい、ふわふわ柔らかそうな薄紫をした髪の持ち主を見つけたので、フロイド先輩たちに荷物を預けてそちらに行くことにした。

「盗らないでくださいね」
「わかってるって。なに、なんか盗ってほしいの?」
「そんなわけないじゃないですか」

 そう言ってトランクを、先輩たちが触れないのを確認してからエペルのもとへと駆け寄った。鏡にまだ並び始めたばかりらしく、割と少ない荷物に無理やり持たされたみたいに見える紙袋をぶら下げていた。エペルも、私に話しかけてくれたおかげで今の私があるんだよね。エペルって、見た感じでもクラスメイトにだって距離をとるタイプなのに、話しかけてくれたのは今思い出しても嬉しい。

「エペル」
「あ、ナマエ」

 相変わらず可愛らしいお顔できょとんと私を見つめる。エペルは確か、豊作村だっけ。方言だとか、話しているうちになんとなくめちゃくちゃ田舎なんだろうなということは安易に想像できた。並び始めたばかりのエペルは何か用? と首を傾げたので、挨拶だけ、と返した。たった二週間なのに、大袈裟かな。連絡先だって持って――

「あ、連絡先」
「え?」
「いや、エペルのマジカメアカウント知らないなって……」

 エペルだけじゃない。オクタヴィネル寮の先輩たちの連絡先すら知らない。むしろ仲良くない人の方が、ナイトレイブンカレッジ用に新しくアカウントを作った頃に飛んできたフォローに返していたためアカウントを知っているなんてこともある。だって、エペルも寮長たちも、連絡せずとも毎日会えたから。強いて言うなら、ヴィルさんのアカウントはフォローしている。フォロワー数が桁違いだけれど。
 エペルは私の言葉を聞いてごそごそとポケットからスマホを取り出すと、QRコードを表示させた。いやあ、便利な世の中だ。それを読み取ると、ツヤツヤの林檎アイコンが表示された。

「また暇なときとか、連絡していい? その、課題の進捗とかでもいいし……」
「もちろん。返すのは遅くなるかもしれない、けど」

 エペルって、そんなに頻繁にマジカメとか更新するタイプじゃなさそうだもんな。けれど連絡先を交換できたのが嬉しくて、ついつい口角がゆるんでしまう。エペルも同じ気持ちなら、嬉しいけれど。
 そうこう話しているうちに、あと二人でエペルの番になってしまったので、一歩引いて手を振ると、エペルも控えめに手を振って、その後は振り返ることなく鏡に行き先を告げていた。

 そうして元の、荷物の置いてある場所に行こうとすると、あれ、私のトランクが放置されてフロイド先輩がいなくなっている。一応副寮長が見てくれているみたいだけれど、と少し走り気味に副寮長のところへ行くと、生徒たちが並んでいる闇の鏡から少し離れた、端の方にいた。それも、監督生たちと、それからリドル先輩や他のハーツラビュルの先輩たち。

「何も知らないくせに、口を挟まないでくれないか。不愉快だ」

 あらら、フロイド先輩、何か言っちゃったみたい。副寮長にお礼を言ってトランクを持ち直すと、副寮長もそちらのドタバタ四人組ウィズウツボ金魚コンビのところに近寄っていったので、副寮長の影に隠れるようにして私もなんとなく着いていった。

「ご家庭の事情にむやみに首を突っ込むものではありません」
「えー? だってさあ、ジェイド。いつも同じメンツで年越しすんの、つまんないじゃん。ナマエちゃんも帰っちゃうみたいだし。アズールも、金魚ちゃんなら小さいから飼っていいって言うと思うし〜」
「あー……」

 フロイド先輩ったらまあ、リドル先輩の逆鱗に触れるのがお上手なことで。リドル先輩も整ったお顔をぴく、と引きつらせて、「今、なんとお言いだい?」といつも通りの丁寧な口調で言った。あ、もしかして、これってリドル先輩が金魚ちゃんたる所以を見ることができるのでは!? なんて内心わくわくが止まらない私を見た副寮長は、少しだけ楽しそうに笑っている。お互い良い性格してますね。
 私の期待通り、リドル先輩は顔を次第に赤くさせて、薔薇みたいに真っ赤っかになった。わ、人間って本当にこんなに赤くなるんだ。私も何度か赤面するのは感じるけれど、流石にここまで血が上ることはなかったなあ。

「今すぐ首をはねてやる!!」

 わ、これはまずい。お怒りのリドル先輩を押さえるハーツラビュルのお二人と、それから私はフロイド先輩の腕をくい、と引いてそれ以上は駄目だと遠回しに伝えた。だって副寮長こそ見ているだけでなんとも思っていなさそうだし。事態を収束させようと、髪色が明るいいかにも陽キャみたいな先輩がフロイド先輩たちにどうして帰省しないのかと聞いていた。流氷って、私にはわからないけれど帰るのが大変とかでなく、聞いているだけであまりにも寒い。
 どうやら怒りがおさまったらしいリドル先輩は、腕を組んで鼻を鳴らした。

「フン! オクタヴィネルキミたちと一緒に年越しだなんて、絶対にごめんだね! ボクはこれで失礼する。みな、良いホリデーを。ナマエも気をつけて」
「はい、またホリデー明けに」

 リドル先輩に続いて眼鏡の先輩、それから陽キャ先輩は四人組と記念写真を撮って早速マジカメにアップしているようだった。流石、陽キャ。あ、マジカメといえば。

「トラッポラ、私にもアカウント教えて」
「ん? あ、そういえば持ってなかったね。いいよ」

 ほい、と差し出されたQRを読むと、やたらおしゃれなSNSアイコンという感じのそれが出てきた。さり気なくハート要素も入っているアイコン。トラッポラ、今どき男子っぽいもんなあ、納得。トラッポラと連絡をとることは……まあ余程の暇つぶしくらいならあるかもしれないけれど、特に必要になるのはアレについてだろう。

「クルーウェル先生の隠し撮り送って」
「お前ほんっとあの先生の顔好きな。りょーかい。後で送っとく」
「ありがと〜」

 たまに隣の席になるポムフィオーレ寮生とクルーウェル先生のお綺麗な顔の隠し撮りで盛り上がっていたところ、先生にそれがバレてしまって『どうせ撮るならもっといい感じのときに撮れ』なんて怒られてしまったのだけれど、隠し撮りこその良さがある。一度私のせいでクラスの半数以上参加のクルーウェル先生隠し撮りコンテストが開催されてしまい、先生はまあまあピキっていた。それを先生の担任クラスであるトラッポラたちに伝えたところ、また今度やっとく、と了承してくれたのだ。たまに会うと『今日いい感じの撮れたぜ』なんて言ってくれるのだけれど、それで見せてもらえたことはない。やっとか、と思いながらトラッポラに手を合わせた。

「なにナマエちゃん、イシダイせんせぇのこと好きなの?」
「ん? ふふ、だって顔かっこいいじゃないですか。レオナさんやシルバー先輩もそうだけど」

 まるで面食い発言をしているけれど、スペードも監督生も「確かにそうだ」と頷いている。フロイド先輩はふーん、とも言わずに、私の頭に顎を乗せて手をぶらんと下に垂らして、もう片方の手で私の髪をいじいじしていた。なんだか、面白くなさそうな感じだ。これって、もしかして。

「フロイド先輩、妬いてる?」

 なんて冗談とからかいを含んで見上げると、その動きで私の頭から離れたフロイド先輩は、下から見ても頬をわかりやすく膨らませている。あ、おっきい子供だ。そんなわけねーじゃん、とか、馬鹿にしてんの? なんていう言葉を待って見上げたままにしていると、やっとフロイド先輩から出てきた言葉は、予想の斜め上だった。

「……そうだけど」
「……へっ、」

 その素直さというか、真に受けられたからなのか、私の顔に次第に熱が集まって、学内だから暖かいのもあるだろうけれど、それでも急に暑すぎる。熱すぎる。さっきのリドル先輩ほどではないと思うけれど、きっと私の顔も茹でダコみたいになっていて、頬に手で触れると、心做しかいつもより熱く感じた。

「てか、ナマエは寂しくねぇの?」
「えっ、と……?」
「オレらとホリデー中会えないじゃん」

 なんで、急に呼び捨て? 耳裏、首、頭の中、全部熱くて、熱がありそうだ。これ、トラッポラたちはどういうふうに見ているのだろう。呆れているかな、でも、それをわざわざ見たいとは思えないし、なんとなく見る勇気がない。けれどフロイド先輩の純粋な疑問を投げかけるみたいな、どこか甘ったるさを含んだ声におかしくなりそう。そのおかしさのまま、口をあわあわ動かして、やっとのことで答えを出した。

「寂しい、に決まってる」

 それによってカッと熱くなった顔を誤魔化すみたいに下を向いたけれど、フロイド先輩はわざわざ上を向かせるみたいな真似はせずに、「そっか」とどこか嬉しさを隠しきれないみたいな声色で言った。私は恥ずかしさが隠しきれないのに、なんだか、形勢逆転したみたい。

「ん、ナマエちゃんスマホ貸して」
「えっと、はい」

 フロイド先輩が突然私から離れると私と向き合うかたちになって、大きくて白い手をこちらに差し出した。フロイド先輩の「ん」っていうの、結構好きだなって最近思っていたりもする。
 何をされるのかと若干懸念しつつ、持っていたスマホを差し出してフロイド先輩の手に乗せると、すっと横にスクロールして、どうやらカメラアプリを起動させたらしかった。

「写真、撮ろ。んで、寂しくなったらこれロック画面にでも設定して」
「なんか、……わかりました」

 なんかそれって、カップルみたい。そう思ったのを言わずになんとか飲み込んで、私の背の高さに合わされた液晶を覗く。フロイド先輩は少し屈んでいて、画面内に収まっていた。もちろん今日も安心するいい香りで、けれどいつもより緊張した。
 リップ、塗り直したいな。髪も崩れてるな。どうしよう、と目を泳がせていると、フロイド先輩が私の肩をぐい、と寄せたのが画面を通して見えてしまい、驚きのあまり目を見開いてしまったのに、フロイド先輩はすかさずシャッターを押した。少し長い、色の違う髪が顔にわずかばかりかかって、耳元でしゃら、と音が鳴る。というか、今のは、

「あっ! ず、ずるい! もう一枚!」
「んー? なんで? オレこの写真いいと思うけど」
「私の顔が良くないです! 馬鹿!」
「は? 誰が馬鹿だって?」

 そうしてまた眉をひそめたフロイド先輩に片手で頬を挟まれる。あの表情じゃ後で加工しても盛れようがないじゃないですか! ごめんなひゃい、と言うと、大きな手を離してくれたフロイド先輩は自分のスマホも取り出して、私のスマホは手元に戻ってきた。なんだろうと不思議に思っていると、マジカメのアカウントであろうQRコードを表示させて私の前に突き出す。あ、アカウント交換。これは勝手に私のスマホを触ったりしないんだな、というところはやっぱり、好感度が高い。

「その写真オレにも送って。つかカニちゃんより先にオレに連絡先聞けよ」
「う、……ごめんなさい」

 私の画面に表示されたアイコンは寮服のものとは違うウィングチップで、そういえばフロイド先輩って靴が好きなんだっけ。おしゃれさんだなあ、やっぱり。フロイド先輩は「ありがと」と小さく言ってから、スマホの液晶を見て目を細めると私のアカウントのIDを軽く指先でなぞって、なんだかそれを見て少し背筋が伸びた。また、いつかみたいにゾクッとした。
 というかこれ、他の人の顔見れない。後でからかわれそうな感じもあるし。そう思っていると、副寮長が私の肩を叩いてくれた。なんだろう。

「ナマエさん、僕とも連絡先を交換しておきませんか?」
「あっ、はい! ぜひぜひ」

 そうして今度は私がアカウントを提示して、何やら一瞬ジェイド先輩はそれを見て目を見開いたように見えたけれど、どうしたのかわからないし興味もあまり湧かなかったので、そのまま連絡先を交換した。よく動かしていたアカウントはミドルスクール時代の方だし、これからはこのアカウントがより活発に動きそうだな。アカウント分けておかないと、ミドルスクールのときの友人に何から何まで聞かれるに違いない。
 副寮長のアイコンはフロイド先輩と違ってあまり趣味の良くない……いや、趣味の良いキノコだった。やたら毒々しい色の。寮長のアカウントだけ知らないけれど、またフロイド先輩か副寮長経由で教えてもらえばいいか。副寮長のおかげで収拾がついたようで、スマホをにこにこと眺めて夢中らしいフロイド先輩を横目にほっと胸を撫で下ろすと、トラッポラが私の耳に唇を寄せた。

「なあ、フロイド先輩とナマエちゃんってマジでどういう関係?」
「あ、えっと……友達? みたいな。あ、でも私はやたら気に入られてる、みたいな?」
「ふーん。ま、オレら何見せつけられてんだろーって感じだったわ」

 そうしてトラッポラが私にこそっと提示したのは、フロイド先輩と何やら言い合いをしたりで……やたら楽しそうで良い一枚、というのに相応しい隠し撮りだった。なに、この無駄なテクニック。「後で送っとくわ!」と軽く肩を叩かれると、またフロイド先輩の腕の中、というか、まあ、すっぽりと収まってしまった。私はぬいぐるみか何かか?

「小エビちゃんとアザラシちゃんは、学園に残るの? だったらオクタヴィネルに遊びに来なよ。遊んであげるからさぁ」
「それはいいアイデアだ。楽しいホリデーになりそうですね。いつでもお待ちしていますよ。では、僕たちはナマエさんのお見送りに行くので」
「わ、ばいばい、ドタバタ四人組〜!」
「ドタバタ四人組って……僕たちのことか!?」

 フロイド先輩と副寮長のありがた〜いお言葉に震えるグリムたちを後ろ目にしながら、随分空いた鏡の前に移動させられる。確か闇の鏡に行き先を告げたら、って浮かれた学園長がそう言っていた気がする。よいしょ、とトランクを持ち直して、鏡の前に行く直前にフロイド先輩が私の前に、私の目線の高さに合わせて屈んで、ゆっくりと髪を撫でた。あ、もう、またこうやって。

「寂しくなったらいつでも連絡しなよ」
「はい」
「じゃあ、良いホリデーを」
「はい、二人とも良いホリデーを」

 そうして両手でトランクを持ったまま、深く頭を下げてから闇の鏡に行き先を告げる。まさか、この時期になって怒涛のアカウント交換ラッシュになるとは思わなかったなあ。ふざけた感じのじゃなくて、いい感じの写真を投稿するようにしないと。けれど、おかげで二週間という短いホリデーは、寂しさなんて感じずに過ごせそうだ。
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